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Brand TalksNo.3

ブランドをつくるメディアの未来(前編)

2015/09/29

デジタル化によって激変を遂げる今日のメディア。コンテンツマーケティングへの注目、キュレーションメディアの拡大、SNSプラットフォームなどのメディア化、ネイティブ広告など広告フォーマットの多様化も進む中、一次情報メディアの役割を改めて捉え直すことが必要になってきています。
今回は、積極的なデジタル戦略を加速するデジタルメディア企業のお二人と、ブランドをつくるメディアの未来形について議論していきます。

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左から、小西圭介氏(電通)、今田素子氏(インフォバーン/メディアジーン)、星野裕子氏(フィナンシャル・タイムズ
 

メディアをめぐる環境激変と一次情報メディアの危機感

 

小西:今日、デジタル化で激変するメディアをめぐる議論が盛んですが、アドテクや広告ビジネスなどの話が多く、個人的には、メディア本来の価値のあり方についてもっと考察すべきではないかと思っています。そこで、本日は「ブランドをつくるメディアの未来」というテーマでお話を伺っていきたいと思います。最初に、今日のメディアをめぐる状況認識と課題について簡単にお話しいただけますか。

今田:はい。インターネット以降、オーディエンスの情報消費動向の変化によって、メディア企業はどうやってビジネスをしていくかと翻弄され続けています。特に今日、トラディショナルメディアも含む一次情報メディア(自分たちで情報を生み出しているメディア)が、情報開発コストに見合った収益を維持しながら、どうやってビジネスをしていくのかが、世界中で課題になっています。
さまざまなプレーヤーの参入による競争激化とともに、スマホによってユーザーの情報を受け取る手段が非常に増え、また、圧倒的な情報過多になっている。さらにSNSやキュレーションメディアの拡大などで、メディアが自らの情報流通をコントロールできなくなってきた。今までみたいに「これが好きだからこのメディアを見よう」とか、「このメディアが好きだからこの記事を見よう」とかいう情報行動すら、一部のブランド力のあるメディアを除けばもはや幻想になりつつあるぐらいです。

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星野:もちろん世界中のパブリッシャーも、紙に固執しては生きてはいけないということは認識していて、デジタル化に対応したビジネスモデルの変化に取り組んでいます。フィナンシャル・タイムズ(以下FT)の場合は、世界の経営幹部層を中心に読者を持ちますが、約70万人の有料購読者のうち、すでに50万人がデジタルメディアの契約者です。

メディアのブランド価値の本質とは?

 

小西:デジタル化で新規参入が容易になり、競争が激しくなる中で、コンテンツの信頼性や専門性、顧客基盤の質やメディアへのエンゲージメント(関与や期待)が一次情報メディアの差別化の鍵になっている。広告(BtoB)や購読(BtoC)ビジネスにおいても、既存の流通プラットフォームを超えてもっと「メディアブランド」の価値を高めないと生きていけない時代になっていると思います。

星野:その通りで、FTではクオリティーペーパーとして、メディアのブランド価値が広告の価値を底上げするところに価値があると思います。FTでは定期的にユーザーの広告イメージ調査を行っていますが、例えば同じ時計の広告を出しても、FTに出てきた広告だと値段の高いものだと認識されていたりするわけです。

今田:メディアのブランド価値という点では、このメディアだったらこういうものを読ませてくれるだろうという期待が大事ですよね。ところが、今日(情報が個別に流通して)メディアがコンテンツ・広告も含めてアンパッケージされてきてしまっている。こうした状況の中では、外に出て行ったものを含めて価値であるともいえるだけに、一つ一つのコンテンツの価値がより重要になってくる。どこからどこまでをメディアの価値とするのかという線引きは難しくなっています。特に第三者配信(外部のアドネットワークなどを通じて広告を販売すること)だと、広告とメディア価値が切り離されてシナジーが生まれにくい点が問題。

小西:メディアの持つブランド力とは、本来顧客の欲しい情報・コンテンツ・体験をパッケージ化することで、一貫したメディア体験によって顧客の期待や行動への影響力を生み出す力にあって、その中に含まれるブランドの情報や広告コンテンツ自体の価値をも高めるところにあるわけですよね。メディア価値や顧客の体験と切り離された広告の価値が下がり、コスト競争に陥ってしまうのは当然です。

星野:確かに、パッケージされたものの価値を再度認識する必要性はあると思います。新聞だったら編集のセレンディピティー効果、すなわち読もうと意図していなかったけれど、予期していなかった新しい情報との出合いの価値というのもあると思います。デジタルメディアのレコメンド記事提供も含めて。
コンテンツに関していえば、FTはマーティン・ウルフ(世界銀行出身のエコノミスト)や、ジリアン・テット(アメリカ版エディター)のように、世界の流れを予測し、決めていくような情報発信をする著名コラムニストが数多くいて、メディアとしての情報コンテンツの独自価値をつくっている。

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今田:ただし一方で、デジタルならではのコンテンツ体験に合わせて、パッケージの仕方も進化していく必要があると思います。最近、cafeglobe、MYLOHAS、GLITTYという自社の女性向け3メディアをgeneというブランドで統合しました。各メディアの入り口もありますが、メディア単位のデモグラフィックで切るだけでなく、テーマやコンテンツへの興味関心で横串して共有することにしたわけです。なぜかというと、情報が外に出ていって、コンテンツに外からアクセスする人が多くなってきて、個別のメディアを超えてコンテンツ体験を提供しないとメディアの価値や競争力を維持できなくなったからです。

小西:従来の情報が紙や放送枠に固定化されたメディア単位の発想を超える必要があるということですね。雑誌メディアは高度に細分化されていますが、デジタルメディアで情報が流動化するようになると、デモグラやライフスタイルだけではなく、インタレストグラフ(コンテンツへの興味関心)に基づくターゲットアプローチの可能性も広がっている。コンテンツやメディア価値の強化という点では、デジタルの新たな可能性として興味深いと思います。また、個々のコンテンツの出所表示としてのブランドはより重要になりますね。

今田:コンテンツがメディアの外で切り出されて展開していく時代なので、ブランドもメディアの中だけで考えていけない。読者が見たいコンテンツを、メディア(ブランド)の枠を超えて提供することが必要だと思います。

グローバルなメディアブランドの市場機会が拡大している

 

小西:FTはトップクラスのグローバルなメディアブランドとして知られていますが、デジタル化によって一方でメディアのグローバル化のチャンスも顕在化していると思います。企業のグローバルブランディングなどをお手伝いしていると、市場を超えてターゲットセグメントにリーチし、ブランド確立や顧客開拓を図るニーズが非常に増えているわけです。欧米系のメディアはこの点ではるか先に進んでいるのですが、日本のメディア業界は言語や文化の問題でドメスティックな市場をなかなか超えられず、残念ながら日本発のグローバルなメディアブランドはほとんど存在していない状況です。この点ではグローバルな市場展開を図るGoogleやFacebookなどのプラットフォームとの競争も含めて、成長市場にアクセスできていない。

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星野:確かにFTだとグローバルなCクラス(CEO、COOなどの経営層)のクラスターをターゲットにしており、世界中のホテルにも置かれている。こうした人は世界中どこでも共通した属性や行動スタイル・価値観を持ち、コミュニティーを形成している。コンテンツもグローバルを前提に、世界の経済を牽引している読者が毎日何を読むべきか、プラットフォームにかかわらずFTが選んで解説していく、そういう道先案内人になることを目指しています。そして市場を超えてこうした層にリーチできる、オーディエンスデータを持っていることがFTの強みとなっています。

小西:今田さんのところではギズモードやライフハッカー、また最近日本版を開始したデジタルマーケティング専門メディアのDIGIDAYのような、ターゲット層を特化したグローバルなデジタルメディアとの提携・市場展開にフォーカスしていますね。

今田:はい、でも市場を超えてメディアブランドを確立するのはなかなか難しいと感じます。特にコンテンツに関しては、ローカルの読者ニーズに応えるために、独自コンテンツの割合をかなり増やしていかないといけない。また、ライセンスの場合、編集権をどれだけ確保できるかが成功の鍵を握っています。広告メディアとしてのグローバル展開という意味では、拡大するインバウンド市場ニーズなどにもっと対応していきたいと思います。

小西:なるほど。市場を超えたブランドの期待を形成しながら、個々の地域の読者ニーズを掴むマーケティングと編集・コンテンツのローカライゼーションが欠かせないわけですね。いずれにせよ、デジタルメディアのグローバルなブランディング競争が拡大する中で、ターゲットが明確で差別化された専門メディアの台頭がより進むのは必然です。専門性・権威性とコンテンツのターゲット吸引力や、単なるリーチではない読者ターゲットへの影響力・コミュニティー波及力によって、広告主のブランド価値への寄与が図れることも強みになるのではないでしょうか。

後編に続く)