ユーザーと一緒にコンテンツをつくるには
2015/06/10
「コンテンツマーケティングの現場から」対談第3弾は、少し目線を変えて、一般の生活者にコンテンツづくりにどう参加してもらうか。生活者の声を源泉としたグルメ情報サービスを展開されているRetty社長の武田 和也さんに、その核心についてうかがいました。Rettyは、第3世代のグルメサイトとして注目されており、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いで毎月100万人以上ものペースでユーザーが増えているサービスです。
武田:結局、サービスというのは何かの課題解決と思うんです。Rettyの場合、サービスをリリースしたのが2011年6月。帰国したら起業をする前提で、その前の1年間アメリカで滞在している中で、どんなことをやろうか考えていました。その中でスマートフォンのようなモバイルデバイスが生活をどんどん変えていること、FacebookやTwitterなどSNSが日本にも本格的に根付くだろうことは、すぐに確信になっていきました。
郡司:なるほど。
武田:そのうえで、どんな課題を解決したいかを考えた。前職はインターネットを利用した広告関連の仕事をしていて、自分の上司に、会食をするときのお店を聞いていたんです。
郡司:IT業界は、広告業界ほど「ノミニケーション」が盛んではないというイメージだったのですが。やはり、会食のニーズって業界を問わず普遍のものですよね。
武田:皆さんも同じと思うんですが、良いお店かどうかは信頼している人の情報がいちばん確度が高い。というのも人の好みはバラバラだし、その目的も状況によって変わる。会食でグルメ情報を欲しい人もいれば、とにかく「おいしい」を追求し、店の雰囲気などは二の次でも良いなど、いろいろな方がいる。そういう風に好みや目的に応じたお店探しのサービスはRettyができる前はなかったと思う。自分自身にニーズがあったので、そういうサービスがあれば使いたいと思って、Rettyを始めました。まぁ、これはグルメに限らず、モノやサービスを選ぶときには共通するんでしょうね、信頼する人の情報を頼りにするというのは。
郡司:信頼する人の情報を頼るって、ソーシャルの時代ならではの傾向でもありますよね。念のためですが、ご存じのない方のためにRettyの内容を、武田さんからご紹介いただいてもよいですか。
武田:Rettyは、自分が信頼している、好みの合うと思う「人」からお店を探すサービスです。従来のサービスでは、写真を含む基本情報と点数などでお店を選ぶと思いますが、Rettyは、あの人が勧めるからちょっと行ってみようと、そういった世界です。
郡司:お店ではなく、人が軸になるサービスということですね。
武田:グルメサイトの変遷は、インターネットの発展と浸透に応じて変ってきたと思っています。最初は飲食店がホームページ代わりに情報を出し、インターネットで見られるようにすることに意義があった。そして、どんどんお店の情報が増えてきたので、次はどこが良いのかわからないので人気順に並べたり、点数で評価をしようということになった。Rettyは、その次の世代のサービスで、自分にフィットしたお店に出合えるようにする、そういうサービスです。あとFacebookを利用することと関連しますが、基本は実名の情報なんです。よって自分の信頼できる人から、自分にマッチしたお店をどんどん見つけていける。実は、電通さんとか広告会社の方は、利用者がとても多い印象です(笑)。やっぱりグルメな情報のニーズがあると思うので。
郡司:Facebookでのログインを求められるのは、そういう理由だったんですね。
武田:そうです。自分の知人だったり、知人でなくても実際にいる方の情報から、好みの情報を見つけやすくするためにも、Facebookでログインするようになっています。あと、スマホユーザーを前提にしています。今後もスマホに軸足を置くスタンスは変わらないですね。Rettyは、スマートフォン時代の、スマホをベースに生まれたサービスなので。
郡司:今、ユーザーは何人くらいですか。
武田:毎月100万人くらい増えていて、4月で900万人を超えました。
郡司:ん、100万人? そんな勢いで増えるんですか。
武田:そうですね。
郡司:すごいですね。どうして、そんなに増えるようになったんですか。
武田:最初は、コンテンツつまりオススメのお店の口コミを書いてもらっていました。これを3年ぐらいやり続けましたね。グルメサイトにもかかわらず、Rettyを使っても検索機能は充実しておらず、お店は探しにくかったんです、1年程前まで。一応検索機能は簡単にはあったんですけど、あまり充実させていなかった。いまコンテンツが一定レベルまでたまって、日本全国だと、25万件ぐらいの店の口コミが載っているんですね。もはや先行サービスと変わらないぐらいになってきた。こういう状態にならないと、結局お店そのもののデータって探しても見つからないのですよね。3年ぐらいは、ずっと口コミを多くの人に書いてもらうことをやってきた。今でもずっとそれは続けていて、今後も力は入れていきます。そこはかなり辛抱強くやっています。
郡司:情報をためていくって、やはりそれくらいの時間がかかるのですよね。
武田:この手のCGM(Consumer Generated Media、消費者生成メディア)のサービスって大体がそうなんです。やっぱりコンテンツがたまるのに時間がかかるんです。
郡司:その臨界点みたいなところでいうと、何か法則があるのですか。
武田:法則はないと思います。Rettyは、2年半ぐらいかかりました。私たちの場合は、100万口コミぐらいというのが一つの目安という気がします。現在は、約150万口コミになりましたね。
郡司:何か特別なことをやったんですか。
武田:特別な事はやっておりませんが、一つ言えるのは、人が人を呼んで、どんどん増えていっているので、単純にその紹介数が増えているんです。
郡司:じゃあ、今も爆発中なんですね。
武田:ウェブサービスにおけるユーザーの増加曲線は、多くの場合、二次曲線を描くのですが、その状態に確実になってきている。おそらく100万増ぐらいがしばらく続くんだと思います。また少したったら、それが150万になって、200万になってという形で推移していくのでしょう。
最初のコアメンバーの集め方
郡司:話が少し前に戻るのですが、3年ぐらいコンテンツをずっとためたということですが、グルメサイトを作ろうと思ったら、まずお店の情報を集めて、その店の口コミを集めるという順序のように思うんです。そうではなくて、私はこのお店がお勧めです、行ってみてよかった、といった情報をずっとためて、そこに付随してお店情報をつけるという順序でやったということですよね。
武田:そうです。もちろん同時進行なんですけれど、そう整理してもらって構いません。
郡司:そうすると、最初の立ち上げのとき、どうやって口コミを書いてくれる人を探したのかな、というのが疑問になるんですが。
武田:大前提として、実はグルメサイトやこの手のサービスに口コミを書く人は、それほど多くない。書いている方は、本当に皆さん共通して食べ歩きが大好きで、いろんなお店に行って、今までグルメブログに書いていた方も多い。先ほどユーザーが100万人ずつ増えているとか、100万人を超えたと言いましたが、約150万口コミのほうは、ごく一部の数万人ぐらいの人が書いていて、そういう人たちの口コミから派生したやりとりが広がって全体が構成されているんです。これは他も同じ構造と思います。私たちは、そういう人たちを集めるという意識は薄く、グルメな人の中から自然と広まっていった、というほうが正しいですね。もちろん、一部の人たちにはアプローチはしましたよ。でも結局はFacebookやリアルな生活でユーザーの方が話題にしてくれることによって、広まっていく。一部の人にまず使ってもらい、ファンになってもらうことができれば、出会ったグルメ友だちの会話の中で、自然とRettyのことを話題にしていただけるようになりました。
郡司:その考え方は、いろいろと応用できそうですね。ということは、一番最初は何人かに武田さんがアプローチしたわけですね。
武田:直接アプローチもしましたが、結果的にはニュースなどで取り上げられて、それを見て使ってくれる人が増えていってリズムができたというのが、質問の答えになると思います。
郡司:つまり、軌道に乗せていくには、ニュースや口コミで話題を広げながら、いっぽうで使う人たちのニーズに応えるサービスを整えていく、ということでしょうか。
武田:そうですね。グルメな方は、いろんなお店に行って、そのログも残したいですし、お店に行った写真やメモなどの記録を残したい。こうしたニーズを、正しく理解することがすごく重要なんですね。
郡司:どんなニーズを満たすのかを、しっかり考えるということですね。
便利なツールが、結果的にはメディアになった
武田:なぜ、お店に行った人が投稿するのかを考えたんです。その欲求を大別すると、三つあって、最初がログ欲求。自分の行ったお店を、今までは電話帳に入れたり、エバーノート(インターネット上にメモや写真などの各種情報を、効率よく備忘録的にまとめることができるサービス)にメモしたりとか、いろいろなやり方をしている人はいると思うのです。それを、例えばRettyに投稿するだけで自動で情報が整理された状態で蓄積されていくという、そういうものよりも便利なログツールとして使えるようにした、というのが一つありますね。この関連でいうと、自動でエリアごとに行った店を分類すること、同じようにジャンルごとに分類することなどの機能もあります。次にRettyに投稿をすると、「いいね」とか「行きたい」とか、いろんな人に見られて、その反応がある。これにはコメントなども含まれ、こうしたコミュニケーションの欲求があります。最後に、これは一部の人ですが、ランキングが好きな方もいます。投稿数のランキング、「行きたい」の獲得数ランキングなどです。
郡司:集団の中での自分のポジションを知りたいという感覚ですね。
武田:はい。
郡司:Rettyがユニークなのは、こうしたランキングはお店の評価になりがちですが、ランキングされるのはユーザーのほうだ、ということですよね。そこは面白い。あと、本当に濃いコアな人たちに便利に使ってくれるツールを用意すると、人が集まるようになり、結果的にはメディアになるという、そういう理解で間違いないですか。
武田:そのとおりです。結果的には、どういう問題解決をしていくのかの話です。自分と似た好みの人を探したい、それは自分の知人でもよいし、そうでなくてもよい。それを実現したかったんです。そのためには、そもそもの飲食店の基本的な口コミというのが当然必要になり、それを一番知っている方は、本当に食べ歩いている人となる。Rettyのユーザーには、1日3軒も毎日はしごして外食するような方もいらっしゃいます。
郡司:すごい。
武田:「新店専用手帳」というのを作って新店情報を整理していたりするそうです。その情報は、アルバイト情報誌を見て探すそうです。まずスタッフを募集するじゃないですか。あとは不動産の物件情報をチェックするというのも聞いたことがあります。
郡司:雑誌などのグルメライターの世界では、スタッフやシェフの人間関係で新店情報を集めるというのは聞いたことがありますが、Rettyのユーザーさんの本気度は違いますね。
武田:そういう方の口コミを核にして、徐々に広げていったというイメージですね。
郡司:なるほど、すごい世界ですね。私は、企業がオウンドメディアを作り、そこに会員を集めたい、人を集めたい、といった案件の相談を受けるので、いろいろな話を頭に浮かべながら聞いていました。その中でもユーザーのニーズは何か、は常に考えているところではあるのですが、そこを突き詰めた先には、単なる情報提供ではなくて情報を獲得する体験つまりサービスがあるのだ、ということが改めてリアルに理解できました。
【Gunji's eye】
インタビューの最中、武田さんには「郡司さん、Retty使ってみてどうですか?どんなところが使いにくいですか?」と逆インタビューをされました。仕事でもオフでもユーザーに会ったときには必ずヒアリングするのだそうです。その姿勢こそが、ユーザーを巻き込み、熱狂させる原点になっているのですね。またRettyは、もともと情報体験のツールつまりサービスを提供したことによって結果的に人が集まりメディアに発展したという点には、大きな示唆がありました。いずれにしても、ユーザーの声をゼロから集めて、ここまで成長してきた武田さんの話は、学ぶことばかりでした。次回はさらに突っ込んだお話をうかがう予定です。お楽しみに。