国の関与が最も少ない、米国と日本の機能性表示制度
瀧澤:まず、日本の機能性表示制度が、各国の制度と比較してどのようなポジションにあるのか伺えますか。
武田:食品の機能性表示は、WHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)が一緒に作った「コーデックス」という国際的なルールがあるのですが、ヘルスクレーム(健康強調表示)は、①栄養素機能強調表示②その他の機能強調表示(米国では「構造/機能強調表示」)③疾病リスク低減表示―の3段階に分かれています。
さらに制度的な側面からは、①国が規格基準をつくる規格基準型②国が個別審査して許可する個別評価型③民間企業が国に届けを出す届け出制―の3タイプに分かれます。その分類に従って、各国の制度を配したのが下の図です。
【図1】
ご覧になって分かるように、米国のダイエタリーサプリメント健康教育法(DSHEA)に基づく制度と、日本の機能性表示制度は、ヘルスクレームにおいては「その他の機能強調表示」、制度的な側面では「届け出制」というポジションになります。国の関与が極めて低い、この2国の届け出制度は、世界的に見れば非常に特異なケースと言っていいでしょう。
健康維持が国家財政に直結することを宣言した米国
瀧澤:米国の制度の重要なポイントは何でしょうか。
武田:米国の制度は、消費者の健康上の利益のために、また国家の医療費削減への貢献のために定められた教育法であると、明確に位置付けられています。単なる表示制度ではなく、消費者を啓発することを制度の理念としているわけですね。
瀧澤:米国での制度成立の背景には、どのような問題意識があったのでしょうか。
武田:法案が連邦議会を通過するときに明示された15項目の付帯事項を見ると、当時の米政府の問題意識や、制度の狙いがよく分かります。主な項目を紹介しますと――。
【図2】
➊米国民の健康状態の改善が合衆国連邦政府の最優先課題である。
➋ある種の栄養成分とダイエタリーサプリメントの摂取は、癌、心臓病、及び骨粗鬆症等の成人病の予防に関連している。また、慢性疾患のいくつかは、野菜、植物由来の食品を中心とした食事で予防可能である。
➌セルフメディケーション、健康に対する知識の向上、十分な栄養摂取、ダイエタリーサプリメントの適切な使用等は、慢性疾患の発症率の低減、介護費削減に貢献する。
➍健康的なライフスタイルは、寿命を延ばすだけではなく、医療費を削減する。医療費削減は、米国の将来にとって最重要課題で、経済的発展の基礎となる。
➎ダイエタリーサプリメントの健康に対する有効性を示す科学研究の情報を知らせ、その知識に基づき消費者が予防的健康管理対策を選択できるようにするべきである。
➏連邦政府は製品の安全性を欠く/品質不良製品には迅速な処置が求められるが、同時に 不合理な制約で、消費者への安全な製品や正確な情報を制約、遅延させてはならない。
武田:施行から4年ほどは前年比13~14%という高い伸長率を維持しました。しかし、1990年代後半と2000年代の前半に急激に落ち込みました。表示詐称など、ルールを守らない企業が続出したことや健康被害が起きたことなどが原因ですが、いくら科学的な根拠に裏付けられた表示をしたとしても、一部の企業の不祥事で、消費者の信用は一気に失われてしまうことを如実に物語っています。また、成長率が鈍化したもう一つの理由に、当時、学術界からサプリメントに対する否定的な論文が幾つか出たことも挙げられます。誇大広告が目立って、それに対して科学者の立場から一石を投じた側面があったのではないかと思います。ただし、そういう事態はあったとしても、制度施行後から近年までのサプリメントの市場規模は一貫して伸びています。年間の平均成長率は8%程度で、日本よりもはるかに高い成長率を20年以上続けています。
米国の制度の成功・失敗に学んだ日本の新制度
瀧澤:米国の機能性表示制度が優れているのはどのような点だとお考えですか?
【図3】