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最近流行りのグロースハックって何?

2015/04/21

自己紹介と連載内容

はじめまして。片山と申します。今回連載の機会をいただいたので、自己紹介から話に入っていきたいと思います。

私は学生時代からウェブサービスを作り続けて、電通入社後もウェブサービスやスマートデバイスのアプリケーションサービス(以下:アプリ)の事業企画・新規制作から既存サービスの運用・拡大までプロデューサーとして幅広く担当して、チームや協力会社さんと日々奮闘しています。

この連載では、実際にそんな仕事の中で向き合っていることや普段考えたことをベースにして、主にウェブサービスやアプリの分野での「グロースハック」の考え方を取り入れながら事業開発のトレンドや事例を取り上げていこうと考えています。

グロースハックとは?

まず今回は「グロースハック」という概念を紹介したいと思います。皆さんはEコマースサイト画面の構成が頻繁に/アクセスするたびに変わっていたり、ソーシャルゲームやドロップボックスなどのツールに友人を招待して課金アイテムや特典をもらったり、景品に釣られてアプリのレビューの☆マークを5つにしたことはないでしょうか。

上に述べたことはあくまで表面的な例ではありますが、こういった主に開発の面で工夫をして、商品・サービスの改善をモニタリングしながらその商品・サービスを成長させることをグロースハックと言っています。

昨今、ITサービス(特にTo C向け)業界を中心に、この言葉は浸透してきています。最近はベンチャー企業でもグロースハッカー(=グロースハックをする人)の求人が出るくらい、職種としても認められ始めていますが、そうとは言っても、読者の皆様の中には、まだまだ聞いたことが無いという方も多いのではないでしょうか。

(以前、電通モダンコミュニケーションラボによる書評コラムでも一度ご紹介しています。 http://dentsu-ho.com/articles/639

グロースハックは比較的新しい概念なので、例えば「マーケティング」が各国などにある「マーケティング協会」という公的・中立機関で言葉の定義がされているのとは異なり、現在何か公的機関が定めている定義などはありません。

ですので、参考に外部の説明を下記に2つ紹介します。下記に共通している要素を私の理解も入れてひもとく形で概念を次章以降にまとめてみました。

説明1:ファッションアプリiQONをリリースしているVASILY社のブログの記事より。
「数値やユーザーの声を分析し、ユーザーの数や質をGrowthさせる仕組みをプロダクトの中に組み込んでしまうこと」(出典:http://growthhack.vasily.jp/2014/05/ultimate-guide-for-growthhack/#定義

説明2:KaizenPlatform社が、オンライン学習プラットフォームSchooで展開した講義「【グロースハックとは?】Kaizen Platformに学ぶ成果につなげるサービス改善手法」のサマリーより。
「グロースハックとは「時間×お金→成長」の→部分の転換効率を上げること」(出典:https://schoo.jp/design/article/79

グロースハックの3つのポイント

前章の説明2は説明1よりも広義的です。しかし、この2つの説明には共通部分があり、それがグロースハックを理解する上で重要なエッセンスだと考えています。

まず、マーケティングだけではなく「プロダクトやサービスの開発も含めて視点が向いている」という点です。例えば広告の場合、完成された商品をいかにターゲットの生活者へ効率的に訴求していくのかを考えます。しかし、グロースハックにおいてはサービスやプロダクト自体を生活者へあわせて変えていく(=ハックしていく)ことも念頭に考えていきます。

グロースハックには、市場やユーザーニーズにあわせてサービス設計をしていくという志向性があります。つまり、最初に作った時と現状でニーズが変わった場合には、柔軟にマーケティング戦略や広報戦略だけではなく、製品の改善や設計変更をして作り直す優先順位も成長の度合いやリソースに応じて最適な効率を意識して進めていきます。

次に2点目としては、グロースハックのいわゆる「グロース」に当たる部分、すなわち(商品やサービスの事業の)成長がゴールになっている点があります。その成長のモニタリングとして、主にウェブサービスやアプリで使われる分析フレームワークであるAAARR(アーと読みます)モデルは有名です。

AARRRモデルの図
図:AARRRモデル

AARRRモデルは米国の500 StartupsというベンチャーキャピタルのDave McClure氏が提唱したフレームワークで、サービスの成長を①獲得、②活性化、③継続、④紹介、⑤収益の5つに分けて分析していく方法です。①と④がユーザーの量、②と④がユーザーの質に寄与する成長指標になっており、最終的に事業として⑤として売り上げや収益性を上げていくというものです。その中で重要な部分をKGI(施策のゴールになる評価指標)として定めて、それをモニタリングする指標をKPI(施策の中間評価指標)として設定して成長のボトルネックを解消させていきます。

最後に、それとも関連しますが、データによる仮説検証や分析に重きが置かれています。特にデータ項目としてユーザーの声やログデータを大事にしています。私がグロースハックジャパンというメディアで連載している「現場のグロースハッカーとの座談会」でも、彼らグロースハッカーがユーザーを非常に大切にしている様子がわかります。データを見ていく中で費用対効果も定量的に施策ごとにモニタリングしていき、できるだけ費用の負担が少ないようにします。

ここまでのことをまとめると以下のように考えることができます。

グロースハックの3つのポイント

以上のように、商品・サービスの設計や開発的な工夫に重きを置き、データを分析・モニタリングしながらサービスを成長させる手法およびマインドセットをグロースハックは指していると考えています。

グロースハックで具体的に何をするのか

では、実際にウェブサービスやアプリの成長のために「グロースハックをしていこう!」となった時に、具体的に何をすればいいのかというのは非常に悩ましいところです。この言葉を意識しなくともグロースハックは包括的にサービスの成長そのものを目指していく取り組みなので、本格的にやっていくと非常に奥深くて泥臭い作業の繰り返しで、しかも全体設計を行う難易度も高い活動です。

例えば目的であるサービス成長への課題はサービスによって大きく異なりますし、改善点の仮説設定のセンスも非常に重要です。そしてもちろん、ウェブサービスやアプリの場合はシステムをいじる必要が出てくる可能性もあるため、プログラミングの知識理解もあるといいでしょう。さらに場合によっては、そのチーム組織編成を変えることで成果が上がる可能性もあるということで、組織体制まで手を入れた方がいい場合さえもあります。以降ではグロースハックのTo Doをより体系的に整理していこうと思います。まずグロースハックの全体の活動プロセス自体は以下の通りシンプルだと考えています。

グロースハックのプロセス

まず、核となる使いたくなるサービスや機能を作ります。(ユーザーが使いたくなるサービスがあることが前提です)。そして、それを運用していく中で課題を見つけて現状を把握します。次にそれを解決する仮説とKPIを立てます。そして改善する機能やサービスの設計をしていき検証します。最後にその数値改善が見られる形を実装して改善していきます。グロースハックは成長を目的に商品・サービス内に手を入れることも志向しておりますので、必要に応じて改善だけではなく、商品・サービス全体の作り直しに戻ることもありえます(図の点線)。グロースハックとはサービス改善のPDCAを高速で回すといったことに他ならないのですが、サービスの本質的な価値を見つめなおすこともグロースハックの手段として重要だということです。

具体的な改善の手段はプロダクトの設計と同様に階層性があると考えています。今回の連載ではウェブサービスやアプリのグロースハックが対象ですので、それで考えて整理すると以下になります。

ウェブサービスやアプリのグロースハック手段の階層的整理

まず、計測できる成長・改善が前提のため、全体を支える分析トラッキングのレイヤーが存在します。ユーザー情報、ログを必要に応じて取っていきます。分析ツールでモニタリングをしていくことがインフラとして根幹にあります。時にはその分析ツール自体を変更することも考えられます。今後の連載で具体的なツールも必要に応じてご紹介いたします。

そして、機能改善レイヤーです。例えばページのUI(ユーザーインターフェース。ボタンの大きさやレイアウトなど、表示や入力に関わる操作感や画面構成の総称)変更もわかりやすい改善です。ABテストやLPO(ユーザーを最初に誘引するページの最適化)、サーバーのアップグレード、サービス内キャンペーンやセールの実施、アプリの場合はプッシュ通知の実装や配信強化、お問い合わせページなどフォームのデザイン最適化、新規ユーザー用の招待コードの実装、初回チュートリアルの改善、サポートQ&Aの設置など、ソースコードを書き換えて、単体の機能改善を実施することを指しています。

前述の通りグロースハックは非常に包括的な手法全体とマインドセットを指しているので「ABテストをしたから、グロースハックだ!」というと、部分的には正解かもしれませんが、この全体像があった上でABテストをはじめとした手段があるという位置づけなのです。

もう1つ上のレイヤーは設計変更レイヤーと呼んでいます。例えば課金のページまでの導線設計の変更や、サーバー構成の最適化、SEOによる全てのページのコード書き換えとテンプレート変更、全体のデザイン刷新など、サービスの複数機能や全体へ影響を及ぼす範囲を変更する方法です。ただ、例えばソーシャルゲームの招待コードを新規に入れるとなった場合は、データベースの構成も変えないといけないですし、場合によってはサーバーのスケールアップを検討した方がユーザーへの体験価値が向上するかもしれないなど、機能改善レイヤーとの垣根はあまりない場合もあり、密接にかかわっています。

最後は戦略レイヤーと言っています。ニーズの再定義や会話で言うと、「そもそもこのサービスをユーザーが欲しがっているのか」「このサービスのユーザー体験価値は何なのか」「競合との中でどういう位置づけなのか」といったことや、チームに着眼して「このチームのエンジニアの人数は最適なのだろうか」など、そもそものサービスやプロダクトの存在や運営全体を考え直すことも見落としがちですが重要なグロースハックの手段です。

以上のように、結局グロースハック自体が「サービスやプロダクトの成長のために(主に開発面で)何でもするぞ」ということで、私が作った上記の図も全ての手段がまだ捉えきれていないと思います。そのくらいグロースハックという手法は包括的なのです。

グロースハッカーへの注目と結び

このように網羅的に示してみると、「グロースハッカー」はエンジニアとマーケターの持つスキルセットを両方備えた、これまでにない人種であるということが改めてわかると思います。

一方で例えばグロースハックの手段のひとつとしてご紹介したSEOはインターネットが出てから既に10年以上前からあった考え方ですし、LPOはダイレクトマーケティングの世界でもすでに普及している手法です。数値を見てサービスを改善することに関しては、例えばトヨタの「カイゼン」もそうですが、ものづくりの世界でもずっと昔から考えられて行われてきたものです。

つまり、手段としてはこれまでウェブサービスやアプリの事業者のプロデューサーやエンジニアがやってきたことや考えてきたことなのであって、その意味では個別の施策ベースには特別に新しいスキルが要求されるようなものではないとも言えます。

一方で、ウェブサービスやアプリが飽和してくる中で、こういった施策を包括的に考えてサービスを成長させ、自社のサービスを際立たせる重要性が増したことでこの言葉が出てきたのではと考えています。

「ビックデータ活用」の普及により「データサイエンティスト」が必要になったのと同じように、これから「グロースハック」がさらに浸透していくにつれて「グロースハッカー」はもっと注目されていくと思います。

次回以降でもこのグロースハックに着眼しながら、より上のレイヤーである事業開発まで話を広げていきます。