コンテンツマーケティングの実験が
教えてくれること
2015/05/27
コンテンツマーケティングを配信の視点から語る第2回目。今回は日本でアウトブレインを導入し、成果を実感できた具体的な事例をご紹介していきます。アウトブレインについては、過去の記事でもご紹介しています。サービスについての概要は、そちらをご覧ください。
郡司:前回の繰り返しにもなりますが、コンテンツマーケティングはニーズを掘り起こせるのもひとつの特徴です。けれど危険なのはコンテンツマーケティングをやっていると言いながら、知らず知らずのうちに送り手発想になってしまうことなんです。
嶋瀬:それはアメリカでも同じことが言われていて、一足飛びに本当の意味でコンテンツでのマーケティングを実践するところまではたどりつけていないことも多々あります。
郡司:そう聞くと少し安心しますが…。こういう表現が適当かわかりませんが、先行してコンテンツマーケティングに取り組んでいるという話を聞くアメリカの企業は、富士山登山に例えると何合目ぐらいまで行っていて、日本の企業は何合目ぐらいのイメージなんですか。
嶋瀬:う~ん、あくまで主観ですが、濃淡はあるもののアメリカの企業全体で見ると五合目ぐらいと思います。つまり、まだまだ余地があって、一昨年ぐらいから富士山登山ブームみたいになり、すでに8割方のマーケターは何かしらの形でコンテンツマーケティングを試みているという感じでしょう。日本は、富士山といういい山があるらしいので興味があるという方から、既に九合目で結構苦しい思いをしている方もいらして、そのレベルは様々かと思います。ですがやはりまだ全体的にはアメリカの状況にまでは至っていないかなと感じています。
郡司:では海外で先進的な企業は、どのあたりまで行っているのかを教えていただけますか?
嶋瀬:事例を紹介していくと、コンテンツの切り口とファネルで、100通りずつぐらいはすぐに出てくるほど多様なものです。これはあるウオーターサーバーの会社の事例ですが、従来は、いわゆるランディングページを作って、そこにディスプレーや検索連動型広告、そしてSEOによってトラフィック獲得を行っていました。ただ、これが一巡すると、もう商圏でウオーターサーバーを買う人に行き渡ってしまい、1回買うとすぐに買い替え需要が起こるわけでもないので伸び悩み始めました。そのころにアウトブレインを導入しています。
彼らの使い方が非常に面白くて「水」というキーワードでさまざまなコンテンツを用意しました。例えば、妊婦がどれだけ水を飲むべきか、乳児がどれだけ水を飲むべきか、フルマラソンを走るときに飲む水の適量はといった具合です。これらのコンテンツを入り口にコールセンターへ問い合わせをするような流れを作ったところ、オペレーターは、どんなコンテンツを読んで問い合わせをしてきているかを理解して話ができるようになりました。その結果「うちの水はいいです」ではなくて、「赤ちゃんの場合は硬水がだめ。うちのお水は赤ちゃんにも非常に優しい」と、一人ひとりにマッチしたオペレーションができるようになったのです。
青木:この事例は、商品ではなくて体験を売れ、という典型的なケースですね。
嶋瀬:そうですね。単に水を売っているのではなく、「水のある生活をサポート」している。直接の既存顧客のCRMのように、リアルとデジタルを融合させて個別対応している事例として面白いと思います。
郡司:アウトブレインを使うと、コンテンツを必要としている人に広げてくれる、というくらいのことは知っていても、前回お話しいただいたメジャーメントも含めてプラニングができるのは知らない人も多いようです。そのあたりのことを教えていただけますか。
嶋瀬:あるアパレルブランドで「今年の秋の一番格好いい服装は?」という提案を、そのブランドのデザイナーが選ぶ、というコンテンツを作りました。SEOで上位にするのは困難ですが、読者からは喜ばれて人気のコンテンツです。これが単純に、そのブランドの秋物新作リリースだと、別に興味を持たれません。要は、読者が読みたくなる形で記事を作り、それを窓口として実際の売りにつなげていく。アウトブレインでそれができるのは、関連性ではなくユーザーの興味を起点としたレコメンデーションだからです。またアパレルの記事だからアパレル記事面を読んでいる人にレコメンドするというのでは顕在顧客へのリーチに留まりますが、アウトブレインでは、その記事に興味があるユーザーを探し出してコンテンツに集客するので、どういったコンテンツがどういったカテゴリーの記事と相性がよく、どういったタイトルが人気なのか、そしてどのような組み合わせが最もコンバージョンにつながるかといったことも知ることができます。
郡司:可視化されていないニーズをコンテンツによって引き出していく、ということですね。ニーズを引き出すためのコンテンツは、半ばデータ半ば人間洞察、あとは企画の技術力でつくっていくということになります。1つのテーマに100でも200でも切り口を出すという企画の訓練をしてきた弊社の人間などが得意な領域でもありますね。
嶋瀬:先のアパレルの事例は、電子書籍などにも応用ができます。自分が買いたい書籍の名前以外は検索することもないけれども、コンテンツとして、「この春に読みたいミステリー」「◯◯問題を知るための10冊」など、いろいろな切り口でコンテンツを用意し、興味を持ってもらうことで商品を売ることができるようになります。
◆日本国内でも成果を実感した例が出始める
嶋瀬:直販マーケティングのケースでは、日本で次のような事例も出てきていて、私たちも驚いています。ある化粧品メーカーさんですが、昨年12月半ばからアウトブレインを導入していただきました。目的は二つ。一つは、アウトブレインのネットワークからオウンドメディアに送客をし、読者を集める。これがフェーズ1。もう一つは、オウンドメディアに我々のレコメンデーションエンジンを導入し、内部コンテンツのレコメンデーションによって読者のサイト内の回遊を促すため使ってもらう。これがフェーズ2です。
そのマーケターの方たちは、オウンドメディアにある肌の悩みに関する情報を網羅的に集めたんです。たとえば検索されている言葉を全部調べて、ユーザーがどんな情報を求めているかを洗い出し、それの答えになるような記事を用意する形で。その内容はさまざまですが、とにかくみなさんが知りたいであろうことを思いつく限りに用意した。当然、自分たちの商品の紹介は二の次ですし、他社の商品であってもユーザーにとって価値のある商品だと感じた場合には、積極的に取り上げたんです。相当な決断だったと思います。
郡司:徹底的にやるというのは、実際はとても難しいですものね。
嶋瀬:はい。図1を見ていただくと、12月16日からページビューが若干上がっています。年末年始は一回キャンペーンを止めているのでトラフィックが落ちているのですが、せっかくサイトを訪れたトラフィックが他の記事を読まずに出ていってしまうのはもったいないので、我々のレコメンドウィジェットを入れて、サイト内の回遊率を高めましょうと提案し、1月5日から導入しました。これがフェーズ2です。ここからページビューがぐーっと上がっていきます。
フェーズ1およびフェーズ2を通して、ユニークユーザーを非常に多く送ることができたのですが、お客様からは送客したユニークユーザーのうち90%以上が新規ユーザーである点を非常にご評価いただおり、さらに5ヵ月以上経過した今でも維持できています。続いて、フェーズ2に入り、実際にトラフィックを送りながら、かつ、レコメンデーションでサイト内の回遊を促進したところ、平均滞在時間、ページビューが、ともに50%以上向上しました(図2)。この効果にお客様は大変に驚き、かつ喜んでいただいています。
加えて、このお客様にはオウンドメディアのほかに、公式サイトがあり、そこではEコマースを行っているんですが、そのサイトへの送客も20%ぐらい上がったそうです。
ちなみに現状では、新しく作ったオウンドメディアと、公式サイトで比べると、コンバージョン率は圧倒的にオウンドメディアのほうが高いそうです。その理由は、ご紹介したように他社の商品もお薦めするなど非常に中立的なスタンスでメディアを運用されていることで、ユーザーからの信頼を得ていらっしゃるからだと感じています。やはり公式サイトでは他社商品のお薦めはできませんので。
実際に一番コンバージョンがあったのは、化粧品とは関係ない他社製品を使ったスキンケア体験について書かれたコンテンツページからのユーザーだったそうです。そうした結果については、人気のキーワード最初から想定されていたようなのですが、やはりデータによって現実に裏付けられてくると、非常に自信を持って今後も続けられるとおっしゃっていました。
郡司:他社製品から入るのが、実は一番コンバージョンしているというのは、一人の消費者として考えれば当たり前ですが、そこを送り手として思いきれるかどうかが最大のハードルですね。
嶋瀬:成功のカギは、このマーケターの方が、企業本位ではない、顧客目線でのコミュニケーションを、勇気をもって採用されたことが、今回の結果につながったものと思います。
郡司:なるほど……。
嶋瀬:ただ今回のケースでも、ここまで良い結果が出るとは思わなかったそうです。良いと聞いていたし、自分もこれが正しいと思って導入したけども、こんなにアウトブレインが効果的だとは思わなかった、と。ただ、こういう小さな積み重ねで、一回良いことがあればという小さなヒットが、最終的に大きなホームランに変わる気がしています。
郡司:そうですね。
嶋瀬:最近、オウンドメディアのご相談がすごく増えていて、最初は送客のみのお話が多かったのですが、ここ数カ月でいうと、毎月数本ずつレコメンデーションウィジェットも導入いただいています。逆に言うと、長期的にコンテンツマーケティングに取り組む覚悟を決めたマーケターの方々が増えていると感じています。
あとは、前回触れたKPIの部分。コンテンツマーケティングは、一個の商品を売ることだけでなく、採用活動、PR、企業のブランドイメージなど、広範囲に影響します。あなたの取り組みが会社にこういう良い影響がある、という点を可視化していけば、会社のために頑張っていると言えるので、そこの指標化も一つの課題と思います。
郡司:もう少し具体的なことをお聞きしますが、さきほどの化粧品メーカーのケースは、最初はいくつくらいからコンテンツを配信したんですか。
嶋瀬:少なくとも、10本以上はアウトブレインに出していただきました。現在では40本以上は出されていると思います。やはり本数が多いだけ、ヒットを見つける精度が高くなるので、成果とコンテンツの量は比例する場合が多いです。
青木:我々がクライアントにご提案する際にも、なるべく多くのコンテンツをご用意くださいとお話ししています。事前にコンテンツの良し悪しを送り手側が決めて絞り込んでしまうのではなくて、なるべく多様なコンテンツを出していくことで、アウトブレインのレコメンドエンジンがユーザーの反応を見ながら配信するコンテンツを最適化してくれます。また多様なコンテンツに対するユーザーの様々な反応を得ることで、仮説の段階では想定もしなかった気づきが見えてくることも期待できます。
嶋瀬:目的に合わせてコンテンツの配信を精緻化するための手法として、いわゆるコンバージョンタグの埋め込みによるコンバージョンポイントを設定いただくケースもあります。今回のケースでは、どのタイトルが購入につながっているのかというのを自動的に見られるようにしました。このケースではマーケターの方の当初の狙い通り、他社製品を紹介する記事にクリックが集まっており、実際にコンバージョンの多くがその記事から発生しています。なお、途中で店舗検索など別のページに遷移させる、もしくは滞在時間やページ下部まで閲覧したかなどのエンゲージメントもマイクロコンバージョンに設定できるので、より目的に応じたコンテンツ配信ができるようになっています。
郡司:最低何本くらいから始められるんですか?
嶋瀬:何十本と言わず、3本とか5本とかでも傾向は見えてきます。海外クライアント様の中には、全く異なったペルソナに対するコンテンツを三つ用意し、実際のユーザーの反応やエンゲージの状況を見て、自分たちのメディアに一番いいのは、これとこれのマッチングだね、といったようにユーザーの反応をコンテンツ制作の参考にしながらコンテンツを拡充していくケースもあります。全部できるまでじっと待って時間をかけるよりも、少しでも早く始めて実際のユーザの反応を見ながら検証していくほうがいいと思います。
郡司:その意味では、富士山を眺めているだけでなく、とにかく支度して出かけろという話ですね。
嶋瀬:そうですね。「嶋瀬さん、この事例知らないの」と貴重な知見を色々と教えてくださるマーケターの方もたくさんいらっしゃいますけれど、半面、「コンテンツマーケティングって何?」という方もいて、やはりそのギャップはまだまだあるかと思います。
青木:実際にコンテンツマーケティングを推進しようとしている現場でもやはり同じような課題があると聞いています。
【Gunji's eye】
日本でもコンテンツマーケティングの新しい事例が次々生まれ始めています。私たちも試行錯誤しながら進めていますが、広告キャンペーンと違って常に発信し続けていくなかで、うまくいく瞬間があったり、パッとしないときもあったり成果は様々です。でも、どちらの場合にも必ず学ぶことはあります。一歩踏み出すことによって得るものは非常に大きいことを、今回の事例は教えてくれていると思います。