気安く「バズらせる」って言ったら番長に殴られるぞ!
2017/10/31
低予算でバズ病に注意
サノヤス・ヒシノ明昌(現在はサノヤス造船)のメインドックである水島造船所で働く若者のリクルート広告で、今をときめく映像クリエーターの藤井亮くんとの仕事です。って書くと藤井が電通を辞めて独立したみたいですが、彼は今もうちの社員です(笑)。
今どきの若者が仕事を選ぶときの大事な選択基準の一つが「面白いか?」だと思うんです。もちろん、このコラムでずっと使っている広い意味での「面白い」です。そこで、僕は「面白い」を使って次の目標を達成することにしました。
【設定した目標】
造船業の人気低迷の原因となっている3K(キツイ、汚い、危険)イメージを払拭、「面白い仕事」「面白い会社」というイメージに変えて学生の就職希望者を殺到させる。しかも低予算で。
会社の説明とかリクルート広告って「夢」とか「希望」とか「やりがい」とかで語りがち。でも、今回のメインターゲットは工業高校の新卒男子学生。そんな青くさい言葉で語りかけても「ケッ」ってバカにされて見向きもしてくれない。だから、かなり思い切って、彼らの価値観での「面白い」で、彼らのやり方で語りかけることにしました。で、考えたアイデアが造船番長です。
普通の広告じゃなくて、学生が大好きな漫画でコミュニケーション。しかも、工業高校のやんちゃな男子が大好きな学園番長モノ。力を持て余していた番長が造船と素晴らしい仲間に出会い「造船番長」として成長、活躍する物語。って何のこっちゃ(笑)。
低予算で実現するために、絵は天才藤井が描いてくれて、僕がCMソングの歌詞を書いて自分で歌って、番長の声までやってます。
結果、この広告はめっちゃバズって、テレビや新聞でもたくさん取り上げられました。そして何とカンヌライオンズでも銀賞を受賞しちゃいました 。
それを聞きつけて…
「ねえ中尾く〜ん、今回はお金がないからさ、造船番長みたいにウェブでバズらせちゃってよ」と言ってくる営業が大量発生。
そんな彼らに一言言いたい。 お前らアホか!
これは言い過ぎだとしても僕は問いたい。覚悟はありますか?
そもそも口コミ、ウェブ、SNSが拡散するんじゃなくて 、口コミ、ウェブ、SNSで拡散する。だから結局は 何が拡散するのか?の中身が大事。
特に今はテレビCMなどのマス広告と比較してもウェブは群雄割拠の超激戦区。ちゃんと拡散するだけの魅力とパワーがある中身をつくらないと絶対に拡散なんてしません。
そんな厳しい状況の中でウェブ、SNSで話題が拡散する原動力などです。しかもです。つまり…リスクを冒してとんでもない「面白さ」を発信する覚悟がないと低予算でバズらせることなんて到底できないんです。
「とんでもなさ」や「アホさ」や「ネガティブさ」が、お金をかけた広告露出に代わって拡散力になるから低予算でバズるわけで、リスクを冒す覚悟がないのであればお金を払って広告露出してもらわないとどうしようもありません。そして、何でもかんでもバズって言うんじゃなくて、そもそもバズらせるのが問題の解決に一番有効なのか?も見極めてください。
船を造るぜ、かっこいいぜ!
そして、われらの造船番長はというと…
信じられないくらいアホです!
あっ、もちろん良い意味でですよ(汗)。そもそもの設定や絵のタッチ、歌詞の内容などその全てがアホを極めていますが、それだけではありません。
実は、主要キャラクターが当時のサノヤスのリクルートを担当しておられる方々の顔だったりします。つまり、会社説明会に行くとアニメCMで見た顔とそっくりの方々が出てきて話をし始めるわけです。
その結果、造船番長は見事に低予算でのバズ化に成功。2年目へと突入するのですが、そこでさらに「とんでもないアホさ」へとエスカレートします。
当初は予算がなくて前年の素材を再放送することになったのですが、視聴者には内緒で素材を改造。何といろんな所に社長が登場!おまけに、随所に見たこともない新キャラを黙って追加しました。
そしたらさらに話題になって、番長が出ている会社説明会ビデオをつくってほしいという話が来ました。この会社説明会ビデオも、ものすごいですよ。肝心の会社の説明は早送りで飛ばされて、造船番長誕生の秘密がビデオの中で明かされます! 説明会に来た学生だけが「なぜ番長があんな頭になったのか?」を知ることができ、そこからさらに話題が拡散する仕組みです。
そしたら、さらにさらに話題になって、続編CMを新たに制作することに。今度はアニメの次回予告風のCMにしました。でも、勝手に次回を予告しといて肝心の本編はありません。
リスクを冒す覚悟がありますか?
「おい中身ないぞ」とか「一体どんな話なんだ」って思いっきり突っ込みまくってもらいました。このように本当に隅から隅まで究極のアホを貫いています。だから、低予算でもバズりました。
と同時に、われわれの提案を信じて採用、実施してくださった社長をはじめとするサノヤスの皆さんのセンスと勇気と決断力に心から感謝しています。
もし、あなたのクライアントや営業が「ウェブ、SNSを使って低予算でバズらせましょう」って言い出したらチーム全員で確認してください。
あなたたちにはリスクを冒して「とんでもない面白さ」を発信する覚悟がありますか?
もし安易な覚悟で「バズらせる」なんて言ったら、造船番長にぶん殴られますよ!!