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Brand TalksNo.5

BtoBマーケティングの未来:
LinkedInのグローバル・ソリューション
最前線(前編)

2015/10/23

ビジネス利用に特化したSNSとして、世界で3億8000万人を超えるユーザーを持つLinkedIn(リンクトイン)。近年はBtoB向けのマーケティングソリューション事業を拡充し、急速な成長を遂げています。今回は、同社広告事業のグローバルBtoB部門を統括するブライアン・バーディック氏に電通の小西圭介氏が、グローバル化の進むBtoBビジネスにおけるデジタルマーケティングの課題と展望、さらにLinkedInの今後の戦略について聞きました。

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左から、ブライアン・バーディック氏(LinkedIn)、小西圭介氏(電通)
 

「プロフェッショナルの経済的機会の創出」をビジョンとするLinkedIn

 

小西:LinkedInは、ビジネス上のネットワーク構築を目的とする、世界最大のプロフェッショナル向けSNSとして知られていますが、日本ではまだそれほど浸透していないせいか、グローバルなBtoBビジネスにおける価値を充分認識されていないように思います。まずはLinkedInの特徴について教えていただけますか?

ブライアン:2003年にサービスインしたLinkedInは、現在では世界で3億8000万ユーザーを抱え、200カ国以上で活用されています。米国発ということで、欧米中心のサービスと思われがちですが、APAC(アジア太平洋地域)はもっとも急成長している重要なエリアで、投資もしています。それはすなわち、BtoBのクライアント企業がアジアに注力しているということでもあります。例えばインドは現在、最大の米国に次いで世界で2番目に多い3100万以上のユーザーとなっており、中国でも1000万人を超えています(下図)。
一方、日本のユーザー数はまだ100万強なので、もっと多くの方に使っていただくために、サービスの理解に引き続き力を入れていきたいと思います。

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小西:日本では仕事やプライベートの人間関係でもFacebookやLINEなどが活用される傾向にあり、「ビジネス特化のSNS」というものを利用する目的もあまり明確でないようですが、人々はなぜLinkedInを使うのでしょうか。

ブライアン:それは当社のミッションとビジョンを説明するのがよいかもしれません。LinkedInのミッションは「世界中のプロフェッショナルの生産性を高めて、より成功するために、つないでいくこと」。さらにその先にあるビジョンには、「世界中のプロフェッショナルのために経済的な機会を創出すること」と掲げています。ネットワークをつくるだけでなく、それによって新たな価値を生み出すことを目指しているのです。

小西:なるほど、LinkedInはプレゼンテーションを共有するSNSサービスの「スライドシェア」や、世界最大級のオンラインビデオ学習サイト「リンダドットコム」を最近買収したそうですが、そうしたビジョン・ミッションに基づく戦略ですね。
ところで、LinkedInを利用するプロフェッショナル・ユーザーには地域以外に業種やデモグラフィックなど、どのような特徴があるのでしょうか。また、戦略的に重視しているターゲット層はありますか。

ブライアン:LinkedInにはビジネス、クリエティブ業界からパブリックセクターまで幅広い業界のプロフェッショナルが登録しており、経営幹部層や専門家、インフルエンサーなど、高いキャリア・プロフィールを持つユーザーが多いのが特徴です。特に重視しているセグメントは3つあり、シニアリーダー(経営幹部)層、「ITコミッティー」と呼んでいるIT業界やIT購買に影響を持つ層、そして1980-2000年生まれの若年層で特徴的な消費スタイルを持つミレニアルズ(Millennials)です。LinkedIn に登録しているミレニアルズは、経済的に豊かな層が多い傾向があります。

BtoBマーケティングの課題とソリューション・アプローチ

 

小西:LinkedInというと、いわゆる人材採用やキャリアップの転職サイト的なイメージがありますが、近年はBtoB広告などのマーケティングソリューション事業が急速に拡大しています。これはどのような経緯で取り組んできたのでしょうか?

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ブライアン:はい。「タレントソリューションズ」と呼ばれる法人向けの人材採用システムが、現在でも売上の半分を占めているのは事実です。ビジネス利用ですからユーザーは自分の経歴やスキルを書き込みますが、そのために当初は転職のためのSNSとして認識されることが多かったんですね。日本では今でもそうかもしれません。
BtoB向け広告などを提供する「マーケティングソリューションズ」の領域は、もともと私が起業したBtoBマーケティングのソリューションを提供するBizoという会社を2014年にLinkedInが買収したことによって加速しました。対象顧客への広告でのリーチから、反応のあった見込客の開拓に加え、ワントゥワンでのリードナーチャリング(見込客の育成)をサポートする「リードアクセラレーター」を取り込むことで、一貫したソリューションを拡充してきました。なかでも「スポンサードアップデート」(ターゲットに最適化され、フィードに直接表示されるコンテンツ型広告)などのネイティブ広告が大きな伸びを見せています。
日本でも2015年から、広告配信からリードアクセラレーターまで含めた全体のファネルマーケティング(ファネル=多数の潜在顧客が絞り込まれ顧客化するまでの育成プロセスを「じょうご」に例えたもの)のソリューションを発表し、BtoBマーケティング支援の取り組みを強めているところです。

小西:日本にも、グローバルで事業を展開し、世界的なシェアを持つBtoB企業が数多くありますが、ブランディングやマーケティングにおいてBtoCとは異なる課題があり、まだまだ取り組みが遅れているケースも少なくありません。ブライアンさんはBtoBマーケティングの難しさは、どのようなところにあるとお考えですか?

ブライアン:そうですね。私もBizo創業前にはBtoBのマーケターとして勤めていたので、現場での難しさはよく分かります。まず、BtoBビジネスでは購買行動のプロセスが極めて長い。それから決裁権限者が多数にわたっているので、ターゲットアプローチも複雑で大きなチャレンジになります。言い換えれば、「長く複雑なプロセス」のどの段階にあるかによって、それぞれのターゲットに最適化した情報を届ける必要があるということです。一般消費者向けに、「あなたが気に入ったこの靴、売り切れちゃうよ」とバナーを出し続けるのとは、わけが違います。

小西:確かにBtoBコミュニケーションでは、BtoC以上に効率的な情報収集をするため、自分に関心のない情報やメッセージは一切シャットアウトする傾向にあります。自分にとって役立つ、最適な情報提供は決定的に重要ですね。

ブライアン:BtoBではBtoCに比べて非常に機会損失が多いことも、大きな問題です。われわれの調査では、サイト訪問などで一度接触した潜在顧客のうち95%が登録せずに離脱し、いったん登録した見込客ですらメールを開く確率は20%程度で、すなわちこの段階でわずか1%しか残りません。自社の情報や課題を明かしてくれて、最終的に成約にたどり着く可能性は、費やす時間やお金を考えるととても低い。BtoBの購買におけるカスタマージャーニーを把握し、うまく育成しようとするマーケターの苦労は相当だと思います。

BtoBマーケティングの5つの最新トレンド

 

小西:こうした中で、近年のデジタルマーケティングの進展が、BtoBマーケティングの領域でも新たなチャンスとアプローチ手法の可能性を大きく広げていると思いますが、最近の変化のトレンドをどのように捉えていますか?

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ブライアン:これらのBtoBマーケティングの難しさを解決しうるチャンスであり、当社にとっても追い風となるトレンドを5つの観点でご説明しましょう。キーワードを挙げると、

①モバイルにおけるレレバンス(関連性)の重視
②データによるコンテンツとユーザー体験の革新

③ナーチャリング(見込客育成)のテクノロジー進化
④成功予測の高精度化
⑤アドテクノロジーとマーケティングテクノロジーの融合

です。
まさに先ほど小西さんからも指摘があったように、レレバンス(関連性)を重要視することは当社のBtoB支援の全体を貫くコアとなる考えでもあります。細かく複雑なプロセスにおけるナーチャリングは、メッセージの最適化が不可欠です。プロセスのある地点での潜在顧客に対して、関連性が高いコンテンツや情報を提供することが求められます。
特にスマートフォンなどモバイルは、パソコンに比べてパーソナルな要素が強い。ここに自分と関係ない情報が出てくると余計にうるさく感じます。モバイルが仕事にも生活にも密着する中では、ユーザーと情報との関連性がますます重要になるわけです。

小西:誰にメッセージしているかわからない広告よりも、一人一人のターゲット属性や関心、購買プロセスの状態に合わせてコンテンツをカスタマイズして配信できるLinkedInの強みが、BtoBのモバイルシフトでより発揮しやすくなっているわけですね。

ブライアン:そう思います。2つ目以降のキーワードも簡単に説明すると、データを使うことで、より関連性の高いコンテンツ配信やユーザー体験を提供できるようになっているというのが次のトレンドです。
3つ目は、テクノロジーの革新によってナーチャリングの機会が広がっていること。購買プロセスの最後に当たるコンバージョンの部分も重要ですが、それより前のナーチャリングのプロセスに力を入れることで、さらに進化したマーケティングが可能になります。

小西:見込客との接触プロセスの浅い段階では顧客情報も乏しいので、一般的に一人一人のターゲットに的確なメッセージ発信がしにくい傾向がありますよね。この部分がソーシャル上のデータとテクノロジー活用によって進化しているということですね。

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ブライアン:そうです。LinkedInではユーザーの関心情報を活用できる優位性があります。例えば、まだつながりが浅いユーザーの声(投稿)や情報接触や反応行動からある種のシグナル、これを「デジタルボディーランゲージ」と呼んでいますが、そういったシグナルを察知してナーチャリングに生かしているのです。
また、4つ目の予測というのは、他のトレンドとも関連しますが、顧客データにもとづき、ブランディングやマーケティング活動について精度の高い予測が立てられるようになっていることです。そして最後に挙げた「アドテクノロジーとマーケティングテクノロジーの融合」で意図しているのは、スケール(規模)とカスタマイズ(最適化)の両立です。LinkedInのオーディエンスに対するファネル全体のマーケティングでは、双方の利点を融合させたマーケティングが実現可能になっています。

小西:ユーザーネットワークによる広告配信のリーチ規模と、一人一人の顧客との継続的関係性に基づくカスタマイズの両方を追求するから、最終的に大きなコンバージョンを得られると。

ブライアン:ええ。適切なユーザーへ広告配信するところから始めて、ファネル上部の間口を広くし、ナーチャリングを通して最後の成約率も高める。それが当社の行うBtoB支援サービスの強みです。

後編に続く)


後編では、BtoBマーケティングの課題をどのように解決できるのか、LinkedInの今後の戦略に迫ります。>