業界人のためのYouTube論No.3
YouTuberが明かすファンからの“愛され方”
2015/07/31
7月某日、都内にあるYouTube Space Tokyoで、様々な立場でYouTubeと向き合う人々がディスカッションを行いました。
ここまでは人気YouTuber・はじめしゃちょーと日本エレキテル連合が実践しているオンライン動画における作品づくりのポイントについて、そしてメディアとしてYouTubeをどのようにマーケティング活動で有効活用すべきかについて議論を進めました。
このディスカッションの締めくくりとなる今回は、YouTubeについて考える中から見えてきた、これからのマーケティングコミュニケーションのあり方を考えていきます。
「なんかこれ好き」を生み出すYouTuber
池上:前回日本エレキテル連合さんが、作品では「みんなではなくあなたに届けている」と意識させることによって、ファンとしての潜在意識が掘り起こされるという指摘がありました。また、はじめしゃちょーさんがやるからコーラ風呂は面白いといった、企業ではなくYouTuberだからこそ親近感が作り出せるという点も興味深かったですね。
このあたりは近年、視聴環境がパソコンやスマホなど、よりパーソナルなデバイスになっていることも影響しているのだと思います。長谷川さんもこの「親近感」について普段感じられていることはありますか?
長谷川: 私も実は、YouTubeを視聴している時に、YouTuberの使っているものが気になって欲しくなることが多々あるんです。よく考えてみれば納得できるんですが、同じYouTuberの違う作品を毎日見て親しんでくると、例えばはじめしゃちょーの動画を見た後に、なんとなくコーラが飲みたくなったとか、日本エレキテル連合の動画を見た後に「セミちゃん」のようなキャップとスタジャンが欲しくなる。まさにYouTuberが作り出す親近感ならではのことだと思います。
日本エレキテル連合(以下エレキテル):以前、事務所で売れ残りになっていたパンダのぬいぐるみを動画に出したんです。そしたら、当初は売るつもりがなかったのに視聴者からの問い合わせが殺到してしまって。結果として予想外の売り上げになり、事務所からもそのお金でYouTubeの機材をそろえていいと言っていただきました。後でヤフオクとかにも出て、プレミアが付いちゃったりしています…(笑)。
池上:これもYouTuber が醸し出す親近感によるものでしょうね。
東畑:YouTubeのコピーのとおり「好きなことで生きていく」というのがYouTuberと視聴者の双方にとっての魅力なので、従来のマーケティング的な視点は入れてはいけない気がします。「必要だから買ってね」という広告の文脈ではなく、「なんかこれ好き」という文脈の方がYouTuberには親和性が高い気がします。
メディアミックスの新形態
池上:YouTubeをいわば視聴者との親近感を生み出すためのホームグラウンドとしたときに、その他の活躍の場であるテレビや舞台は、どのような位置付けなのですか?
エレキテル:もちろんテレビや舞台も大事です。私たちはテレビのおかげでいろいろな方に知ってもらって、その結果、昔から活動の場になっていたYouTubeチャンネルも知ってもらったりしているので、YouTubeも、テレビも、舞台も全部大事。その中でも好きなことができるのはYouTube、いろいろな企画を通して新たなことに挑戦させてもらえる場所がテレビ、舞台は生でお客さんと向きあうことができる。
長谷川:YouTubeとしても、YouTubeの中だけで頑張ってくださいということは考えていなくて、テレビだとか、リアルイベントとか、他のソーシャルメディアとかいろいろなところで活躍してほしい。リアルイベントの話でいうと、はじめしゃちょーさんのケースでは、握手会に何万単位で申し込みが来るんです。
またエレキテルさんのイベントでも、キャラクターへの思い入れが強過ぎるあまり生で見て泣いちゃうという、ものすごく強いエンゲージメントをしている人たちが集まっている。こうしたことは、ただコンテンツを楽しんでいる以上の関係を築けているからこそ。その意味でも、YouTube以外のところでもやっていただくのは大事なんだな、と感じています。
エレキテル:私たちはYouTube、テレビ、舞台の3つがうまく機能することが理想です。今まで席が埋まらないライブがあったんですけれど、テレビやYouTubeに出るようになって埋まるようになったし、テレビに出ることでYouTubeが盛り上がったり、YouTubeをしていたから先日もイベントに声をかけてもらえたりしている。私たちはバランスがまだきれいな三角形ではないですが、YouTube、テレビ、イベントの全部が相乗効果を出せるといい。
池上:YouTubeが軸に加わった新しいメディアミックスの形ですね。
長谷川:リアルイベントだけでなく、iPhone向けに提供しているはじめしゃちょーさんのゲームアプリは、テレビでがんがんCMをやっているようなアプリよりも、ランキングが上だったりするんです。これも、YouTube、リアルイベント、テレビ、Twitterなど、いろいろなところに還流した結果といえるでしょう。
はじめしゃちょー(以下はじめ):ただタッチするだけのゲームなんですが…(笑)。
これからのマーケターは「ターゲット志向」から「ファン志向」へ
東畑:あらためて「YouTubeでなにかスゴイことが起こっている」ことを実感しました。はじめしゃちょーさんは、たった2年でこんな大ブレークしているわけですし、エレキテルさんだって、3年前は名刺代わりに動画を投稿する必要があったくらいなわけですから。
オンライン動画が市民権を得たことによるメディア環境の変化は、企業のマーケティングに関わる私たちも謙虚に受け止める必要があります。テレビCMや映画などの映像とYouTubeのような動画って作り方が根本的に違っていて、そこのところをマーケティングに携わる人は真剣に考えないといけない。本格的に個人のメディアの時代が到来し、個人がメディアを担っていく時代なんでしょうね。
池上:YouTubeは個人にも企業にも、すべての人に平等に機会が与えられていて、巨大なトラフィックが生まれています。そうしたYouTubeという場そのものや、お二組のようにYouTube上で活躍するクリエーターに注目するのももちろんですが、そこに形成されたファンに寄り添うことが、今後のマーケティングでは欠かせないということでしょう。
東畑:まさにターゲットではなく、ファンなんですよね。マーケティングでは消費者のことを「ターゲット」として定義することが多いのですが、YouTuberは「ファン」を作っている。これは、大きな変化です。これから企業のマーケティングは、ターゲットを狙うという発想をやめて、“ファンを増やす”ということに進化すべきだと思います。
長谷川:マーケティングにおけるファン創りのヒントを得るためには、まずYouTuberや、他の国で成功している企業がYouTube上で何をしているか、しっかり見ていただくことが重要だと思います。
エレキテル:YouTubeって、誰でもできるから、私たちのように事務所に所属している人間でも、はじめしゃちょーのような学生でも、全員同じ立ち位置で全部平等。私たちはそんな環境で毎日コツコツと動画を上げていけることが楽しいんです。
はじめ:それには同じ意見です。僕のYouTubeチャンネルもようやく注目されてきて、大勢の方に見ていただけています。初めは人気者になりたい、目立ちたいという視点だったんですが、YouTube以外のものも含めていろいろな動画を見て、もっとクオリティーを上げたい、こんなものをつくってみたいとか、視野が広がってきています。カメラワークや編集など、専門的な知識も学びながらクオリティーを上げていきたいですね。
長谷川:今回この二組とお仕事をするなかで、電通のクリエーターからも「日本エレキテル連合さん中毒になる」「はじめしゃちょーすごい」という賛辞の声を何度も聞く機会がありました。エレキテルさんについては、やはり毎日コントを出し続けているという継続力と、それぞれのキャラクターになり切る演技力や表現力に驚かれていました。はじめさんについては、動画のネタがプロでは思いつかないような意外性にあふれていること、例えばメジャー(巻き尺)が巻き戻るのと走って競争するなどの斬新なアイデア高く評価されていました。こうした驚きを、広告業界の方ともっと分かち合っていきたいと思っています。
池上:YouTube・YouTuberのプラットフォームとしての拡がりは、エレキテルさんやはじめさんのように「親近感」を生み出しながらファンを形成していった結果でもあるんですね。そして、それは「ファン作り」つまり、マーケティングそのものだと言えるでしょう。
長谷川さんもおっしゃっていましたが、単なる視聴者としてだけではなく、マーケティングに携わる立場として「なぜ、この人・この動画に多くのファンがついているんだろう?」という問いを持ちながら、YouTubeを見ていくことは大事ですね。
関わる人誰もが平等なプラットフォーム上で、頻度の高いコミュニケーションが行われているからこそ、それぞれのチャンネル・YouTuberには確かなファンがひもづいている。この事実から我々が学ぶことは、多くあるはずです。