ルールは変わった。チャンスも広がった。それで、どこに向かえばいい?
2017/12/12
電通内に、顧客企業のイノベーションを創出するための組織「電通ビジネスデザインスクエア」が発足しました。本連載では、メンバーが「電通の考えるビジネスデザインとは何か」をお伝えします。第4回はディレクターの山原新悟氏が、市場で起き始めたゲームチェンジへの対応について語ります。
【目次】
▼市場で起き始めたゲームチェンジ。経営としてどう未来を読むか
▼企業内から新規事業を創り出すための四つの視点
▼バリューチェーン、本当に「チェーン」になっているか?
▼不確実性の高い時代、だからこそ、経営にアイデアを
市場で起き始めたゲームチェンジ。経営としてどう未来を読むか
はじめまして、電通ビジネスデザインスクエアの山原です。現在、企業の抱える経営課題が劇的に変化しています。デジタルテクノロジーの進化で、新たな形のサービスが生まれ、生活者の体験や価値観の変化が加速。他業種やベンチャーから競合が参入し、競争環境は激化の一途です。さまざまな市場で起き始めたゲームチェンジに、経営として未来を読み、素早く向き合うことが求められています。
実際、
「モノからコトへ」
「単発の商品ではなく、プラットフォームを」
「ただの改善ではなく、非連続なアクションを」
そういう危機感と方針を掲げている企業がさらに増えてきていると実感します。
ですが、いざ取り組むとなるとさまざまな壁にぶつかります。
どういう形でどのような新しいアウトプットを創り出すべきか、成功体験がない世界にどう一歩踏み出すべきか、その後どんなアクションを重ねるべきなのか、既存事業とどういう形でシナジーを生み出せばいいのか。
そうした全体設計に悩まれている経営陣の方々が多くいます。
われわれが提供できるのは、そういった課題への「形ある解」と、その実現までの「伴走」です。
そのアプローチの一環とわれわれの視座について紹介します。
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企業内から新規事業を創り出すための四つの視点
「形ある解」を生み出すために、課題に応じてさまざまなアプローチを取ります。今回はそのうちの一つ、企業内から新規事業を生み出すときのアプローチを紹介します。
企業ビジョン/事業ビジョンを精緻に設計する
新しい非連続な成長の先に、どういう企業でありたいか、その“北極星”を定めます。例えば「自動車メーカー」から「総合モビリティーサービス事業」へ進化する、そのために「ライドシェア(乗用車の相乗りマッチングサービス)事業を開始する」といったイメージです。このように軸足を定めることは、非常に重要です。ビジョンの定め方は、本連載初回の国見昭仁氏が「愛せる未来をつくるためのビジネスデザイン」の中で紹介している「VISIONEERING」の手法を活用し、精緻に設計します。
生活者の潜在的なニーズを発掘する
新たなサービス事業に進出しようとするとき、多くの場合既存のプレーヤーが存在します。スケールもしているし、価格競争も起きている。もう入る余地がないのではないか、そういう懸念が生じます。しかし多くの場合、ユーザーはどこかで無意識に期待値を下げていたり、何かを最初から諦めていたりします。その「潜っているニーズ」をどう発見するか。生活者インサイトを徹底的に検証し、可能性を発掘するアプローチです。
企業のアセットからアイデアを発想する
企業の持つ有形/無形のアセットから、新規事業のアイデアを発想します。R&Dセクションが保有するさまざまな技術の中には、提供の仕方を大きく変えたり、他の企業のアセットと組み合わせることで大きく化けたりするものがあります。実際、われわれのグループがお手伝いしているクライアント同士のコラボレーションを通して、新たなプロダクトやサービスが生まれています。
解決すべき企業の本質課題にトライする
この新しい事業を通して、企業のどんな本質課題が解決できるか。企業が抱えるさまざまな課題を根本から変革するのは容易なことではありません。ですので、この新しい事業を通じて、ビジネスプロセスや、組織の作り方などを、これまでと少し変えてトライしてみます。既存事業ではできなかった取り組みを、この領域だけやってみる。企業変革のプロトタイプにしてみるということです。
この四つの視点を、同時に行ったり来たりしながら、真ん中の新たな提供価値のアイデアを生み出していきます。
簡単なプロセスではないですが、諦めずに、粘り強く、思考と議論を繰り返していくプロセスです。ただ大事なことは「チーム全体が楽しく、熱量高く考えられるセッション設計」です。自分たちがまず楽しみながら考えられないようでは、生活者がやってみたくなる新たな価値は生まれません。
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バリューチェーン、本当に「チェーン」になっているか?
われわれがデザインするのは、プロダクトやサービスだけではありません。成長を実現するため、基盤となる組織や人事の在り方も設計します。
現状の業務のプロセスや、そこでの課題を洗い出していく際、バリューチェーンをベースとするアプローチが多く見られます。
これまで改善が繰り返されてきたプロセスが描かれ、部門ごとに課題が挙げられていきます。他の部門への批判、要望や、「部門間の連携ができていない」などの課題も挙がります。
しかし、セッションを重ねていくと、さらに深く潜んでいるさまざまな「チェーンの切れ目」が潜んでいることが見えてきます。それはしばしば部門間の心理的な課題や、人間関係的なもの、組織設計そのものの話だったりします。
「部門横断ミーティングはよくあるが、そもそも仲が良くないので協創的な雰囲気ではなく、表面的な話で終わる」
「営業スタッフは、商品の機能的な魅力はセールスできているが、心から自社の商品や会社に誇りを感じていない」
「効率化が追求されているので収益は順調だが、新しいものを生み出す『遊び』がなくなってきている」
つまり、組織の機能的には「チェーン」になっていても、心理的な「チェーン」は切れてしまっています。
それをつなぎ直し、より強いバリューを生み出すためには、システムの改善や業務フローの再設計だけでは十分ではありません。組織、人事制度、オフィスの在り方、経営陣のコミュニケーション設計、現場の横断的なセッションの在り方など、多くのアクションを設計する必要があります。
実はこうした組織や人事の設計は、コミュニケーションをドメインにしてきたわれわれだからこそできることでもあります。コミュニケーションデザインは、人と人との関係性と情報の最適な在り方を設計することです。そのノウハウは、本当にワークする組織や人事、そしてビジネスプロセス設計の検証に活用することができます。
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不確実性の高い時代、だからこそ、経営にアイデアを
情報量が爆発的に増えている中、企業は「生活者の心のシェアと時間」の奪い合いになっています。あらゆるサービス、プロダクトが、少しでも「つまらない」「よく分からない」「信じられない」と思われた瞬間、あっという間に離脱されてしまいます。またC to Cのシェア/リユースのプラットフォームの定着もあり、そもそも所有すること自体の価値が逓減してきています。情報、プロダクト、サービス、全てにおいて、かつてない生活者優位の時代、「受け手市場」の時代といえます。
だからこそ、これまで以上に、経営にアイデアが求められています。
生活者の環境や常識が急速に変化する時代に、どのように新しい、そして普遍的な価値を生み出すか。そこに向けて、経営・事業戦略、マーケティング、組織人事、お客さまとのつながり方、全ての領域をいかにシームレスに設計するか。
徹底的に生活者目線に立ち、大きなコンセプトから、細かなUX,UIまで考え尽くし、組織全体のバランスをとりながら実行していくという、高いクリエーティビティーが必要です。
分析やシミュレーションだけでなく、生活者にも、インナーにも驚きを与えるアウトプットを生み出す。われわれが、コンサルティングではなく、ビジネスデザインを掲げる理由はそこにあります。
一方で、ビジネスデザイン領域で解を導き出すことは、決して簡単なことではありません。日々、経営陣や事業の現場の方々が考え尽くされ、取り組まれている中、それでも解が出ないと感じられていることに挑む、大変難しいプロジェクトが多くあります。別の企業でうまくいったアプローチが、その企業のケースに当てはまることも、ほぼありません。「解がありそう」という光が見えるまでに、なかなか至らないこともあります。
われわれもノウハウと人材をフル活用しながら、企業の方々と対話を繰り返し、とにかく考え尽くすことを続けます。電通がこれまで、マーケティングとコミュニケーションの領域で培ってきた生活者インサイトを導くノウハウや、世の中にインパクトを与えるクリエーティビティーは、ビジネスの成長のためにも効果的に活用できると実感しています。
不確実性の高い時代だからこそ「愛せる未来」に向けて、企業の皆さまと一緒に、新らしく予想外の価値を生み出していきたいと思っています。