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18歳のリアルNo.3

18歳の心をひもとくカギは「対話」:後編

2016/04/20

前回に引き続き、高校生へのキャリア教育活動を行うNPO法人カタリバ代表理事の今村久美さんと、「哲学対話」を社会に広めるNPO法人アーダコーダ代表理事を務め、Project18と共に18歳との対話における手法開発を進めている川辺洋平さん、Project18メンバーであり、電通若者研究部(電通ワカモン)部員の奈木れいさんが鼎談。今18歳が注目を浴びる中、そこにどんな可能性やおもしろさがあるのかを語り合いました。

(左から)奈木氏、今村氏、川辺氏

 

企業が持っているアイデアの“種”を、高校生と一緒に育てる

奈木:今、選挙権年齢の引き下げを契機に、18歳が社会的な注目を集めていますよね。この機会に新たに挑戦したいことはありますか?

今村:本業である学校外の立場から教育に参加している活動を、もっとしっかりやっていこうと思っています。18歳選挙権だけでなく、2020年には学習指導要領の改訂や、大学入試改革が起こるなど、18歳をめぐるさまざまなことが同時に変わります。大きな変革を迎える中で、私たちとしては、やはり学校と社会をつなぐというミッションをより強化してやっていこうと。

奈木:社会との接続は、電通若者研究部でも大切にしている視点です。また、川辺さんの話にあったような、学校の中で哲学や対話的な仕組みを作ることも大事なのかなと思います。哲学対話を学校で行っている事例などはあったりするのですか?

川辺:ハワイの公立高校の中には、カリキュラムの一部として正式に哲学対話を取り入れているところがあります。そこはもともと校内暴力がひどかったのですが、哲学対話の授業を導入したことで、暴力の件数が大幅に減ったそうです。

それから、答えのない問いを議論することで、思考力を鍛えるという狙いもありますね。例えば、シンガポールの進学校では、A対Bの世界ではなく、CやDを提案できるクリエーティブシンキングが求められ、そのひとつの取り組みとして哲学対話が行われています。

今村:日本でも学校ごと、教員ごとで、クリエイティブシンキングの良い事例はあります。今は、それを誰もが享受できる仕組みとして、どうすれば日本の学びが対話的で協働的なものになるのかを一生懸命議論している段階です。

前回の話に通じることですが、川辺さんがおっしゃっていた「なんでも発言していいんだ」というようなセーフティゾーンをつくることはとても大切。学校をそういう場所にするためには、先生自身も安全な環境を、職員室の人間関係で手に入れることが重要です。

学校全体で、セーフティムードを獲得することこそが、本当の意味でのアクティブラーニングが成り立つ環境だと思います。その土台があれば、アーダコーダの哲学対話を取り入れる学校もどんどん増えそうな気がしますね。

川辺:そして、哲学というカタチでなくても、全ての授業である種の対話が成立するのが理想でしょうね。

奈木:そうですね。Project18としても、教育現場で対話を増やすためにサポートできることはないか、考えていきたいと思います。また、これだけ18歳市場に注目が集まることはめったにないので、これまで「うちは若者や教育は関係ない」と思われていた企業の方々に対して何か接点や気付きを提供できるといいなぁと思います。

今村:例えば、高校生が商品開発に関わることで、企業と生徒たちの両者のニーズが一致することはあるでしょう。企業が求める納品スケジュールなどのタイミングが教育のスケジュール間にマッチングできていないことも現状的にはあります。そうなると、結局最後は子どもたちの参画が形式的なお飾りになってしまったり、学校が無理をして日常的な教育活動が阻害されたりということも起こります。そうなると、続かないんですよね。

様々な企業からお問い合わせをいただくことはあるので、企業ニーズと教育ニーズのうまいマッチングをコーディネートできるようになりたいと思っています。

川辺:商品開発に携わってもらうときに、「それって本当に必要ですか?」というところから高校生と話し始めたら面白そう。ただ高校生の意見を聞いて、ありがとうございましたではなく、そもそもコレは必要なのか。みんなにとって必要なものはなんなのか。それはもしかしたら商品ではなく、コトなんじゃない?という問いを投げたら、想定外の答えが返ってくる可能性もある。高校生にとっても、企画の考え方を上流から学ぶことができる貴重な機会。今の子たちは、アイデアの種をまかれたら、その種を使って違うものを作るのは得意なんです。考えるきっかけになる種は企業がいっぱい持ってるので、それをまいて高校生に育ててもらうというのはどうでしょう。

奈木:これからは、18歳にウケる商品をただマーケティングするのではなく、彼らの感性や内に秘めた思いに対して、考えるネタや場所を提供していくという関わり方に可能性がありそうですね。

 

「こうあってほしい」を、自らカタチにする「マイプロジェクト」

奈木:カタリバには、高校生が「こうあってほしい」と思うことを探求するプロジェクトがあるんですよね?

今村:「マイプロジェクト」ですね。成り立ちとしては、東日本大震災以降女川町と大槌町で子どもたちが勉強したり、語り合えるコラボ・スクールというものを作りました。そこで子どもたちと接しているうちに、彼らの知っていることの中に、都市部の子たちが知らない世界観があると気付いたんです。

たとえば、東京では近所のお年寄りに思いをはせることはめったにないと思いますけど、地方の子は震災以前からお年寄りが常に隣にいる環境で育っている。物々交換の習慣が今も残っているなど、数字では測れない豊かさの中で生きています。

そういう環境の中で気付いたことや気になったことは、もしかすると何万人の人が気になっていることかもしれない。だから、何かアクションを起こしてカタチにしてみようということで、このプロジェクトが始まりました。

プロジェクト始動から今年で3年目。毎年、全国マイプロジェクトアワードというマイプロジェクトの甲子園をつくっていて、今年は115のプロジェクトからエントリーがありました。

奈木:大会、見に行きました。アワードに参加している全員がいわゆる意識高い系ではなく、等身大の高校生が知恵を振り絞ってプロジェクトに取り組んでいてすごく興味深かったです。

今村:そうですね、多様な子たちの受け皿になっている点にマイプロジェクトの良さがあると思います。実は、偏差値が高いと言われる賢い子の方がテーマを設定するのが難しいというケースがあるんです。頭の回転が速くて情報収集能力に長けているのに、自分の原体験を言葉にすることが苦手で、ついつい大きな社会的課題をテーマに設定してしまう。

奈木:ワカモンの活動の中で得た感覚としても、編集やキュレーションといった1を100にすることはとても上手なのですが、0から1を作るのが苦手な子が増えているように感じますし、事実そうなっている気がします。

今村:もちろん、社会的課題に問題意識を持つこと自体は悪いことではないのですが、マイプロジェクトは、自分が思ったこと、自分の気持ちを大切にして、行動的なチャレンジをするプロジェクト。何にどんな関心を持ったのか、パーソナルな思いを学びの出発点にしていくことが大事なんです。毎年、オトナでは思いつかないような発想が出るので本当に面白いですよ。

奈木:そうなんですね。高校生たちがどんな思いを持って、どんなマイプロジェクトに取り組んでいるのか、今後さらに詳しく話を聞いてみたいと思います。そして、高校生の思いに寄り添うためにどのような対話が有効なのか、川辺さんにも引き続きご協力いただけるとうれしいです。本日はありがとうございました。