Dentsu Design TalkNo.62
「社会のために」は、ブームじゃないぜ!(後編)
2015/12/05
電通ビジネス・クリエーション・センターの並河進氏と、「風とロック」の箭内道彦氏。形は違えど、東日本大震災以降がむしゃらに復興支援の活動に向かってきた2人は、やがてお互いを知るようになり、昨年はNHK紅白歌合戦の仕事を、今年は福島県のCMを2人で作るなど、最近は共に仕事をする機会も増えている。
「社会のために」という視点を持って、広告に携わりたいと考える若い人は増えている。しかし、その思いを仕事にすることはまだまだ難しいのが現状だ。そんな中、「社会のために」を仕事にしている2人が、その出発点や、自分と仕事と社会の関係を語り合った。その後編をお届けする。
紅白歌合戦は福島の今を伝える“最強のCM枠”だった
並河:箭内さんが震災の後、スイッチが入った瞬間はいつだったんですか?
箭内:一番は、福島中央テレビから県民の方々へのビデオコメントを求められた時かな。「今だけじゃなく自分はずーっと(支援活動を)やります、約束します」と言ったんです。それまでは、ロックに生きたい、明日死んでも構わないと思ってた。でもその時、この約束は長生きしないと全然意味がないんだと気づいて。それまで約束するのなんて、大嫌いだったんですけど。
並河:それもロックなんですね。
箭内:もともとどこもロックじゃないんですよ。ロックな人は、自分でロックって言わないの(笑)。
並河:「I love you & I need you ふくしま」では、2011年の紅白歌合戦に初出場されましたよね。
箭内:紅白歌合戦に出たかったんです、ものすごく。一番全国の注目を集める場だから。広告会社にお願いしても絶対に買えない強烈なCM枠だと思っていたので。福島の今を絶対に伝えようという使命感で臨みました。台本を見たら、嵐のメンバーと話す場面があったんですよ。「ここだ!」と思って。台本にはあらかじめセリフが全部書いてあるんだけど、違うことを言おうと。文字数が合うように、ギリギリ怒られないように考えてね。「悔しい」と言おうと決めたんだけど、実際にその言葉を言った瞬間に、大みそかで盛り上がっていた日本中がシーンとするのを感じました。カメラを通じて、それって感じられるものなんですよ。
並河:僕も現場にいたのですが、猪苗代湖ズの演奏のあとは、裾で見ていたスタッフも記者も全員が拍手していました。箭内さんは福島を勝手に広告すると言っているけれど、紅白の場で話すこと自体が、箭内さんにとっては広告だったんですね。
自分が本当に感じている気持ちを広告に注げばいい
並河:僕は震災以降、広告は本当のことをどれだけ伝えられるのか、ずっと考え続けてきました。2012年に対談で初めて箭内さんにお会いした時、箭内さんは樹木希林さんと内田裕也さん出演のゼクシィのCMをやられていて、自分は結婚はしていないけど、自分なりの答えを探すということが本当のことを伝えることなんだと話してくれた。僕は本当のことを伝えるのはすごく難しい、でも本当に何かをすることだったらできると思っていて、だから企業が何か行動を起こすプロジェクトを立てているんです。ゼクシィのCMは、企業のメッセージでもあるけれど、自分が本当に思っていることでもある、という風になっていて、そこがすごくいいと思うんです。
箭内:以前NHKの番組「トップランナー」で、自分は自分の好きなものしか広告しないって宣言したんですよ。タワーレコードは音楽が好きだからだし、実家がお菓子屋だからハイチュウのCMは楽しいし。逆に関係のない商品の広告は、僕は下手だし、作りたくないという話をしたんです。でも、その後、いくつか岐路があって、オンワードの23区の婦人服の広告、グリコのビスコの広告と来て、その後ゼクシィの広告の仕事がやってきた。この3つがエポックメーキングでした。なぜなら、どれも自分とは関係がなかったから。婦人服を着る予定もありません、僕はお母さんではありません、結婚もしていません。でも、オンワード23区の仕事の時に、関係の結び方に気付いたんですよ。自分が使うもの、買うもの、好きなものだけが自分との関係じゃない。極端に言えば「分からない」ということも関係だと。分からない、知りたい、感謝している…そういうこと全部が関係だと思ったら、大体の商品が自分にとって関係あるものに突然変わったんです。婦人服なら、僕は頑張る女性たちに感謝しているし、刺激も受けるし、応援もしたいと思っている。その気持ちを広告に注げばいいんだと。
社会のために活動することが自然と仕事になっていく
並河:自分と関係のないものでも関係を見いだすスキルというのは、広告の人間ならではだと思います。前に対談した時も、敵対する人たちの間でどちらのことも「それもあるよね」と認めて橋渡しするようなことを、広告の人間ができたらいいという話もされていました。そして、今年は福島県のクリエイティブディレクターに就任されました。
箭内:猪苗代湖ズの時からずっと、自分は県民側の人間だと思っていたんです。でも、震災から4年たって、県と県民の間にできていた溝をこのままにしてはおけないという思いが大きくなってきて。それをモチベーションに、県の中に入って行こうと思いました。
並河:福島県で箭内さんは「ふくしまプライド」という県の農産物のPRをしていて、僕もお手伝いをしています。福島の農産物においしさや生産者のプライドが詰まっているという真実を堂々と語り、誇りを伝える企画です。
箭内:放射線、基準値、いろんな言葉がありますけど、そういう中で安全な農作物を作り、送り出すのはものすごく大変なんです。大変な努力をして送り出しても、農作物はイメージで「危ない」と言われる。けれど、それを作っている“人”は絶対に否定できないものだろうと並河さんと話しましたよね。
並河:対談の時に、いわゆる企業だけでなく、福島や日本、世界も勝手にクライアントだと思って活動している、勝手に活動しているけれど考え方は一緒なんだ、とおっしゃった。「社会にいいこと」を無理やり仕事にしていくのではなく、社会のために活動していくことが自然と仕事になっていくんだなと、箭内さんを見ていて思いました。最後に、若い人へ「社会のために」をどうやって仕事にしていけばいいか、アドバイスをいただけますか?
箭内:まずは、出身地とか今の地元とか、そういうところと自分の技術やコネクションをつなげることができないか、考えるところから始めるといいんじゃないかな。今の僕の仕事の地元は原宿で、来年4月にラジオ局を作るんです。「渋谷のラジオ」という名前です。何か面白そうだから一緒にやろうという人は連絡もらえたらと思います。
並河:僕は「ソーシャルグッドモーニング」というものを、毎週木曜日社内のカフェでやっています。箭内さんの「月刊 風とロック」(フリーペーパー)もそうですけど、こうやって自分がやりたいことをやっていると仕事につながっていくのは、なぜなんでしょうね。
箭内:自分から働きかけているからなのはもちろんだけど、意外と当たり前で大事なのは、仕事相手に自分を好きになってもらう努力を怠らないことじゃないですか? そういうことに、あまり照れちゃいけないんじゃないかな。
並河:そうですね。「社会のために」だって、普通は照れる気持ちがあるのに、僕らは照れがないんですよね。
箭内:でも、厚顔なわけじゃない。恥ずかしいし、怖いし、表に出ていくときもひるみますよ。自分が攻撃されるだけならいいけど、自分が応援しようと思っている相手にも攻撃というのは向いてしまうから。みんながもっと、穏やかになれたらいいなと思います。
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