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Dentsu Design TalkNo.64

IoTが創造する、NEW WORLD(後編)

2016/01/09

IoT社会が夢物語ではなくなり、広告業界においても身近なテーマになってきた。東京大学の坂村健教授は、約30年前から「どこでもコンピューター」としてIoTの未来を予見し、オープンなコンピューターアーキテクチャー「TRON(トロン)」を構築したことで知られている。その功績により、今年、世界最古の国際機関ITU(国際電気通信連合)から「150周年記念賞」を受賞した。
電通CDCの佐々木康晴氏は坂村研究室から電通に入社した唯一の弟子。入社20年を迎えた今、坂村教授が目指した社会が実現に近づき、電通での仕事と自分のルーツが結びついてきている。「モノとモノがつながり合う世界」をそれぞれの立場から2人が語ったトークショーの後編をお届けする。

(左より)坂村氏、佐々木氏
 

IoT時代に広告会社の役割はどう変わるのか?

佐々木:電通も今は、サービスやデバイスの開発を行ったり、色んな業界をつなぐ役割を担うなど、広告会社にとどまらなくなってきています。さらに今後IoTで広告会社の役割はどう変わるのでしょうか。今はメディアを「押さえる」という発想ですが、ハイアールの冷蔵庫にディスプレーがつくなど、さまざまな物体がネットにつながってニュースやコンテンツが見られる、というような変化が急激に起きています。IoTで色んなものがメディア化すると、誰がそれを仕切るのか。広告会社のような仲介業はなくなるのでしょうか?

坂村:情報伝達媒体が爆発的に増えれば、「押さえる」という発想は通用しなくなります。ただ、電通は、どこにどう出すかのプロデュースなど、メディアを押さえる以外にも多くのことをしているでしょう? その内容を細分化して見ていくと、これから残る部分が見えてくるはずです。どこに重きを置くかを変える必要はあるでしょうね。多メディア時代には、今よりもっとプロデュースの能力が求められるはずです。

佐々木:増えすぎた情報や機能を整理して、うまくつないであげる役割ということですね。では、IoTでマーケティングはどう変わるのでしょうか。例えば、アメリカのディズニーワールドではバンド型のチケットを配っていて、それで買い物もでき、ホテルのキーにもなり、アトラクションの予約もできる。記念写真もバンドに届く。もの自体に色々な情報がたまっていく時代になります。顧客データを押さえた者がマーケティングに勝つといわれる中で、それぞれのプレーヤーがデータを持っていくと、広告会社の役割はどうなるのかという疑問が浮かびます。

坂村:電通が全部仕切るのは、もう無理です。データは所有権など権利の問題がよく起きるので、そういう仕組みをマネジメントしたり、安全にデータを取引できるような知恵を集積して、どうデータを使えばいいか、どういう対価を払えばいいのかをやっていった方がいいんじゃないのかな。

佐々木:メディアやデータを所有するのではなく、そこを生かす場所の使い方やノウハウを提供するということですよね。

坂村:そこが難しいころですからね。研究開発とそれを使う仕組みをつくることに投資しなければいけない。今こそ電通に必要なのはインテリジェンスですよ。

佐々木:IoTでクリエーティブはどう変わるのでしょうか。企業と広告会社が組んでIoTを作ることがこれから増えていくと思います。ありとあらゆるものがつながって「表現の道具」になる時、どんな新しいものが作れるのか。僕らもアイデアを出していきたいんです。

坂村:そのためには勉強しなきゃダメですよね。どんどん増えていくIoTのデバイスが、どんな特性でどういう働きをするのか。勉強しないと、それを最大に生かした表現はできません。

佐々木:今、僕たちはテクノロジーの専門家と、技術は分からなくても興味とアイデアがあるクリエイターやデザイナーを組み合わせたチームをつくっています。

坂村:それは正しい! ネット社会は「ひとりじゃできない」社会です。自分は分からなくても、テクノロジーが分かる人とコミュニケーションが取れればいいんです。

 

IoTには新しい社会を設計する大きなチャンスがある

佐々木:社外の人ともオープンに組んだチームで、以前、IoT財布のプロトタイプ「Living Wallet」を作りました。家計簿サービスと連動した財布で、赤字の時にお財布を使おうとすると逃げ、黒字の時はamazonの売上ランキングを読み上げ、物欲を刺激するというものです。

坂村:イノベーションは挑戦です。どんどん作りなさい! 大事なのはあきらめないことです。1000回やって、1、2回しか成功しない世界だから。おバカなものもないとダメなんです。これがおバカとは言っていないけど(笑)。とにかく色んなものがあることが重要で、他にない何か新しいことをやったものは評価しないといけない。

佐々木:そうですね。ただ、日本はリスクを極端に嫌いすぎるというか、成功するものにしか投資しない風潮もありますよね。

坂村:良ければそのまま進めればいいし、ダメでもっといいものを思いついたなら、それも成果です。大事なのはあきらめないこと。1000回やってダメでも、2000回も3000回も、生きている限りやる。大学でいつも若い人と付き合っているけれど、若くても白けているような人はダメです。年齢も国籍も男女差も関係ない。

佐々木:先ほどオリンピックの話が出ましたが、2020年は“チャンスのるつぼ”ですよね。

坂村:情報通信技術を駆使して、スポーツに今までと違った見方を提供するのは、全世界的なブームなんです。ドローンもあるし、カメラは小型化されていきます。野球のボールにカメラが内蔵されて、ホームランで飛んでいく球からどう見えるか放送できる時代が来たって何もおかしくない。

佐々木:IoTはオープンに色んなものをつなげる技術です。自分たちでも新しいつなぎ方を発明していきたいと思いますが、IoT時代に向けた人材をどうつくればいいと思われますか?

坂村:日本は再教育に対して考え方がぬるいですね。日本人は、大学は高校を出たら行くものだと思っているけど、外国はそうじゃない。社会人も、勉強する必要が出てきた時に行くのが大学です。分からないことが出てきたら再教育すればいいんです。勉強もしないで、新しいテクノロジーは分からないなんて言っていたらダメ。最後まで勉強し続けるという姿勢でいないと。年齢は関係なくて、あるのは向き不向きだけです。

佐々木:IoTは便利なITグッズではない。新しい社会を設計する大きなチャンスがここにあり、僕らはビジネスとして関わっていけるんだと今日はよく分かりました。そのためにも常に勉強ですね。ありがとうございました。

 
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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀