Brand TalksNo.1
カスタマージャーニーの未来(前編)
~ad:tech tokyo international 2015より~
2015/08/27
2015年7月に東京ミッドタウンホールで開催された、グローバルなデジタル・マーケティング・イベント「アドテック東京インターナショナル2015」。今回はその中から、「カスタマージャーニーの未来」と題したセッションの内容をご紹介します。
加藤:本セッションでは、「カスタマージャーニーの未来」をテーマに議論を行っていきます。最初に私の方から簡単にイントロダクションを。カスタマージャーニーという言葉を定義するならば、「顧客と企業がつながる全ての瞬間の連続によって生まれる、一人一人の顧客体験」といえるのではないでしょうか。今日のマーケティングを考える上での重要なキーワードであり、そしてデジタル化の中で大きく変化しつつありますが、なぜ、どのような本質的な変化が起こっているのでしょうか。
小西:もちろん、スマートフォンの浸透はカスタマージャーニーに根本的な変化をもたらしたわけですが、その概念自体もより重要になりつつあります。三つの要因を挙げるなら、第一に、消費者のデジタルメディア・シフトによって、顧客接点が従来と比べてはるかに「多様化・断片化」してしまった。これはマーケターにとって複雑で難しい状況に見えますが、顧客は単に、もっとも身近なデバイスやメディアで効率的に情報収集や購買を行っているのであり、顧客のジャーニーを理解することではじめてマーケティングアプローチを最適化し得る。第二に、スマホシフトによって、メディアや顧客接点の「コントロール」がより顧客主導となったことが挙げられます。もはや企業やメディアはかつてのようにジャーニーをコントロールできず、できることはそこに影響を及ぼすか、動線をシンプルにするぐらいです。
第三の変化は「即時化」で、消費者の認知から購買・行動に至るプロセスが圧倒的にスピードアップしたこと。ジャーニーという言葉のイメージとは異なります が、今日では数秒から数分レベルの「モーメント」の単位で情報収集や消費が起こっており、それが新たなアプローチのチャンスをもたらしている。また今日の 消費者は、“Always On”(いつでもつながっている)。スマホを通じて24時間いつでも発見・興味・検索・購買などのジャーニーが起こり得る時代であり、顧客起点のタイミン グ把握と創造が、決定的に重要になってきているといえるでしょう。
鈴木:カスタマージャーニーは、決して新しい概念ではありませんが、デジタル全盛の時代には必須の観点だと思います。私からは3つのジャーニーの変化を指摘したい。
第一に「メディア体験」の変化。マスマーケティング全盛の時代には、消費者が顧客になる過程で、ニーズや欲求を顕在化させる上でマスメディアが大きな役割を果たしてきましたが、今日ではソーシャルメディアをはじめとするデジタルがメディア体験を大きく侵蝕し、スマホが情報の選択やコントロールを個人にもたらしました。第二は「購入体験」の変化です。かつてP&Gが、流通の影響力の拡大する中で、第一の「真実の瞬間」(1st Moment of Truth)として、(メディアによるブランドの認知段階以上に)消費者が店頭で商品に接触して選ぶ瞬間がより重要になった点に注目しました。しかし今日ではデジタル化と購買プロセスの「即時化」によって、グーグルの検索など、プロセスの起点=ゼロ段階の真実の瞬間(Zero Moment of Truth)が再び重要になっており、商品の比較検討やチャネル選択自体にも大きな影響力をもたらしています。
そして第三が「使用体験」の変化で、今日、ブランドの価値を生み出すコアの瞬間・体験の重要性がいっそう増しています。ソーシャルメディアはこの体験を共 有することで増幅し、デジタルサービスは使用体験を購買後のものではなく、(購買前の)起点にもってきた。フリーミアムなどのモデルを採用することで、 「まずは使って満足してもらい、お代は後で」という提案をできるようになったのです。
田端:スマートフォンがもたらした変化は、われわれが考える以上に今後もっと大きな影響を及ぼしていく、もはや後戻りできない歴史的なパラダイムシフトであると思います。カスタマー「ジャーニー」といいますが、20世紀初頭にT型フォードの量産型自動車がもたらした「移動」や「旅」の大転換が、文字通り21世紀の今日、スマホの普及によって再び起こっているともいえる。我々は手の中のデバイスでいつでも情報にアクセスし、すぐにどこにでも行けるし何でも買える。すなわち、ジャーニーの乗り物自体が全く変わったのです。
(後編に続く)