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拡散するクリエーティブNo.4

はじめての○○○○

2013/12/19

その日、僕はいつものようにTwitterで自分の仕事についてエゴサーチ(コラム第1回参照)をしていました。すると、ちょっとした異変が。

ある仕事についてのツイート数が跳ね上がっていたのです。でもそのときの広告は数ヶ月前の再掲載。個人的には前より効果は落ちるだろうな…と思っていました。やっぱりコピーライターである自分の本心としては、せっかくの機会ですから新しいコピーを書きたいし、前回の効果を上回るものをつくりたいと考えるわけです。だいたいクリエーティブの担当者なんて、何かつくってないと寂しくて死んじゃうのです。

ところがです。予想に反して(というのもなんですが)Twitterで話題になっている。数ヶ月前から使ってる広告なのに。お客さんたちも既に見ているはずなのに。どういうこと?不思議に思って、営業に電話しました。

「いま出稿してるの、だいぶ前につくったやつだよね?」

「そうですけど」

どうやら知らないうちに僕がクビになってて別の敏腕コピーライターがコピー書いてたりはしないようです。

「出稿量増やした?」

「いつもより若干多いですけど、そんなには変わらないです」

なるほど、急に景気が回復して怒濤の大量出稿がなされたということでもないようです。じゃあいったい何が?ますますわかりません。

「今回なんか変わったことない?」

「あ、そういえば」

なんだ、あるのか心当たり。で、なんなのよ?

「すこし路線が変わってますね…」

「路線?」

「いつもは出稿してない山手線とか」

 

どうやら交通広告を出稿する路線を、ほんの一部だけ変更したとのこと。そこではじめて広告に触れた人を起点に拡散がはじまったのです。広告に限らず、SNSでは昔の情報が忘れた頃に拡散することがあります。ネットに置かれたデータ自体は劣化することもないし、タイムカプセルのようにそのまま残っている。見る人にとっては、それがいつつくられたものかなんて関係ないのです。たとえ何年前のものであろうと、初めて見た人にはピカピカの新作。その表現が本当に良いものであれば、拡散は何度でも起こりうるということです。

ところが別の仕事で、できたての新作なのにあんまり反応がなかったケースもありました。

かつて評判の良かったグラフィック広告があって、それを受けて1年後にまた新たに出稿することになったのです。ところが、エゴサーチしてみるとSNSでの反応がそれほど大きくない。まいったなあ…なんて思いながら観察していたら1年前の原稿のほうがまた拡散しはじめて、そっちのほうが多くリツイートされている始末。同じ人間がつくっているのでそれほどクオリティも変わらないはず。手法も同じ、出稿時期も同じ、媒体も同じ。なのに、反応はまったくと言っていいほど違う。

「同じなのに」というより、「同じだから」まずかった、と考えるべきでしょう。どんなに大ヒットした映画やドラマでも、やっぱり最初がいちばん衝撃的でドキドキワクワクするわけで。だいたいパート2ってそんなに盛りあがらないですよね。やっぱり人は、見たことのないものを見たときにいちばん心が動くものですから。第2弾以降は見る前から鮮度が落ちているうえ、期待値は高いので余計に厳しい。かたちとしては新しい原稿でも、そこに既視感があるとパワーは思った以上に落ちてしまうのです。それはもう、格段に落ちます。

結局、広告が新しいかどうかを決めるのは作り手ではなく、見る人です。そしてその結果がハッキリ見えてしまうのがSNS時代。僕自身も表現を考えるとき、表面的に新しいかどうかじゃなくて見た人の「はじめてのドキドキ」とか「はじめてのハッケン」とかになれるかどうかを考えます。そんなアイデアはそう簡単に生まれませんけど、小さくてもいいから「はじめて」が作りたいのです。その点、巷でロングヒットしている広告キャンペーンを見ていると、すごいなあと感服します。同じシリーズでもときどき「はじめて」の挑戦を入れている。ずっと変わらずおもしろいということは、世の中の速度に合わせてずっと変化してきているってことなんですよね。

このコラムももう4回目。みなさんも、正直そろそろ飽きてきてますよね?でも、あと2回もあるんですよねえ…残念ながら。まあ次回は2014年になっていることですし、どうかフレッシュな気持ちで、期待値をさらに引き下げながらお読みいただけると幸いです。