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PARTY伊藤直樹×Takram田川欣哉(後編):ハイブリッドなチーム編成がイノベーションを生む

デジタルマーケティングの広告賞「コードアワード2017」 №3

  • 伊藤 直樹
  • 田川 欣哉
  • 中田 せら

2017/06/13

PARTY伊藤直樹×Takram田川欣哉(後編):ハイブリッドなチーム編成がイノベーションを生む

前編に続き、デジタルマーケティングの広告賞「コードアワード2017」の審査員長・伊藤直樹氏(PARTY代表)と、本年度が初参加となる田川欣哉氏(Takram代表)の対話をお送りします。今回は、人材教育やリアルなお仕事の話を聞きました。

(左から)D2C・中田せら、Takram代表・田川欣哉氏、PARTY代表・伊藤直樹氏
(左から)D2C・中田せら、Takram代表・田川欣哉氏、PARTY代表・伊藤直樹氏

インターンからメンターへ。英国に習うべき教育プログラム

伊藤:僕は京都の芸大で教えていて、実務系の大学である以上、実践的なビジネスとしてのデザインについて教えようと努めています。しかし大学の教育プログラムにおける実務教育って、限りなく少ない。実際、卒業生と話をすると「就活した当時のイメージと、現実とのギャップが激し過ぎる」って、みんなが言うんですよ。そういう話を聞いてしまうと、実務とアカデミックの側面が、もっと近づかないとまずいと痛感しますね。田川さんはロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで教えられていますが、やっぱりロンドンだと違う?

田川:僕が教えている学校だと、教授とか常駐のチューターが各学科に5人しかいないのに対し、学生はPh.D.も含めると100人。だけど常駐で教える5人の他に、ビジティングチューターといわれる人たちが、100人くらいいるんですね。この人たちはみんな、あらゆる分野で働く現役の専門家。こうした専門家がスタジオをプラプラしていて、学生自らが声を掛けて学ぶというメカニズムが確立しています。

ビジティングの人たちは、みんな学校の卒業生。現場で働いている卒業生から教えることに興味のある人を募り、実務的な部分は彼らから学べるというエコシステムです。このシステムの何がいいって、ビジティングの人たちは3週間に一度くらい学校に行って、プラプラしていればいいから、すごく気軽。日本だと講師という形になるから、それなりに授業も持たなくちゃいけなくて、大変じゃないですか。

伊藤:日本の大学でも、もっと企業の若手社員や大学の先輩などで構成されるメンター制度を導入すべきですよね。その代替が日本では企業におけるインターン制度だけど、企業を経営している立場からすると、ちょっと負担が大き過ぎる。本当は若手社員をヘルプするためにインターンを雇いたいのに、若手社員がインターンを指導することに時間を取られてしまっては、本末転倒。教育コストも掛かり過ぎるから、実務家のメンターが教育機関に入って教えるというのは、すごく理想的なやり方ですね。

現場の組織改革も急務。縦割りは捨て横展開へ

──この業界に携わる者として、もっと意識的な人材教育が欠かせないと。

田川:同時に、すでに現場で働いている人たちの組織についても改善しないと。ネットが急成長した分、成長に追い付けていない従来型産業の人たちまで、デジタルマーケティングをこなす必要に駆られています。だけど日本は人材の流動性がすごく低いから、ネット企業から従来型産業に転職する人がいないし、受け入れる方も戸惑ってしまって、産業全体のデジタル化が進まない。

オーセンティックな企業の中にもデジタルマーケティングとブランディングの部署をつくるとか、組織的な改革が必要ですよね。

Takram代表・田川欣哉氏(左)、PARTY代表・伊藤直樹氏
Takram代表・田川欣哉氏(左)、PARTY代表・伊藤直樹氏

伊藤:組織改革は、本当にそう。例えば「IoTをつくる」って一口に言うけど、プロダクトデザインやパッケージデザインはもちろん、コミュニケーションデザインまで内包されているわけじゃないですか。これらの部署が一緒になってつくり上げるべきなのに、多くの企業では分業です。本来はデータサイエンスも含めてワンパッケージで考えないといけないのに、この一元化がなかなか進まない。

田川:イノベーションの部署とマーケティングの部署は、隣り合わせの席にいないとダメですよね。各部署が日々、密なやりとりをしてこそ、新たなイノベーションが生まれるのに、もっと言うと、商品開発を務める研究所は、ビジネスの現場からものすごく遠い田舎にあることも珍しくないですからね(苦笑)。

伊藤:そこでいうと田川さんは、ファシリテーションのワークショップもやられているじゃないですか。外部の人間が仲を取り持つことの効果って、すごく大きいですよね。

田川:会社ってレポートラインがあるから、隣にいる人に対しても「上司を通してください」なんて言われちゃったりしてね(笑)。そこに「すみません、御社の事情は分からないので…」と、ある意味、乱暴に入っていけるのは、僕らのような外部の人間の強み。政治的なケアをする必要がないから、かえって事がスムーズに進みます。

伊藤:そうそう、内部にいるとケアし過ぎちゃうんだよね。「あの人を呼ぶと、怒られちゃうかな?」とか(笑)。だから外部の人間の役割って、社内のコリをほぐすことにもありますよね。よろいを外してみたら案外、物事がシンプルに進むのに、組織のレッテルみたいなものが足かせになっているから。

ハイブリッドなクリエーティブこそが、イノベーションを生む

──ここまで数々の示唆を頂きましたが、次に「コードアワード」のテーマである「デジタルとクリエーティビティー」についてお聞かせください。
デジタルを活用したクリエーティビティーを企業のマーケティング活動に落とし込むには、どのようなことがポイントになるとお考えですか?

伊藤:先ほどお話ししたような協働の姿勢が、ひとつの大きなポイントですよね。さらにクリエーティブという点に絞り込むと、デザイン思考の重要性でしょうか。日本にもようやくデザイン思考が根付いてきた感がありますが、田川さんの実感としては、いかがですか?

田川:デザイン思考自体は、すでに確立されたクラシカルメソッドです。日本からすると最新の手法だけれど、デザイン思考自体が提唱されたのは20年以上も前のことですから。デザインの歴史から考えてみると、その中心地は長らくヨーロッパでした。そこでは、 “マエストロ型”つまり、巨匠が主観と世界観でつくり上げるクリエーティブが覇権を誇っていました。

一方、1980年代に入るとシリコンバレーで新しい産業が立ち上がり始め、そこに“マエストロ型”に限界を感じたヨーロッパ人が、移民として入り込みました。そこで生み出されのがデザイン思考です。デザイン思考は、観察・プロトタイピング・チームワークに重きを置いた“脱マエストロ型”のシステム。どうして“マエストロ型”から“脱マエストロ型”に主流が移ったかというと、後者の方が、ビジネスとのフィットがよかったからです。フィットした理由も単純で、デザイン思考はPDCAに乗せやすいとか、属人性が低く再現性を作りやすい、つまりビジネスの価値観と近いからです。だから、デザイン思考は普及したのです。

ただし、それが生まれたのは、ネットがまだ当たり前ではなかった時代。だから最先端というところでは、いろんなアプローチが出てきています。あと、ここにきて、「手法なんて使えるものは何でも使えばいいじゃん。マエストロもデザイン思考も、適材適所でしょ!」という時代になりつつあるのかなと。すると伊藤さんの言うように、やっぱり協働が欠かせない。ビジネスをやる人、テクノロジーをやる人、クリエーティブをやる人が入り交じった、ハイブリッドゾーンに踏み込み始めています。僕らはこうしたハイブリッドを“BTCタイプ”と呼んでいますが、3要素を包括したチームこそ、イノベーションを引き起こすコアドライバーなんだと信じています。

プレゼンもコミュニケーション第一。企業との協働がカギに

──いわゆる大企業の上層部やクライアントを説得するプレゼンのコツについてお聞かせください。

田川:プレゼン自体、ほとんどしません。重要なのは日々のコミュニケーションとフィードバック。そこから取り込める部分と取り込まない部分を精査しつつ、プロトタイプやロジックを考えていくから、「一発のプレゼンで通った!」という場面自体が少ない。ある意味、継続的・漸進的コミュニケーションこそが、ポイントかもしれません。

伊藤:僕も一緒です。クリエーティブの仕事って完全にフィービジネスだから、われわれが使う時間に対し、お金を頂いているわけです。その分、「何回のプレゼン」という意識ではなく、月に2回、3回とお話しする機会を設けていただいているので、プレゼンという意識は、限りなくないですね。オープンソースのような感覚で、一緒に作り上げていくイメージです。

田川:そうそう。だから変な言い方をすると、1発目のプレゼンはできるだけプロジェクトが始まってすぐにやって、いかにクライアントから「全く分かっていないですね」という言葉を浴びられるかがカギです(笑)。するとオリエンの段階では明確ではなかった方向性がバシッと分かるから。それをプロジェクトの中間で叩き上げていけばいい。要は最終的にしっかりした結果になっているかどうかなので。だから最初は「半分は間違っていると思うので…」というスタンスで挑むというね(笑)。だけど、それを素早くやる。

旧態依然を疑う姿勢があれば、次世代のリーダーになれる

──なるほど。ここでも旧態依然とした手法が覆された印象がありますが、最後にデジタルマーケティングのこれからを担う世代、若い人たちに向けてメッセージをお願いします。

伊藤:「就職企業ランキング」を見ると、何十年も変わっていないですよね。もちろんオーセンティックな大企業こその面白さはありますが、ネット企業にももっと目を向けてほしいと思います。

僕は芸大で教えているので、学生の多くがデザイナーを目指しています。すると、みんなが一様に「デザイン事務所に就職しなきゃ」と口にする。だけどゲーム会社でインハウスデザイナーを募集していたり、LINEのような企業にも、実はたくさんのデザイナーがいたりする。「広い視野を持てば、自分が楽しめる場所は、まだまだいっぱいあるんだよ」と伝えたいし、面白いチャレンジだとも思います。

ここまでお話ししてきたように、あらゆる分野の一元化が求められ始めた今だからこそ、面白さもひとしお。この動きに目を付けて動き始めれば、新たなリーダーになれる可能性も高いはずです。

田川:デジタルツールを使うことの最たる利点って、個人個人の可能性が大きく広がることですよね。その分、個人が求められるスキルセットも高くなっていくし、クリエーティブの先にあるプロダクトに対して、コモディティー化も起こってくる。

何か一つを極めるのに20年、30年かかっていた時代から、ネットによって世界がフラットになりつつある今、5、6年でその分野の深部にまで到達できる気がします。このように時間が短縮されると同時に、個人が内包できるキャパシティーは、やはりネットの力によって猛烈に広がっている。個人の可能性が極大化されるのが近未来なのです。だから今の若い人は、あまり上の人の言うことは聞かなくていいと思う。それはネットがなかった時代の人の常識でしかないから。「BI人(Before Internetな人々)の言うことは完全に疑ってかかった方が正解だよ」と伝えたいですね(笑)。

──お二人とも、非常に中身の濃いお話をありがとうございました。

コードアワード2017では、6月12日(月)から18日(日)まで、ファイナリスト作品の中から人気作品を選ぶ一般投票をオフィシャルサイト(http://www.codeaward.jp/)で受付中です。どなたでも投票いただけますので、ぜひお気に入りの作品に投票してみてください。