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Dentsu Design TalkNo.51

誰が、電通人をつくるのか。(後編)

2015/06/06

1977年電通入社。クリエーティブとして多くのキャンペーンを手掛け、役員就任、この3月に電通特命顧問を退任するまで、白土謙二さんは経営・事業戦略からブランドコミュニケーション、企業カルチャーの変革まで、数多くの企業やNGO・NPOの仕事に携わってきた。
強烈な個性の先輩クリエーターや企業のリーダーに出会い、共に仕事に取り組んできた38年間の電通生活を振り返り、若い電通人に向けたメッセージとして、最後の講演が行われた。自身の成長につながった50人を紹介した講演のダイジェストの後編をお届けする。

企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀

 

 

営業は優れたゼネラルプロデューサーたれ

 

電通の大先輩の吉田秀雄社長は、話したことをそのまま口述筆記すると原稿になって出版できるといわれた人です。僕が一番印象に残っているのは、「本質を知れ」という講演を幹部会で営業に向けてした時の記録です。
その中で、「電通の社員同士がクリエーティビティーについて議論しなくなったら、この会社は衰退する」と言った。営業に向けて言われたことがすごいなと思いました。クリエーティビティーが関係するのはクリエーティブ局だけではない。人事でも総務でも営業でも、これまでよりもっと良くなるやり方はないかと考えなくなったら、この会社は終わりだということです。


若い仲間をひとり紹介します。関西電通にいた敏腕営業マンの彼とは、15年ぐらい前に戦略営業で関西や中部を回っている時に知り合いました。

ある時、彼が担当するクライアントについて「白土さん、役員室の扉を開けることができますか?」と聞かれました。役員の方々が、会長からの全事業見直しの指示に対して、何をすればいいのか分からずに困っていると聞いたというのです。ドアを開けるのはいいけれど、自分は担当にはなれないよ、と伝えました。
すると彼は「ドアさえ開けてもらえば、自分が本当の悩みを聞き出して、後はなんとかします」と言うんです。

お世辞じゃなく、電通は営業の会社であり、営業は優れたプロデューサーだと思っています。
それも、社会をどう見て、どういうテーマで誰に何をやってもらえばいいかを全部決めていくゼネラルプロデューサーです。長い時間軸で考えられて、視野が広く、深い経験値を積んでいける人。
そして、失敗した時には「ごめん」と謝る勇気を持ち合せたゼネラルプロデューサーが営業にいてくれたら、クリエーターはどんなに大きな仕事でも恐れずに取り組むことができます。

 

知的好奇心とチャレンジ精神が原動力になる

ライバルの存在は励みになります。HAKUHODO DESIGN社長の永井一史さんとは、僕がボランティアでやっているNPOやNGOのキャンペーンで何度かご一緒してきました。

ある時、永井さんが私との対談の最中に、「白土さんは完璧に博報堂です。明日転職してきても何の違和感もなく仕事ができますよ」と言われたんです。
僕の企画書の型のベースのひとつには、確かに博報堂の企画書があり、僕は“ひとり博報堂”をずっと自称してきたほどです。博報堂はマーケティングとクリエーティブがチームで動きますが、僕はそれをひとりでやっているという意味です。そういういきさつを一切知らない永井さんが認めてくれたのは、本当にうれしかった。


型があるからプロなんです。亡くなった歌舞伎俳優の十代目坂東三津五郎さんが言っていました。「歌舞伎は伝統芸能ではない。伝承芸能だ」と。伝統的な型を身につけ、それを乗り越えて型を破り、そしてそれらをまた受け継いでいく。それがプロなのです。


映画製作・配給会社のあるディレクターはものすごくアタマが切れる。
その方が、僕のことを茶化して「白土さんは広告界のガンジーです」と、クライアントに紹介したんです。ヘアスタイルや風貌が似ているからでしょうか(笑)。そのクライアントが僕に色々な要求を出すんです。僕はそれを真面目に聞いてメモをとります。
でも、試写を見ると全然直っていない。クライアントが「白土さんは謙虚だけど、要求したことを何もやってくれないんだよね」とその方にこぼしたんです。
そしたら、「だからガンジーだって言ったでしょう。無抵抗だけど服従はしないんですよ」と。本質を見抜く目を持った方だと思います。


大手飲料メーカーで90年代に名物宣伝部長として活躍されたある方とバーでご一緒しているとき、「白土さんは僕と話をするとき、電通の利益を計算して発言しているんだよね?」と聞かれたので、僕は入社以来一度も社章をつけてクライアントに伺ったことがないという話をしました。「自分は普段から御社の商品を買いますし、他社とも比較します。常にふつうのお客さまの代表としてクライアントを訪ねているつもりなので社章はつけないのだ」と説明しました。

どんなに偉大な会長や、神様みたいな社長でも、お客さまには勝てません。
「私はお客です」と言えば、私に「ふざけるな!」と言える社長はひとりもいないはずです。


最後に、私のゼミの先生で立教大学の総長にもなられた尾形典男先生を紹介します。
尾形先生には思考の型を教わりました。政治思想史のゼミで、文献を読み、それに対する考えを発表して議論するという内容でした。先生から教わったのは「もっと自分のアタマとコトバで考えろ」ということです。著者が正しいことを書いているとは限らない。
まずは疑って、そこから自分のアタマとコトバでよく考え、実際に試してみて本当に良かったことだけ取り入れることを教わりました。

電通入社後も、尾形先生の教えを守り、どんなに素晴らしい教えでも、自分で試してみて、良いと思ったものだけを「実戦知」として取り入れてきたつもりです。


自分には才能はありません。
だから、人と会って、その教えとエネルギーを得て、それを指針にしてやってきました。たくさんの人に会って、物事がなぜそうなっているのか、自分の目で確かめてきました。頼まれもしないのに提案に行くおせっかいもしてきました。それでも僕のエネルギーはまだまだ小さい。多くの先達を見ていると、異能の人というのは、色々なカテゴリーにもの凄い知的好奇心を発揮していたなと思います。

残念ながら、そういう人たちは少しずつ少なくなっています。
けれど、そういう人たちがいたということを、ぜひ忘れないでほしい。
たくさんの方々に支えられて、僕は興味があることを思いきりやってこられました。皆が多様なチャレンジをすれば、それはお互いへの知的な刺激となり、もっと面白いことができる会社になっていくはずです。
それぞれがひとつのジャンルでいい、知的好奇心やチャレンジする気持ちを忘れないで、頑張っていただきたいと思います。

<完>

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