IoTが創造する、NEW WORLD(前編)

Dentsu Design Talk №68

  • 坂村 健
  • 佐々木 康晴

2016/01/08

IoTが創造する、NEW WORLD(前編)

IoT社会が夢物語ではなくなり、広告業界においても身近なテーマになってきた。東京大学の坂村健教授は、約30年前から「どこでもコンピューター」としてIoTの未来を予見し、オープンなコンピューターアーキテクチャー「TRON(トロン)」を構築したことで知られている。その功績により、今年、世界最古の国際機関ITU(国際電気通信連合)から「150周年記念賞」を受賞した。
電通CDCの佐々木康晴氏は坂村研究室から電通に入社した唯一の弟子。入社20年を迎えた今、坂村教授が目指した社会が実現に近づき、電通での仕事と自分のルーツが結びついてきている。「モノとモノがつながり合う世界」をそれぞれの立場から2人が語ったトークショーの前編をお届けする。

(左から)坂村氏、佐々木氏

 

「IoT買ってこい」ではうまくいかない

佐々木:今日のタイトルは「IoTが創造するNew WORLD」ですが、僕としては「New 電通」だと思っています。IoTがどう広告会社と関係あるのか、先生の話を聞いて、「IoTって自分の仕事と関係あるんだな、やらなきゃ」と思ってもらえたらなと思っています。

坂村:「IoT」という言葉がバズワードになっていますけれども、この言葉はマーケティング用語です。以前は「パーベイシブコンピューティング」や「ユキビタス」と言う呼び方が多かったですが、最近はわかりやすさのためかIoTと呼ばれることが増えています。みんな同じ意味です。「IoT」という言葉はMITにいたマーケティング系の人が言い出した言葉で、要はマーケティングのために、「ユビキタスコンピューティング」とコンセプトは同じでも違う言葉で言っているだけですね。物がインターネットにつながると、例えば会場の入場者数や室内の温度など、さまざまな“状況”を人が仲介することなく自動的に把握できるようになります。生産機械のオートメーション化を超えてIoTは社会全体の最適制御──つまりは省力化や省エネ化、人件費などのコスト削減につながる技術だというわけです。

IoTは今、過度な期待のまっただ中にあります。「ハイプ・サイクル」という新技術の社会認知度を表すカーブは知っていますか? 新しい言葉も年がたつごとに、みんな聞き慣れてくる。意味が分からなくても、はやっているのかなと思う。そうやって期待値が高まっていくんです。

期待が最高潮の時にその技術を使ったサービスや製品が提供されれば、新しいマーケットが開けて成長しますが、具体的な形として提供されなければ、期待値はどんどん落ちていきます。そのうち「ああ、IoTね。利益につながらないからやめたよ」ということになりかねない。研究開発には時間がかかります。マーケティングと研究開発のサイクルはぴったり合うものではない。実用化するためには、ここ数年は辛抱が必要です。そもそもIoTは概念ですから、「IoT買ってこい」じゃうまくいきません。哲学や考え方への理解が必要です。今日はその話をしようと思います。

私はもともと、組み込みコンピューターの研究をしていました。30年前から続けている「TRONプロジェクト」は、必要な瞬間に必要な応答を返すリアルタイムOS技術の研究開発です。ケータイの電話機能や、デジカメが一瞬でピントを合わせる機能などに活用されています。そのプロジェクトのゴールが「HFDS」(Highly Functional Distributed System)という言葉で、あらゆる機械の中のコンピューターが全部ネットワークでつながるという概念を提唱し、1987年にはドイツの出版社から本も出しました。これが証拠になって、2015年にITUが現代のデジタル社会に貢献した世界の6人に与えた賞を受賞しました。何が言いたいかというと、日本がこの分野を切り開いたと言っても過言ではない。なのに、まるで目新しいものが来たかのようにIoTに驚いているんです。

1989年には、住機能をリッチ──高機能化することを目指して、住宅の全てのパーツをコンピューターでコントロールする「TRONハウス」を作りました。今でいうスマートハウスです。スマートハウスのようなものは、ものがインターネットにつながると便利そうだと、分かりやすいですよね。あとはトランスポーテーション。交通渋滞を減らすシステム、地滑りのセンサー感知、ロジスティックの合理化、食品のトレーサビリティーなどです。

科学技術は実用化されるまで20~30年はかかります。スマートハウスも、まさに今やっと商品化され始めています。2004年にはサステナビリティ──つまりエコを目指してトヨタと超インテリジェントハウス「PAPI(パピ)」を作りました。2017年にはLIXILグループとさらに次のモデルを発表する予定です。技術コンセプトはIoTで同じですが目指すものについては、エコやリッチではない第三のキーワード──これは今言えないのですが、概念も大きく変えて登場します。

 

「クローズドIoT」から「オープンIoT」へ

坂村:IoTの研究自体はかなり進んでいて、何をどうしたらいいかは分かってきています。あとはコストダウンや、それをどう出していくかです。インターネットはみんなが使うから面白い仮想世界ができている。IoT技術も、クローズなものならすでに企業内などで実用化されています。しかしクローズのままではいけません。クローズドIoTからオープンIoTにならないと社会を変えられません。日本もネットワーク化は進んでいますが、例えば系列の企業内をつなぐというような、クローズドなネットワークにとどまってしまっている。いま世界では、全世界の部品メーカーをネットワーク化しようとする動きがあります。

こういう動きは少しずつ他の業界にも影響を与えていて、例えばネット印刷サービスで、希望の納品日や料金の印刷を発注すれば、顔を合わせたこともない印刷会社から、打ち合わせすることなく印刷物が送られてくる。この方法だと、クオリティーはこれまでと同等か、ちょっと下がるかもしれない。でも、クオリティーは徐々に上がっていきます。一番大きな変化はコストで、世界に窓口を広げると、コストは下がります。

日本の半導体メーカーはこの波に乗り遅れました。非常に優秀ですが、設計も生産も自分の系列の中に閉じていたからです。世界は、技術開発・製造・販売を分けるモデルに変わってきています。それが「オープンIoT」というものです。

オープンIoTの取り組みが具体的に進んでいるのがオリンピックで、私は今おもてなしをICT技術でサポートする仕組み作りに取り組んでいます。2020年には今の10倍以上の人が日本を訪れます。訪れた人が一番困るのは複雑な都市交通でしょう。開発中の「おもてなしクラウド」は、交通系ICカードをインターネットにつなぐことで、この問題を解決しようというプロジェクトです。

今、ホテル、小売り、文化施設、飲食店、交通系事業、金融、病院などと協議が進行中です。例えば、ホテルのコンシェルジュお勧めのレストランの情報をおもてなしカードに送ると、タクシーに行き先をGPSで伝えたり、レストランでお勧めのメニューが提供されたりと、自動的にさまざまなサービスを連携して受けられる。そんな未来を想定しています。今の交通系ICカードは電車に乗れることと、少額貨幣になること以上の使い道がありませんが、IoTでその能力を上げてやろうということなんです。

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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀