Experience Driven ShowcaseNo.20
未来の「イルミネーション」について考える
2015/09/01
8月末まで行われていた東京ミッドタウン「SUMMER LIGHT GARDEN」。
イルミネーションによって表現された清流と、「ひかり花火」を楽しむエンターテインメントショーを制作した、コマデンの渡辺雅大氏、電通テックの甘田奈緒子氏、電通の原田和明氏が、イルミネーションイベントの企画、技術、未来について語り合いました。
取材編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
「イルミネーション」の定義ってなんだろう?
原田:今、日本で、どういうイルミネーションが流行っていると思いますか。
甘田:とにもかくにもプロジェクションマッピングだな、という気はしますよね。プロジェクションマッピングはイルミネーションなのかな。そこも議論だと思うんです。
原田:僕は、プロジェクションマッピングはイルミネーションではないと思っている。別の演出要素や技術を組み合わせて一つのショーにしているから。暗いところで光を使って、何かエンターテインメントを表現するという意味でいうと、イルミネーションもプロジェクションマッピングも一緒なんだけれど、技術は全く違うので。
渡辺:イルミネーションには、モチーフをメーンとした見せ方と、エリア全体にちりばめるようなデザインの、大きく二つの流れがある。技術の進歩とともに、最近は一定時間の中で動きを見せるイルミネーションが増えてきているような気がします。多分、世間一般の雑誌などで紹介されているイルミネーションの定義は、「光っているもの」をイルミネーションと呼んでいると思う。
原田:なるほど。暗い空間の中で、光によって何か表現するものが、いわゆる世間一般でいうところのイルミネーションでしょうか。
渡辺:映像装置は、その映像を見る視線の方向が決まっている。モニターの後ろではモニターは見えない。イルミネーションは、いろんな方向からでもそれが見える。あと、映像は面で構成されています。
原田:そう。そこは結構大事だと思っていて、映像って面ですよね。イルミネーションは点で形を、立体的なものをつくっていくものじゃないかと。映像とイルミネーションの大きな違いは、ある決まった形の中で情報を発信しているのか、空間の中に光のデザインをしていって別なものを表現するのか、これが一番大きな違いかなと思います。
渡辺:プロダクトや建築などのデザインは、機能美が必ずついてくるものだと思うんです。イルミネーションには機能美は必要なくて、見る人間を楽しませるエンターテインメント寄り。通常のデザインとは違って、どうやったら人が見て「おーっ」と思うかに特化したものだと思います。
僕がデザインするに当たって、あまり型にはめた形をつくると、環境照明器具のようなものになってしまう。イルミネーションに寄せるためには、極力小さな点光源を基調とします。光源の面が大きいと、イルミネーション感が少ない。つぶつぶしていると、イルミネーションと捉えてもらえる。
甘田:それはあるかもしれないですね。
渡辺:面でお星さまの形をつくっても、うっとりする人はいないと思うんですけれど、つぶつぶの点光源で同じ形が構成されていると人は「きれい」と言いますよね。
甘田:確かに。ホタルが大きかったら、ちょっと嫌ですもんね(笑)。小さい光が大事なのかも。
原田:イルミネーションの起源はいろいろな説があるらしいんですけど、ヨーロッパで始まった、星を光で表現してみようという試みから始まっているとか。
渡辺:僕はイルミネーションの起源は、やはりクリスマスにつながるのかなと思っています。その昔は当然フィラメントの電球も存在しないわけで、クリスマスのお祝いでたくさんのろうそくの火が祭壇か何かで飾られていて、「あ、これってきれいだな。じゃあ、あそこにもろうそくを飾ってみよう」みたいなのが始まりなのかなって思っていて。
だから、星もその条件に当てはまるけども、やはりイルミネーションのもとは、ろうそくだったり火もあるのかなと思いますね。火だとすると、光がちょっと変化する、そんな揺らめき、動きというものが今も世間一般に受け入れられてるのではないかなと。
原田:なるほど。もともと火に対する深層心理に、落ちつき、憧れ、美しさみたいな感覚があって、それがあるからこそ、動いている、揺らめいている、瞬いているイルミネーションに対しても親近感を覚える。
渡辺:そういうことだと思います。
原田:なるほど、渡辺説ですね(笑)。
甘田:確かに、暖色系イルミはそういう感じがしますものね。青イルミは星の方がしっくりきますけど。
フィラメントからLEDになって、飛躍的に表現が拡張した
原田:光の色の話が出たところで、LEDの話をしましょう。
渡辺:もともとのイルミネーションは、フィラメントの電球ですね。イルミネーションが広がったのは、青色発光ダイオードができたからですね。僕が生まれる前から、発光ダイオードはあって、バスの電光掲示板やパイロットランプなどにはいっぱい使われてはいたけれど、光の三原色の赤とグリーンの間しかつくれなかったので、どうしても表現は限定されてしまう。
青色ができたことによって、光の三原色であるRGBが表現できるようになったので、何色にでも光ることが可能になった。
原田:LEDによって実現可能になったことを挙げてください。
渡辺:僕が感じているフィラメント時代とLEDの一番の違いは、フィラメントの発光はアンバー系なんです。もともとのフィラメントの色がアンバー系なので、ちゃんとした青が出なかった。どうしても水色っぽくなっちゃう。アンバー+青なので、きれいな白を出すのもかなり難しかったんです。
原田:そういう意味で、色の再現性が非常に高くなった。
渡辺:はい。冷たい色が出せるようになりましたね。世間一般的には、何かLEDの光って冷たいよねとかよく言われますけど、表現の幅としては広がったと思っています。
甘田:今や、約1700万色でしたっけ。
渡辺:そうですね。光を出せる階調が。まあ実際、本当にその色が出るかどうか確かめた人がいるのか分からないですが。
原田:計算上はそうでしょう。そういう意味でいうと、青色発光ダイオードの発明と普及は、イルミネーション業界においては大革新でしたね。
渡辺:あと、やっぱり熱の問題ですよね。どうしてもフィラメントの場合は同時に熱も出るので、木は傷むし、光がたまっていると高温になって発火のおそれもある。LEDになったことによって、熱の問題も解消され、電気容量も解消され、装飾しやすくなった。
イルミネーションのデザインと、制御のプログラミングを両方やる
原田:LEDへの進化があった上で、どういう色をどういうふうに表現していくのかという、プログラミングや制御の話もある。制御の技術も大きく進化したということなのでしょうか。
渡辺:ちょっと専門的な話に寄っちゃうかもしれませんが、本当に20年くらい前には電飾を流す、動きをつけるとき、うちの会社では基本6段、6個のチャンネルを順番に流していくというのが「動き」だったんですね。
デジタル信号が入ってきたことによって、一気に扱えるチャンネル数が増えた。例えば今主流で使われている信号の形態としてDMX信号がありますが、基本的には2本の信号線で512チャンネルを制御できる。ですので、デジタル化したことが、制御で一番進歩につながっているんじゃないかなと。
原田:表現できる細かさ、表現の多様さが爆発的に上がったと。
渡辺:先ほどの例えで言いますと、今までは100灯の電球があったとしたら、基本、6チャンネルの繰り返しで電飾を流していたものが、100灯全部を使って全体でウエーブを流すことができるようになったり、全部を使ってグラデーションで波のような表現ができたりというのが可能になりました。
原田:イルミネーションのデザインで、制御まで全てできる方は日本中で何人ぐらいいるんですか。
渡辺:多分、少数だと思います。同時にできる強みというのはあるんですけれど、動きの演出も自らつくるというのは非常に負担が大きく、時間もかってしまいます。
原田:イルミネーションデザインをして、それをプログラミングまで一気通貫でやれる人間というのは、今、渡辺さん以外ほぼいないと。
渡辺:監修されている方はいらっしゃると思いますが、自ら製作というのは少ないと思います。
原田:動きを持ったイルミネーションが主流になっていくとすると、今までのイルミネーションのデザインだけをしていた人たちは、これから先しんどくなっていかないですか。
渡辺:いえ、僕は、動くイルミネーションの弱点もあると思っています。例えばミッドタウンもそうでしたが、さまざまなコンテンツが光って消えて、全体のショーの流れが起承転結になりますよね。そうすると、ほとんどの時間で全点灯しないんです。
本来は装飾的に飾っているものなのにフルでつく時間がすごく短い。だからいっぱいお金かけて飾っているのに光が少なく見えちゃう。ずっと全てつけっぱなしにしておいた方が華やかに見えるという場合もありますね。
原田:渡辺さんが言っている動きというのは、点滅というか、つくことと消えることでしょうけど、僕は、光の色が変容していくことも動きだと思うんです。
渡辺:ああ、なるほどね。赤から青とかね。
原田:渡辺さんはそういう意味でいうと、光を消して光をつけてということを多角的にやることで全体を動かして見せていますと。デザインもやるし、その動きを含めた制御まで含めてプログラムしますと。そこをワンストップでやるのが俺の強みだと。
渡辺:まあ、そうですね(笑)。会社員なので、「弊社の強み」ですね。
「イルミネーション」は「手法」になっていく
渡辺:日本の今のイルミネーションは、ちょっとガラパゴス化しているじゃないですか。
もともとはラスベガスのようにエンターテインメントの一つとして表現していたものですけれど、恋人たちに対してだとか、ファミリー向けなどのニーズを、ターゲットを狭めて表現を多様化させている国は日本以外にはないでしょうね。
甘田:四季折々でもやりますものね。桜イルミとか竹イルミとか。
原田:繊細で、すごいつくり込みも丁寧。最終的に出来上がったものは、まあ、わびさびのアートみたいな。アジアは、派手さを求めますよね。ヨーロッパは神聖さを求める気がする。
渡辺:日本は、イルミネーションが主役な場合が多くなってきました。ラスベガスは、技術は高いことをやっているけどもイルミネーションショーではない。日本はイルミネーションだけが主役となって、集客などを狙っている。
甘田:メディアアートの人たちがイルミネーションに入ってきたじゃないですか。という流れでいくと、逆にガラパゴス化じゃなくなる流れもあるのかな。
原田:他のことを専門にしている人たちが、イルミネーションみたいな表現も使おうとしている。もしかしたら出口が広がっていっているという考え方もあるかなと。
甘田:出口は広がっていますよね。ガラパゴスの種族が増えているのか(笑)、はたまたグローバル化に行っているのかは、まだ分からないなと思います。
渡辺:イルミネーションを見に来る人が、何を求めているかって多分、非現実的なものを求めているんじゃないかと思うんです。
だから、日常のものという概念からより離れたもの、非日常的なものを表現するかを考えると、いろんなものを掛け合わせた方が当然表現はしやすくなってくるし。イルミネーション職人の座が奪われる日も近いのかなあという感じもしなくもないです。
原田:課題はたくさんありますね。今日はイルミネーションについて1時間半も話してきたのに、まだまだ話せる気がする。奥が深いですね。