loading...

拡散するクリエーティブNo.5

モエモエ

2014/01/09

なんとか打ち切りにならずに、このコラムも2014年を迎えました。拡散についてのコラムなのにぜんぜん拡散してませんけど、そこはあえて触れないでおくのが大人のやさしさというものなんで、ひとつよろしくお願いします。

さて、ほとんどのみなさんが拡散という現象に接するのは、ある程度進行した段階だと思います。拡散のはじまりから終わりまで観察したことのあるヒマな人はそんなにいないですよね。でもその経過をただひたすら見ていると、なかなか面白いものなんです。

最初はパラパラと個人の感想がつぶやかれたりしているのですが、だれかが写真を撮ったり動画を引用したりしてSNS上にのっかると、そこから「拡散」らしきものがはじまっていきます。まあ、かなり大雑把にいうとこんな流れです。

広告に直接触れた人がまずツイートする。

SNS上でそれを二次的に見た人がさらに拡散する。

まとめサイトやネットニュースに取り上げられ、さらに話題になる。

途中で発信力のある人やメディアが介在すると、それがきっかけとなってポーンと跳ねます。もちろん広がるルートは1つとは限らず、規模の違う複数の拡散が同時進行しています。

じゃあ、拡散ってどうやって終わるのか?というと…なんとなく終わるんです。つぶやかれる間隔がだんだん減っていって、沈黙する。いまのSNS人口がざっくり5000万超だそうですが、タイムラインはすぐ流れていってしまうので見逃す人もいる。興味関心のある人に限っても、全員に情報が行き渡ることはなかなか難しいのでしょう。どんなに勢いがあっても、やがては終息してしまいます。

こういった流れを見ていると、拡散って火が燃えるのに似ているなあ、と思いました。ある発火点を超えればさっと燃え広がるけれども、燃えるものがなくなると何もしなくてもゆっくり消えていく。消えたかなー、と思っているとまだ少し火種が残っていて、きっかけがあれば広がる。前回の山手線の例(コラム第4回参照)なんかは、新鮮な空気に触れると火がまた燃え上がるのとよく似ていました。

こうやって火に例えると現象の性質もわかりやすくなります。ネット以前にも「ブームに火がつく」とか「いま○○が熱い」なんて例えられてきた通り、「誰かに伝えたい」という欲求は熱の伝達みたいなもの。ほかの誰かに伝え終わると、自分の熱は下がっていきます。観察してると、個人が同じ広告について複数回発信することって、ほとんどないんですよね。やっぱり人は冷めやすい生き物のようです。

だから、広告づくりを「火起こし」だと思って工夫を考えるのは結構いいヒントになるかもしれません。燃えやすくするための着火材(発言してくれるコアなユーザー)に手伝ってもらえばより拡散しやすくなるな…とか、温度の高い場所(世間の興味関心が集まっているところ)からまずは狙ってみようか…とか。炎上マーケティングなんていう言葉が生まれたのも、きっとそれと同じ発想でしょう。

ただですね、炎上マーケティングとは言わないまでも、そういう話題性だけを狙ったコミュニケーションが増えてきて拡散が目的化しすぎるのはどうなのかなあ、と個人的には感じています。結果としても「話題になっただけ」でとどまりがちな気がするんです。もちろん拡散が求められる時代的な背景もわかりますし、話題にならないよりはなったほうがいいんですけど、それだけじゃ足りないと思うんですよね。燃えたあとに何が残ったんだろう?と僕らはしっかり考えてみなくてはいけないはずです。

同じ火にしても、花火のような一瞬の華やかさでみんなの気分をパッと晴れやかにすべきときもあれば、ときには小さくてもほっとする暖炉の火のような温もりを提供すべきときもあるでしょう。あるいはその中で芋でも焼いていい香りをさせることが必要かもしれない。伝わったあと、人を「どういう気持ちにさせるか」、さらに言うならその気持ちをどう企業や商品との関係につなげていくのか。そこが僕らの技倆を問われる部分。そこまで考えてコミュニケーションをつくっていくのが、ほんとうのプロの仕事なんだと思います。めちゃくちゃ難しいですけど。だからめちゃくちゃ面白かったりするわけですよね。この仕事。

それでは、今回はこのへんで。ちなみに次が最終回です。つまりあと締切がもう1回あるってことですね…。僕としてはもうすでに真っ白に燃え尽きそうな感じなんですけど…。