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コンテンツマーケティングの現場からNo.10

ユーザーを理解する、とはどういうことか

2015/06/24

食を通じて世界中の人々をHappyに---こんな企業理念を掲げて急成長しているグルメサイトのRetty。そのサービスを立ち上げた社長の武田和也氏に、ユーザーとはどう接したらよいかを聞く本対談。後編は、より踏み込んだ話を伺いました。

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左から、郡司 晶子氏(電通)、武田 和也氏(Retty)
 

郡司:前回は、ユーザーのニーズはわかる。でも自分は事業をやっているから事業の都合も考えちゃうし、いろいろな葛藤を抱えながらやっているというお話を伺いました。

武田:やっぱり事業者や提供者の目線でみんな物事を考えるんですよ。でも、利用者になり切るということをしないとメディアはできないんじゃないですかね。Rettyは、日本だけではなく世界中でビジネスを展開しようとしています。そのためには文化や風土の違いを超えて共感してもらえる価値を提供していく必要に迫られる。なので、利用者が何を求めているのかを「正しく理解する」ことが、とても大事なんです。でも、それは本当に難しい。でも利用者の視点になり切らないとニーズはわからない。その繰り返しですね。

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郡司:ちなみに、武田さんは利用者の心を理解するためにどんなことをしましたか。

武田:いろんなお店へ行って自分も食べ歩くのはもちろんですが、イベントなどでいろいろなユーザーさんともお会いしました。その他にも実際に会って、お話をしたりしています。数字ではわからないところがいっぱいあるので。僕らは、これがソーシャル時代のメディアの運営のひとつのスタイルと思っているんですが、ユーザーの方々と仲良しなんですよ。飲み会にも誘われる事があります(笑)。それを聞くと、みんな、びっくりするんですけど、そういう立ち位置で、グルメなヘビーユーザーさんと、新店ができたらよく行ったりするんですね。そういうのが、ユーザーを理解し、ユーザーになり切ることというでしょうか。

郡司:まぁ、武田さんや皆さんが食べるのが好きな方が多いわけですから、ユーザーそのものとはいえますよね。

武田:それはそうですね。スタッフが本当の意味でユーザーとして、Rettyを使っています。

郡司:利用者なのか、提供者なのか、そこの境目を越えることが、もしかしたら、今の時代のサービス提供のポイントということなのかなと。

武田:僕はそう思っています。ユーザーさんは、Rettyが成長していくとともに、どんどん変わっていく。そして同じユーザーの方が使い続けてくれていても、その人たち自身が変わっていく。あっちへ行ったり、こっちへ行ったりというのを3年間ずっと繰り返していますが、毎月変わる。やっぱこっちだった、やっぱあっちだった、と。そうして柔軟な姿勢で運営ができる体制を作ることが重要と思いますね。

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郡司:具体的にはどんなふうにするんですか。

武田:どうですかね。エンジニアも自分たちでサービスを使いながら、ダイレクトにユーザーの方の声を聞いて、すぐにそれを修正したり、新しい機能を追加するなどの作業を高速でやっています。スタートアップ(ベンチャー企業や、それを目指す組織)の開発は大体そうなっているんですけど、スピード感がないといけない。

郡司:たとえばリアルイベントで出会ったユーザーに話を聞きますよね。昼間にイベントがあったとして、夜には修正されているぐらいのスピードなのか、それとも翌日くらい?

武田:その場で直しちゃうこともありますよ。

郡司:なるほど。

武田:もちろん全員の声を全てに反映させるわけではありませんが。

郡司:反映させるかどうか、はどうやって決めているのですか?どれくらいの声があったらニーズと判断するかとか。

武田:一言ではいえませんが、それはフェーズによって変わっていきます。今は一人のユーザーですぐに変えることが出来ない事もありますが、そういう声はとても大事にします。あと自分たちがそれを実感できるかはすごく重要で、一人の声でも確かにと納得できると、他の人もそうだろうと考えて直す。とりあえず直しちゃうというのが案外正解だったりするんです。間違っていたらすぐ戻せばいいので。

郡司:なるほど。とりあえず直して戻す。そのスピード感、割り切り感は普通の企業だとなかなかできないところだったりしますね。ちなみに何人くらいのチームで回すんですか。

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武田:最初2年ぐらいは5人ぐらいですね。エンジニア3人と、デザイナー、ディレクター、そういう5人チームぐらいで高速に回していく。これが逆に20人いたらやりにくい。

郡司:みなさん、ちゃんと休んでいらっしゃるんですか?

武田:最初の5人のときには休みが無い事もありましたが、今はそんなことはありません。また、我々は、企業の方たちのような締め切りという感覚はないんです。ユーザーさんのニーズは日々変わるため、改善は永続的に続きますが、締め切りがあって夜中まで働いて終わらせなきゃという感じではなく、夜はおいしいものを食べに行こうって、みんなどこかに行ったりしていますから。

ポジティブな情報が回る理由

郡司:Rettyに、ネガティブなことが書かれるケースってあるんですか?

武田:従来のグルメサイトはランキングを行う必要もあるので評価をしますよね。これは掲示板などのやり取りもそうですが、自分の顔が見えない中で書く口コミや評価は、相手に厳しく批判する方向になりがちです。一方Rettyは、良いお店を誰かに薦めたい人たちの口コミで成り立っている。それも実名なので、基本的には好きなお店が中心です。嫌だなと思ったところは、そもそも書かない。そこはFacebookの仕組みも同じと思うんです。Facebookのタイムラインを見ていても、ネガティブなことばっかり言っている人は、だんだん離れていく。自分の顔を出して発言する以上、インターネットは今、基本的にはポジティブな情報で回り始めていると思います、急激な勢いで。

郡司:そもそものRettyの目的と、実名で語るという手段がネガティブを引き寄せにくいカタチをつくりあげているんですね。

武田:そのとおりです。多種多様な人が集まっているので問題がなくなることはありませんけれど、結局、自分たちが何をゴールとしているのかがはっきりしていれば、その振る舞いはきちんと伝わると思うんです。あとは何を評価の指標にするかの物差しと、ビジネスのフェーズも大事でしょう。今の自分たちのフェーズでは問題にされていなくても、その次のフェーズだったら違うかもしれない。そういう風に変化していくことを捉えていれば、いいのかなという気がします。

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郡司:いま自分たちがどのフェーズにいるのかを知るために、何かいい方法がありますか。

武田:ゴールがどこかを知っておくことと思います。そのゴールを山の頂上に例えると、そこにたどり着くまでに、いま何合目なのかが見えるようにする。

郡司:武田さんはいまそれをビジネスのスケールで測りますか、ユーザーの人数で測りますか。指標はいろいろと思うんですが。

武田:それはすごく難しいですよ。いろいろなフェーズ、例えばRettyの次のフェーズは株式市場への上場です。その通過点があると思うので、その後と今ではちょっとまた違うでしょう。そこは見極めていく必要があります。

郡司:そのときどきで、短期的な目標と中長期的な目標を常に確認しながら進めていくことがとにかく重要、ということですね。

Rettyに学ぶ、コンテンツマーケティングの未来

郡司:Rettyは最初に食べることに関心の高い人たちとつながってから広げたという前回のお話でしたが、その後の運営ではどうやって新しい会員を増やしたり、既存の会員を維持したりしているのですか?何もしなければ人は離れていってしまうので、たとえば企業の会員サイトなどだとじゃあ何かポイントをあげるとか、商品をあげるとか、プレゼントのキャンペーンをしようか考えがちなのですが、Rettyのようなサービスではどうなんでしょう。

武田:それも結局ゴールが何か、だと思うんですね。本当にそれに尽きる。自社の商品を広めたいなら普通に広告をやったほうがいい。ユーザーが求めるもの、今抱えている問題をどう解決するか、そこに合わせた運営をすればいいと思います。

 

郡司:ユーザーの目線でゴールを決めて、それを解決する方法を考える、ということですね。言葉にすると当たり前のことなのですけれど。

武田:いま世の中で求められているニーズを考えることが大事でしょうね。

郡司:ブランドのファンを増やす、ブランドのロイヤルティーを上げる、という目標を送り手側として設定しているとしても、その先で利用者にどんな価値を提供しているか、そこを徹底的に考え抜かなければならない、のですよね。

武田:電通さんが向き合っている大企業や有名企業の方たちは、私たちに比べると社会でずっと大きな存在で、その会社の商品で世の中のニーズに応えられたり、問題解決ができたりすることがあるでしょう。なのでファンを増やしたいというときに、ユーザーのニーズがそこにあればいいのだと思います。

郡司:提供する価値がニーズに合っている、ということですね。

武田:メジャーなブランドの商品なら、その製造の過程や背景だったり、次の新製品なんかは、世間の関心になるはずです。そうしたニーズがどこまで顕在化しているかは僕にはわからないですけど、多分いっぱいあると思う。なので、それを伝えることを目的としたメディアは成立すると思いますね。

郡司:広く生活者に向けた商品なら、そこにはきっと、ユーザーのニーズを満たせる多くの価値があるはずですから。

武田:ニーズがあり、それがわかっているならば必ずそれに対しての解決策は出てくる。ニーズの強弱、商品の中身によっては一概にはいえないかもしれませんが、ユーザーのニーズを正確に理解していれば、成立すると思います。

郡司:以前少しお話をうかがったときから思っていたのですけれど、武田さんのやっていらっしゃることって、現場で日々試行錯誤している私たちにとって大きなヒントになると思うのです。情報とユーザーの関係、情報とサービスを提供する人とユーザーの関係。それは、大企業でもスタートアップでも、メーカーでもサービス業でも変わらないと思うんですね。

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武田:おっしゃるとおりですね。

郡司:武田さんたちの成功から、私たちが何を学ぶかということですね。


【Gunji's eye】

対談のなかでも触れたとおり、武田さんのサービスには、コンテンツマーケティングに携わっている人間が学ぶべきことがたくさんあり、多くのヒントが隠されていることを実感しました。前編/後編通して武田さんが繰り返し言っていたのは、「ユーザーのニーズを正しく理解すること」でした。まさにコンテンツマーケティングにおいて根幹の部分です。その理解をどこまで徹底できるか。あちこちで既に語られている話ではありますが、実践している人の徹底ぶりはスピードも内容もまったく違うレベルにあると感じました。「ユーザーのニーズ」を、調査やデータだけでなく体感としてリアルとして、送り手か受け手かの立場を超えて捉えることができるのか。さらに日々どんどん変化していくニーズに応え続けていけるのか。コンテンツマーケティングで問われているのは、ユーザー理解の「質」であること。Rettyが教えてくれていることを、今後の現場作業でもっともっと生かしていきたいと思います。