Experience Driven ShowcaseNo.43
ジャパンコンテンツを拡散させるAFA。
体験型マーケティングの魅力とは?
2015/12/18
11月27~29日、東南アジア最大級の日本ポップカルチャーイベント「アニメフェスティバルアジア シンガポール2015」(以下AFA)が開催されました。日本コンテンツの発信源として約9万人を動員し、毎年躍進を見せる本イベントに、電通は2013年から出資しています。
今回は、共同出資者であり、現地で日本のポップカルチャーやコンテンツの紹介などを手掛けるSOZOの代表取締役ショーン・チンさん、興行の企画・制作を行うZeppライブの土屋佐知子さんと共に、日本を代表するイラストSNS「pixiv」を運営するピクシブの副社長である永田寛哲さんをお迎えして、これまでのAFAの振り返りと今後の展開について伺います。
取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
■イベントとしての個性を確立、他イベントとの差別化を図る
鈴木:いま世界で、ジャパンエキスポでは24万人超、ハイパージャパンでは8万人超の動員があり、いわゆるクールジャパンイベントが年々盛り上がりを見せています。AFAも昨年9万人を動員し成長していますが、イベントとしての特徴はなんだと思われますか。
ショーン:ジャパンエキスポやハイパージャパンは日本のコンテンツ全体、たとえば食や文化を横で展開していますが、AFAはバーティカル展開で、アニメコンテンツを選び、深堀りしているところに特徴があります。
土屋:展示、ステージ、コンサートがオールインワンになっている点がAFAの特徴です。Zeppが携わっているアニソンライブは1アーティスト30~45分あるので、音楽フェスとしても成り立っています。特に音楽は、その場で見せなければ伝わらないもの。来場者からファンが拡散してきます。
永田:AFAの特徴は、参加者の発信の積極性にあると思います。欧米のイベントは日本文化の体験、消費がメーンになっているけれど、AFAは消費するだけでなく、参加者それぞれが解釈して発信側に回りそれを楽しんでいるという、日本に近い特徴があり、それが大きな違いだと思います。AFAは主催者の顔が見え、来場者との距離が近い。リアルな場があることによってファン同士の交流が生まれる。そして「pixiv」をはじめとしたウェブメディアやSNSなどのデジタルがイベントのサポート役になるのです。ネットとリアルが相関しあってこそ熱量が生まれる。イベントだけでは一時的なものでやがて冷めてしまうけれど、デジタルでつながることで熱量を保持することができるのです。
■アニメ好きから日本好きへ、シンガポールの若者たち
鈴木:来場者でいうと、AFAに来ているのは基本的に10代が層としては多いですよね。物販をとってもメジャーなものから萌え系のものまで幅広いですが、どんなコンテンツやアーティストが来場者に受けているでしょうか。
ショーン:はじめはみんな、「ナルト」のようなメジャーな作品から入ります。その後より深い領域の作品が好きになっていく。また、今回ミニステージに出演したピクシブの「虹のコンキスタドール」はユニークで、クリエーターでありながらアイドル、さらに本人自身もオタクというのがセールスポイントです。来場者は「自分に近い存在だ」と共感できます。
永田:「虹のコンキスタドール」に関していうと、自分が応援して、夢を一緒に追いかけたいというエモーショナルなものを観客に感じさせるのがアイドル。いわば高校球児を応援する感覚と同じです。
土屋:コンサートのアーティストでいえば、来場者はまず好きなアニメがあって、その主題歌を歌っているコンサートに来ます。そしてライブで見た瞬間に、アニソン以外の曲も含めてそのアーティスト自体のファンになって成長していくのだと思います。
鈴木:展示会を見ていてもコンサートを見ていても、10代の子たちでも日本語が多少読めたり話せたりする人が多くて活気がありますね。普段から日本関連のコンテンツに親しんでいる印象を受けます。
ショーン:彼らは日本がもともと好きなんです。日本を訪れたい、旅行したい、そういった思いのある人たちでAFAは構成されています。なにより自分が好きなアニメをより深く理解したいという思いが、彼らに日本語を学ばせることにつながっているのです。
土屋:小さいコミュニティーがたくさんあって、そこで情報が共有されているのだと思います。アーティストとしてはオリジナルである日本語の方が感情移入しやすいし、来場者にも逆に英語に訳し直さないほうが意外と伝わりやすい。
永田:ネットの効果が大きいのではないでしょうか。昔は翻訳して出版して、情報伝達のタイムラグがあったけれど、いまはSNSがあって個人レベルですぐに発信し共有できますから。
鈴木:日本ではコンテンツが普及する流れとしては、まず漫画が流行って、二次創作として映像化されてアニメとなり、やがて実写化されるというスパイラルがある。シンガポールまたはほかの国ではどうですか。
ショーン:シンガポールは逆ですね。まずアニメが流行って、漫画を読んで。(AFAを同じく実施している)インドネシアやタイは日本と同じで、漫画が先です。そういう傾向が見られますね。
永田:漫画には独特の文法(読み方)がありますが、アニメにはないのでとっつきやすいと思います。しかも漫画を翻訳して出版するより、アニメに字幕をつける方が早い。昔の作品が今風にアニメ化されているのも、世界に広まっていくという点ですごくいいことだと思います。
■アニメコンテンツを核に、ジャパンコンテンツを包括する「コンビニ」へ
鈴木:今年でAFAシンガポールは8度目です。現地では既に恒例のイベントとして定着していますが、既存顧客を保持しつつ新たな顧客を増やすために、常にイベントとしての進化が必要です。
ショーン:一番大事なのは、ファンの方たちが何を必要としているかを理解し、それに合ったものを供給し続けるということ。彼らがリピーターになることが大事だから。そしてさらに、常に新しいトレンドを見いだして、違う視点のコンテンツも用意するということ。その両方のバランスが必要です。
土屋:私がやっているアニソンコンサートのほ方は、これからは「次のスター」を育てていかなければと思います。今年オープニングを務めた方が、2~3年後はトリを務めるメーンアクターになることをイメージしています。
鈴木:デジタルも、イベントの盛り上がり感をつくるために重要な要素ですね。
永田:日本との比較論になりますが、日本の参加者は消費するだけではなくて、自分がクリエートする、発信する度合いが世界で一番活発な国です。シンガポールもAFAを見ていると、他国に比べてすごく熱心なんじゃないかなと思っていますし、日本に近づいてきている。「pixiv」という投稿サイトがAFAに協力することで、そういう流れをさらに促進させていき たいです。
ショーン:日本は一年中を通して、こういったアニメ関連イベントがたくさんあるのですが、日本で行われているこれらのイベントを全部凝縮して3日間シンガポールで行うのがAFA。アニメコンテンツのコンビニ化とでもいうか。とても簡単でお手軽。ワンストップジャパンですね(笑)。
土屋:それならわれわれはコンビニAFAの音楽部門ですね。でもシンガポールの人は新しいものを見せ続けないと、次から次へすぐに移っていってしまう。新しいスターをつくりながら、演出としてどう魅せるかを考え続けていこうと思っています。
永田:コンテンツも来場者の趣味嗜好も多様化しているので、潜在的に求めている人が、好きなコンテンツに出合えるかどうかがカギ。コンテンツを持ってくる側が正確にファンにアプローチすることができるか。インターネットや口コミ、専門的なキュレーションメディアでの発信が重要になってくるのではないかと思っています。
ショーン:データもとても大切。来場者が「何を」好きかというのも大事ですが、「なぜ」好きかということを解明し、趣味嗜好が多様化する中で来場者に好まれるコンテンツをAFAに取り入れたいと思っています。
土屋:ショーンさんは本当に、先読みをする力がすごいです。
鈴木:今年新たに取り入れたものとして食やコメディーがあります。アニメがAFAの軸にあることは変わりませんが、来場者には大人気でしたね。
ショーン:メード・イン・ジャパンという大きな傘下の中で考えると、ジャパニーズフードやファッションも含まれるわけで、今回は、よしもとのコメディアンだったり、新しいものもどんどん入ってきている。食べ物とアニメを結びつけるような試み、例えば「ラブライブ!」のキャラ9人にちなんだパフェを9種類売り出したら、すごく長い列ができました。
土屋:9人好きだったら9個食べなきゃね(笑)。
鈴木:特に食は、アニメとの親和性が高い気がします。好きなアニメのキャラが日本食を食べていれば、ファンはおのずとそこに興味が湧くし好きになりやすい。
ショーン:電通が関わっている「食戟のソーマ」も、フードアニメとしてすごく人気になりました。また、今回コメディアンを導入したのは初めての試みですごく心配しましたけれど、日本語英語=ジャパニーズイングリッシュでやってもらうことによって、普通の英語でやるより面白い効果が出ました。いろいろなチャレンジが今後も必要だと思っています。
鈴木:そうですね、来年も試行錯誤、チャレンジをしていきましょう。今日はありがとうございました!