デジタル活用で成果を出すにはNo.9
ユーザー調査から改善してコンバージョンが30%アップ。CRO最前線。
2016/02/08
※株式会社ネクステッジ電通は、2016年7月1日付で「株式会社電通デジタル」となりました。
ランディングページだけがコンバージョン最適化ではない!?
──まずお二人の業務内容を教えてください。
和田:CROの中でも、Google アナリティクス(Google Analytics、以下GA)やAdobe Analyticsを使ってウェブサイトを分析し、サイトの問題を特定してコンバージョンレートを改善するのが私の主な役割です。
山本:私は機械学習・人工知能などと呼ばれる技術を駆使し、大量のデータからユーザーのインサイトを導き、クリエーティブプランニングの支援をすること、またそのような分析作業を効率化するためのツール開発を行っています。ネクステッジとのクライアントワークの中では、個別のニーズに特化した分析手法やツールの開発も行っています。
──今回はCROがテーマですが、コンバージョンの定義について教えてください。
山本:コンバージョンというとランディングページでの衝動買いなどの直接的な購買行動をイメージされがちですが、本来の定義は「態度のコンバージョン」、つまり態度変容全般となるため、ユーザーの興味・関心の高まり全てを指しています。例えば不動産などの足の長い商材であれば、フォームへの遷移、資料請求などの詳細なコンバージョンポイントを設けることが多いです。
和田:CROの最終的なゴールは売り上げにつなげていくことなので、それを最終指標としながらも、そこまでの道のりを数値として見せることに意義があります。特に最近では、「どう買ってもらうか? の前に、まずは興味・関心を持ってもらう」という視点からコンテンツマーケティングが台頭しています。そこでは、コンテンツをどれだけ読んでもらったか、つまりブランド関与がどれほど高まったかをコンバージョンとしています。ブランド関与向上までを含めたより広い視点でのCROは、今後われわれが強化すべき領域です。
ABテストツールを導入するだけでは不十分? コンサルタントの重要性とは
──CROは実際にどのように行うのですか?
山本:CROが扱う範囲はとても広いのですが、多くの方に聞きなじみのあるABテストについて説明します。AとBの二つのクリエーティブを実測し、コンバージョンの良いもの採用するという手法で、オバマ大統領が選挙で利用したことから一躍知名度が上がりました。ただ実際の運用方法まではあまり浸透していないようで、現場レベルでABテストツールを導入したものの、活用しきれないというお話を伺うこともあります。
時間と労力が無限にあれば、ABテストを何度も繰り返していくことで、次第に改善していくことは原理的には可能だと思いますが、実態としては限られた時間と労力の中で成果を上げる必要があります。なので、ツールを導入する前段階として「何をすればどれくらい上がるのか」ということを明示できるコンサルタントの存在が重要になります。コンサルタントには、マーケティングの経験だけでなく、ユーザー行動を調査して改善するデータドリブン型の提案が求められます。
調査方法は、ビッグデータから情報を抽出したり、大規模なグループインタビューを行ったりと多岐にわたりますが、オンラインユーザー調査といわれる簡易な調査でも効果が出ています。オンラインユーザー調査とは、数人の一般ユーザーを被験者として集めて、実際にウェブサイトを利用してもらいながら、その時思ったことを全部話してもらう、という流れで実施します。
──そのような調査から、どのようなクリエーティブを作ったのですか?
山本:以前、レーシックを行うアイクリニックのウェブサイト改善を行った際に、オンラインユーザー調査を実施しました。被験者に、複数のレーシックのウェブサイトを見てもらったところ、眼科医の写真が並んでいるページで「先生がたくさんいるから安心!」と言っていたり、安さを売りにしているサイトについては「安過ぎて不安」と言っていました。
この結果から、サイト内に眼科医の詳細な紹介コンテンツを追加したり、これまで「低価格→安心感」という順番で伝えていたメッセージを「安心感→低価格」 と順番を逆にしたところ、コンバージョンが30%アップしました。このように、何をどう伝えるかというストーリーまで踏み込んでクリエーティブを制作する ことで、安定的にコンバージョンが改善できるABテストが可能になります。
CROは「コンバージョンに近いところから」が鉄則! フォームだけでもこれだけ改善できる!
──どのようなところから重点的に調査をすると効果が出やすいですか?
和田:改善につながりやすいのは、ファーストビュー、それからボタン、入力フォームですね。このあたりを調査すると多くの課題が出てきます。ありがちなのが、ユーザーにたくさんの情報を入力させようとする入力フォームです。そのようなフォームはユーザーの負担が大きい割に、その情報を使っていないケースがよくあります。なので、入力フォームでは入力項目を最小限にし、その後のコンタクトポイントで必要な情報を聞いていけばいいんです。
──省いてもいい入力項目にはどんなものがありますか?
和田:個人情報に近い情報は、入力に躊躇するので省くべきですね。まず住所です。もし、エリア別に申し込み状況を見たい、というのなら都道府県だけでいいんですよ。次に電話番号。実際の連絡手段として電話を使っていないなら、フォームではメールアドレスだけで十分です。
山本:入力フォームの誤入力を防ぐために、入力フォームの前に「情報を正確に入力するように」という注意を掲載していたページがありました。それが入力のハードルを上げていたので、外したところコンバージョンが改善した例があります。
あと、入力がいつになったら終わるのか分からないと途中でやめてしまうので、入力の進捗が分かるステップを出すといいですね。
和田:スマートフォンの場合、フォームの入力のしやすさも大事です。入力スペースを大きくすると、コンバージョンは改善します。
CROというのは、コンバージョンに近いところからやっていくと成果が出やすいですね。遠くなるほど離脱ポイントが増えるので、近くから改善していくのがいいでしょう。
広告を出稿する前にCROをすることで、ROIを最大化できる
──デジタルマーケティング界では、「広告費を投入するよりも、CROを徹底した方が費用対効果が高い」といわれますが、これはどういうことなんでしょうか?
山本:実際の店舗をイメージしてもらうと分かりやすいんですが、広告を見て来店した際、店の中が汚かったり接客が良くなかったら、何も買わないですよね。ウェブもそれと同じで、いくら広告を出してもサイトが悪ければコンバージョンしません。
それでも広告費用を倍にすればコンバージョンも倍になるかもしれませんが、広告費を倍にする前にCRO施策をすることで、同じ広告費でより効率的にコンバージョンしてもらえるようになるんです。
しかも、コンバージョンの高いサイトは、その後のリピート率も上がります。商品の魅力が伝わったからコンバージョンするのであって、購入の瞬間だけでなく、その後のコミュニケーションにも効果があり、LTV(Life Time Value、生涯顧客価値)に貢献するんです。
和田:CROでコンバージョンレートが1%から1.2%に上がったとき、広告換算してみるとCROの費用対効果がすごく分かると思うんですよ。ですから、広告費を投入する前にCROをやっておけば、同じ費用で効果が数倍になることもあります。
──ネクステッジ電通の場合は、お客さまから広告運用の依頼が来て、CROまで提案するという形でしょうか?
和田:そうですね。広告で集客してもランディングページからコンバージョンにつながらないということがあれば、広告とセットでご提案することになります。
最近はお客さまの要求レベルも上がってきて、ランディングページのABテストだけでなく、マーケティング全体で成果を出せるようにしてほしいというお話も増えています。
──なるほど。後半ではブランド関与、そしてカスタマージャーニー全体の最適化を見据えたCROについて、さらに話を伺っていきます。
<後編へ続く>