インターネットの20年:広告手法の進化と生活者の情報行動を変えた12大事件
2016/02/29
2月18日に刊行された『情報メディア白書 2016』。当連載では、同書の巻頭特集「インターネットの20年」のダイジェスト版をお届けする。
インターネットの普及はオーディエンスの情報接触行動を大きく変えてきた。日本のインターネット元年ともいわれる1995年からの20年に何が起きたのか。電通総研メディアイノベーション研究部が独自の視点で捉えた調査・分析を元にまとめた。
第2回は、インターネットの20 年の中で「広告手法の進化」に焦点を当てながら、生活者の行動変容に大きな影響を与えたものという基準で12のキーワードを選び、時代ごとに俯瞰する。
インターネットが広く一般消費者まで普及するきっかけとなったこの時期の象徴的な出来事は、IIJによるダイヤルアップ接続(1994年)とWindows 95の発売(1995年)の2 つである。現在からすると低い通信速度ではあったが、電話回線を経由してWindows95が持つ高度なユーザビリティーによって世界中にアクセスすることが可能になった。
1996年ごろには、さまざまなインターネットサイトが勃興し、生活者は既存のメディアが提供することができなかった情報検索という新しい行動を取るようになっていた。
当時のインターネット広告は、メディアが持つサーバーに「バナー広告(ディスプレー広告)」を入稿するという仕組みからスタートした。つまり、他のメディア(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)と同様に、広告主は顧客と親和性の高いと思われる媒体に、期間などを指定して掲出するといった運用しかできなかったのである。
例えば、自動車会社が自社の新商品の広告を掲出する際には、自社の顧客あるいは潜在購入層が閲覧すると思われる自動車専門サイトの広告枠を購入していたのであった。この時代は、「ベタ貼り」ともいわれている。
メディアプランニングという視点では、企業のマーケターの意思や経験によって、ターゲティングがなされていた時代であった。1996年頃には広告物を収蔵して配信するアドサーバーが登場したが、広告枠を購入する側(=広告主)と広告枠を得る側(=媒体社)の需給不一致が起きる可能性が常にあり、広告枠の余剰在庫という課題を抱えていた。
ただ、クリエーティブ、つまり広告表現の視点でみると、この頃にはバナー広告の静止画にGIFアニメーションを入れ込んで動的な表現を狙った、当時としては高度な広告表現手法も登場していた。
携帯電話でメールの送受信やウェブページの閲覧を可能にしたiモード(1999年)と、家庭内ネット環境に通信の高速化と低価格化もたらしたYahoo! BB(2001年)。ADSL普及に先立つ形で1999年は、iモードによってインターネット通信を自宅外にも持ち出すことも可能になった。メールの送受信やインターネットサイトの閲覧が場所を問わなくなった時期ともいえる。
2000年頃には、家庭内にADSLが次々導入されたことで、インターネットのつなぎ放題という新たな付加価値を生活者が享受していた。つまり従量制だった通信の負担額に上限が設けられたことで、インターネットがより普及する土台が設けられたのである。
この頃、広告手法は多様化の時代を迎えていた。広告出稿で発生した成果(クリック数など)に対してその分だけ費用が発生するようにした「アフィリエイト広告(成果報酬型広告)」、それに附随した「リワード広告」と「ブースト広告」。生活者の検索行動をマネタイズすることに成功した「リスティング広告(検索連動広告)」は、現在においてもマーケティング上非常に重要な手法であり続けている。
クリエーティブ面でも、この頃からインターネット広告の表現が高度化し始め、Flashムービーを使った全画面広告やフローティングアド、動画広告などが活況を呈していた。
2004年以降次々と生まれたFacebook、 mixi、YouTube、Twitterなどのソーシャルメディアによって、CGM(consumer generated media)という生活者自らが作り出すメディアが構築されていった。
また、既存のメディアとクロスさせた試みとして、日本で初めての「続きはウェブでCM」は2004年に放送されたネスレのAEROというチョコレートのCM(電通広告統計の検索で確認ができた最も古いCM)である。
CMを見たユーザーが商品を認知した後に、さらなる認知向上と興味関心を惹起させるためのホームページに、生活者を自ら検索させて誘導するという広告宣伝手法の一つのエポックメーキングな施策である。現在でもテレビCMに検索窓を入れるというクリエーティ
ブはごく一般的な手法になっている。
2008年に発売されたiPhone 3Gは、既存のフィーチャーフォンよりも検索行動を容易にしたという特徴を挙げることができよう。iPhone3Gによって生活者の検索行動が飛躍的に伸び、その恩恵として検索連動型広告や興味関心型広告、行動ターゲティングの精度向上が実現された。
今では多くの生活者が利用するLINEは、特に若年層の中では欠かせないコミュニケーション手段となっており、連載第1回でも扱ったように文字によらないコミュニケーションという新しい情報伝達の仕組みを提供することにも貢献した。
2008年のリーマンショックが引き金となって、当時米国や英国を中心に高度な金融工学を駆使して富を築いていたプロフェッショナルたちが失職してインターネットの市場に流入したといわれている。この出来事が端緒となってアドテクノロジーの世界が非常に工学化、高度化したことも業界の隆盛に大きく寄与した。
彼ら彼女らは、広告取引の入札システム(RTB:Real Time Bidding)、広告配信の自動化、ターゲティングの高度化、広告在庫の適正化、広告効果の定量化など、もともとインターネット業界が抱えていた課題を解決するソリューション、つまり広義のアドテクノロジーを提供した。このようなプログラマティックな広告取引、つまり自動的・機械的に広告取引をする下地がこのころに生まれた。
この時代に至るまでにインターネットの広告取引で変革した概念のひとつに、「広告枠を買う」という考え方から「何人に見てもらうか、つまり、情報がリーチする人数を買う」という考え方にマインドシフトが起こったという点を挙げることができる。
「何人に見てもらうか」という効率を重視した取引慣行にも改善の余地があった。どのサイトに自社の広告が表示されているかが見えにくいという声が大きくなり、2014年ごろから一部見直す動きが出てきた。PMP(Private Market Place)という、広告主に良質な枠を提供する取引がそれだ。つまり、広告主側が出稿することを望まないサイト以外の良質な枠へ出稿保証をするという仕組みである。
その分、広告主はプレミアムを支払う必要があるが、潜在的な需要が高い取引形態であるといわれており、この予約型広告的な考えも取り入れた広告取引を採用する動きが活発化した。
このようにインターネット広告取引に新たな付加価値が加わることも後押しして、2014年はインターネット広告費が1 兆円を、その中の運用型広告というカテゴリーが5000億円を突破するという象徴的な年になった。
2015年に入ってからは、生活者の行動を大きく変容させた出来事は起きてはいないものの、今後も予想不可能な技術・サービス・商品がインターネットの世界から出現することは間違いない。
モノが全てつながるIoT(Internet of Things)の世界、ドイツが推進する第4の産業革命であるインダストリー4.0の世界、これらが日本の情報メディア関連産業に与える影響も
見ながら、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて変わっていくメディア環境の行く末を注視していく必要がある。
詳しくは書籍『情報メディア白書2016』で。