「広告」ってなんですか? 今だからこそ、聞いてみた。
2016/04/13
前回までのあらすじ
5月30日から4日間、日本でAdvertising Week(アドバタイジングウィーク/当連載での通称、アドウィ)が初開催されることを知ったイザワ。アドウィアジアの事務局長、笠松良彦さん(イグナイト代表)を直撃し、「熱狂をつくり出す 〜Creativity excites the industry〜」が、同イベントのコンセプトであり、六本木をメイン会場に、「広告」をテーマにしたさまざまなセミナーやワークショップが開催されることを聞きだした。徐々にカタチを現し始めたアドウィについてさらに解明すべく、同イベントのスポンサー・某企業のキーパーソンに会いに、渋谷のオフィスを訪れた。
渋谷のイケてるオフィスに、現れたのは…
池上くん:眺めサイコー! さすが今をトキメク企業のオフィスですね!! 渋谷を一望できますよ!
池上くん:こんなリラクゼーションスペースもありますし!!
イザワ:ちょっと、ちょっと。インタビュー相手が来る前からはしゃぎすぎ。
???:お楽しみのようですね!
イザワ:あぁ!! なんだかよくわからないけど、まぶしい!! 後光がさしてる!!
池上くん:わわわっ! 失礼しました(急いで身なりを整える池上くん)。
イザワ:田端さん、こんにちは。アドウィアジアのスポンサーって、LINEだったんですね。改めまして、今日はよろしくお願いします! さっそくお聞きしたいのですが、ひょっとしてLINEがこういう広告系のイベントのスポンサーになるのって初めてじゃないですか?
田端さん:(イキナリ始まったが、少しも動揺せず)そのとおりです。アドウィが日本で初開催するというので、お互い初めて同士でいいタイミングだと思い、今回スポンサードを決めました。それにこういうイベントは、初回が話題になりますからね。
イザワ:第1回って、良くも悪くも手探りですよね。不安はなかったんですか?
田端さん:イベントとして「よく分からない」という点も逆に魅力に感じましたね。
イザワ:(印象にたがわず、豪快な人!)なるほど。でも、「広告」のイベントにスポンサードするのは、正直意外でした。イメージにありません。
田端さん:だからこそです。これまでLINEは、バナー広告や、1クリックで課金するようなことをしてきていなかったので、LINEの広告ビジネスに関する認知は、正直低かった。でも今、LINEにとって広告ビジネスは非常に重要になってきていて、ゲームに肉薄する売り上げを占めています。イメージを塗り替えるいいタイミングだと判断しました。
今の時代の「広告」とは、何を指すのか。
池上くん:こほん。えぇっと、田端さんが考える「広告」ってどういうイメージなんですか?
田端さん:「広告」と「広告枠」はイコールではないと思っています。アドウィを通して、「広告ってなんだっけ」という疑問を投げかけたいですよね。
池上くん:それは…、どういう意味ですか?
田端さん:「広告」かどうかっていうのは機能の問題で、「枠」を指すわけではないと思っています。結果的に商品が売れたり、ブランドイメージが上がったりすれば、もはやそれは「広告」だと思うんです。広告の概念を拡張するというか、再定義すべき時期に来てるんじゃないですかね。旧来の意味での“広告枠展覧会”や、業界だけが盛り上がるような“コップの中の嵐”的なことをやっても意味がないと思います。
池上くん:(ドキィィィィ!)そ、そうですね。
田端さん:例えば、あるファッションメーカーからブランドイメージを上げたいというお題が来たとします。「カッコイイCMをつくりましょう」と提案するのが、今までの広告観かもしれませんが、ハイブランドとのコラボ商品をつくったり、別のブランドを買収するほうが、広告的に機能する可能性もあると思うんです。例えば、ドミノ・ピザがLINEの公式アカウントを開設しました。
結果、アカウントを通じてピザが売れているわけです。では、これは「広告」なのか。あるいは、2014年にNHKが朝の連続ドラマ小説「マッサン」を放送しましたが、あれでウイスキーが爆発的に売れたわけです。あれは「広告」なのか、という話です。いずれも、「広告枠」ではないですよね。でも「広告的な効果」はあったわけです。
イザワ:そのとおりですね。狭義でいうと「広告」にはあたらないと思いますが、結果を見ると「広告」的に機能しています。
田端さん:「広告枠」という既存の狭い意識にしがみついてないで、広告業界の人には今こそ立ち上がってほしいですね。今って、広告業界の人があまりとがってないというか、ネット業界やスタートアップのほうが、「俺のつくるサービスで世の中を変えてやる」って思っている人が多い気がするんですよね。そういう青臭いパンクな感じが広告ビジネスからなくなっているんじゃないかと思うんです。あくまで僕の妄想ですが。
イザワ:うーん。お話を聞いていて、先日、Facebookの書き込みで、大手広告会社を引退した方が「私たちの頃は、ベテランから若者まで、不遜にも肩で風を切って歩く雰囲気があったけれど、今は肩を丸め疲れた表情で歩く若者が多く目についた。会社が進化した証しなのか、大企業病なのか」という内容の投稿をしていたのを思い出しました。
田端さん:それだけ広告業界が、エスタブリッシュメントになっていると思うんですよね。いえ、ある種の抵抗勢力になっていることすらあります。僕は出版社にいたことがありますが、ウェブに紙のコンテンツを転載するという話が持ち上がると、それで紙媒体が売れなくなったらどうするのかって一番反対するのが広告営業だったんですよね。既存のビジネスモデルの文法からいうと、そう言うのも分かりますけどね。でもそういうことしていると、どんどん必要悪というか、“できればないほうがいいけれど、お金を得ていく上では仕方ない”みたいな存在になってしまうわけですよ。
イザワ:うーん、確かに、心のどこかで「広告」に対するイメージって、そういうところあるかもしれません…。でも実はそうじゃないってことを言いたい!!
田端さん:そうなんですよ。そのメッセージをカウンターパンチで出していかないと、野心的で「俺こそは」って思っている、やんちゃな若者が目指す業界に返り咲かないと思います。
池上くん:返り咲いてほしい!!
「じゃらん」の営業マンによる、ちょっといい話。
田端さん:僕はリクルート出身なんですが、90年代の前半に「じゃらん」という旅行情報誌が出始めた頃のちょっといい話があるんです。お聞きになりますか?
池上くん:ぜひお願いします!!!!!
イザワ:(おや? いつになく、池上くんがアツくなってるな)はい、ぜひ。
田端さん:あの頃、バブルが崩壊して、鬼怒川や熱海などの温泉街は一気に閑古鳥が鳴くようになったんですよね。でも「じゃらん」としては、契約をとらなきゃいけない。そんな時、ある営業マンが旅館のオーナーに、貸切風呂を時間制で貸したらいいのでは、と提案したんです。時間割つくって、南京錠かければ、カップルは大喜びです。だって、せっかくカップルで行っているのに、別々にお風呂入るなんて残念すぎますからね。
池上くん:あれって、「じゃらん」の提案だったんですか! ユーザーの潜在意識というか、心の声というか、欲望を可視化した、すんばらしいアイデアですね。
イザワ:(コイツ、さてはヘビーユーザーだな…)で、どうなったんですか?
田端さん:設備投資は少なくていいし、オーナーにもユーザーにも大好評。ほかの温泉旅館にもどんどん広がりました。一方、「じゃらん」は「貸切露天風呂がある温泉」っていう大ヒットコーナーをつくることができ、まさにWIN-WIN。広告営業って、マネタイズのプロセス管理だけじゃなくて、需要そのものをつくりだすような、“キラーコンテンツ”を生み出すことができる存在だと思うんです。
イザワ:広告主の一番近くにいるから、きっと、ニーズを察知しやすいですよね。
田端さん:広告主が変わらなくてもなんとかなるような、無難な施策を提案する広告営業が多いと思うんです。でも、世の中を変えるには、まずは広告主を変えなくっちゃ。広告業界って、世の中で一番イノベーティブで、カッティングエッジで、あるいは野心的な人が集う場所だったと思うので、アドウィが、そういうことを感じさせる場になってほしいと思っています。
池上くん:今こそ、のろしを上げる時だということですね!! でも、初年度にそんなことできるかな…。
田端さん:1年目だからこそ、純度高く、メッセージを打ち出さないとですよ! 最初くらい、やらかさないと。既存の業界人からは、「なにやってんだー」くらいのことを言われるつもりでやって、2回目以降は「見に行かないと、アイツら、とんでもないことやらかしそうだな」って、チェックされるような存在にならないとですよ。
池上くん:そうでした! まずは広報事務局の僕が熱くなります!!
イザワ:(おぉ、いつも冷静な池上くんが、熱狂している…)メディアとか、アドバタイジングとか、コミュニケーションって姿がなくて抽象的なので、これからは、自分がそれをどう定義しているかが、ますます問われますね。
田端さん:これからは、ベンチャーの買収を投資銀行じゃなくて、広告会社が提案するような時代だと思います。既存の「広告」の「枠」を打破して、一緒に未来をつくっていきたいです! アドウィを成功させましょう!
イザワ:ありがとうございました!!
次回は、アドウィでスピーカーを務める、これまた「ビッグ企業のキーパーソン」をインタビューします。