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食品の機能性表示制度で広がるビジネスチャンス②
~“20年先行く”米国ヘルスケア市場の変遷とビジネス事例~中編

2015/04/28

4月1日に食品の機能性表示制度が施行された。44年ぶりの大改定といわれている今回の新制度。その施行によって日本市場はどうなっていくのか。ビジネスチャンスはどのように広がっていくのか。電通ヘルスケアチームのメンバーが有識者に話を聞いた。


日本の食品の機能性表示制度は、米国のダイエタリーサプリメント制度を参考に検討が重ねられてきました。米国で機能性表示が導入されたのが、今から約20年前。それ以降、米国のヘルスケア市場はどう変貌を遂げたのか。また、日本市場との共通点と相違点は何なのか。健康食品のグローバル市場に詳しいグローバルニュートリショングループの武田猛氏に聞いた。

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米国では、医師が自らサプリを摂取して患者に推奨している

瀧澤:機能性表示制度の日米の比較をしていただきましたが、話をもう少し広げて、健康食品の市場性やコミュニケーションに関わることをお伺いします。まず、販売チャネルや商品カテゴリーの違いなどについて教えてください。

武田:販売チャネルについては日米に大きな違いがあります。日本では、通信販売が半分以上で、それに次ぐ訪問販売が約26%。全体の8割近くが無店舗販売で占められています。それに対して、米国では、ナチュラル・ヘルス・フード・ストアといわれる自然食品店の比重が高くなっています。ドラッグストアやスーパーマーケットなどのフード・ドラッグ・マス・チャネルと合わせると、約65%が店舗販売です。通信販売やインターネットは合わせて10%程度にすぎません(【図1】参照)。

【図1】

図表1
 

他に米国で特徴的なのは、医療従事者による販売が一定割合を占めていることですね。医療従事者というのは医師や薬剤師ですが、米国ではクリニックでサプリメントが販売されていて、しかも、医師が自ら摂取して、患者にも推奨するというケースが非常に多いのです。診療科別にみると、皮膚科の医師は75%がサプリを自ら摂取して、66%が患者さんにも推奨しています。心臓専門医も半数以上が自ら摂取して、7割以上が患者に推奨。整形外科も7割以上が自ら摂取して、9割が患者に推奨しています。医師の半数以上が4年から10年、継続してサプリメントを摂取しているといいますから、効果のほどを自ら実感した上で患者に薦めているわけですね。機能性表示の新制度が始まった日本では、今後、科学的根拠を示すことで、どこまで医療従事者に支持されるかも非常に大きなポイントになると思います。

米国の市場拡大を後押ししている健康情報サイト

瀧澤:サプリメントの売れ筋について、日米の比較で特徴的なことはありますか。

武田:日本では青汁が、グルコサミンと並んでトップを占めていますが、黒酢やブルーベリー、ローヤルゼリーなども人気であることを考えると、天然素材由来の成分を好む傾向があると言っていいでしょう。対して米国ではマルチビタミンやプロテインを中心としたいわゆるスポーツ栄養食品に人気が集まります。次いで多いのがビタミンやプロバイオティクス。やはりエビデンスに基づいた素材が支持されているといえます。特にここ数年非常に伸びているのは、プロバイオティクスや魚油ですね。

瀧澤:伸びている素材は、機能性に関する新たなデータをきっかけに注目されたということでしょうか。

武田氏

武田:おっしゃる通りですね。特に魚油カプセルに含まれるオメガ3脂肪酸に関しては、2000年以降、急激に伸びています。それから、ビタミンDもここ数年で7倍近くに成長している市場です。その成長を後押ししているのが、機能性情報を伝えるメディアの存在です。米国の消費者の多くは、ネットの健康情報サイトなどから情報を得ています。サイエンスライターがたくさんいて、論文を読み込んだ彼らが、評価情報を分かりやすく情報発信しています。

瀧澤:米国の消費者は、根拠となるデータや情報を探して学ぶことに慣れているのかもしれません。

武田:はい。米国の消費者は、いろんな情報を見て、納得・理解して使う傾向が強いので、たとえ効果を体感していなくても、摂取を継続するモチベーションになったりします。日本の場合は、これまで情報が十分に提供されていなかったので、どうしても体感できないものは続かないという傾向が強かったのではないかと思います。今後はそのへんも変わっていくのではないでしょうか。


食品の機能性表示制度とは

4月から食品の機能性表示制度が始まりました。安全性と機能性の根拠となる科学的データがあれば、消費者庁に届け出ることで“事業者の責任において”、食品の機能性に関して表示ができるようになるこの制度。機能性表示食品は、早いもので6月ごろから店頭に並ぶことになります。

<新制度のポイント>
1.トクホとは異なり、国が安全性と機能性の審査を行いません。科学的根拠の内容・説明、科学的根拠と表示内容に乖離(かいり)がないことなどは、事業者の責任となります。
2.消費者庁に販売日の60日前までに届け出なければなりません。届け出た資料は、一部を除き消費者庁のサイトで全て開示され、他の事業者や消費者が内容を確認できます。
3.生鮮食品を含め、全ての食品が対象※となります。従って、食品・飲料メーカーだけでなく、機能性素材メーカー、商社、農家などさまざまな業種の参入が予想されます。

※アルコールを含む飲料、脂質やナトリウムの過剰摂取につながる食品などは対象外になります。
 

<機能性表示のポイント>
健康の維持・増進にどのような効果があるかを表示できます。
例えば、「目の健康を維持する」「良質な睡眠をサポートする」など、体の特定の部位の表示も可能。「糖尿病の人に」「高血圧の人向けに」といった、疾病の治療・予防効果を暗示する表現や、「増毛」「美白」といった、健康の維持・増進の範囲を超えた表現はできません。


電通ヘルスケアチーム

生活者視点とクリエーティビティーを強みに、「健康先進国日本」の実現とそれに向けた企業サポート業務を行っています。重要テーマの一つ「食品の機能性表示制度」については、さらに専門チームを立ち上げ、関連企業のコンサルティングやコミュニケーション業務などのサービスを提供しています。


バックナンバー
 
【食品の機能性表示制度で広がるビジネスチャンス①】
~新制度成立の背景と今後の見通し~前編[2015.04.23]
~新制度成立の背景と今後の見通し~後編[2015.04.24]
 
【食品の機能性表示制度で広がるビジネスチャンス②】
~“20年先行く”米国ヘルスケア市場の変遷とビジネス事例~前編[2015.04.27]
~“20年先行く”米国ヘルスケア市場の変遷とビジネス事例~中編[2015.04.28]
~“20年先行く”米国ヘルスケア市場の変遷とビジネス事例~後編[2015.04.29]
 
【食品の機能性表示制度で広がるビジネスチャンス③】
~新制度で広がる機能性表示食品市場の展望と課題~前編[2015.04.30]
~新制度で広がる機能性表示食品市場の展望と課題~後編[2015.05.01]