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聴く力を失ったのか、僕たちは

セカイメガネNo.63

2017/12/20

聴く力を失ったのか、僕たちは

聴くこと。僕たちが持っている能力の中で、もっとも使われていない力。みんな、誰が一番大きい声でしゃべれるか、競争しているようだ。じっくり相手の話を聴く人は決して多くない。広告も現実世界も同じだ。役員会議室では、最新ビジネス流行語が飛び交う。書類のコメント欄は、独り善がりの非難の言葉であふれている。誰もが何か一言、言いたい。でも、相手の話をよく聴いた上で発言しているのか、疑問だ。

僕は打ち合せの前半、たいがい一番寡黙だ。じっと黙っているから、僕にその仕事が本当にできるのか、疑いの目で見る人さえいる。この沈黙には、実は意味がある。相手の言うことを注意深く聴かないのなら、その人の役に立つことなどできるだろうか。クライアント、生活者、そしてチームの仲間たちの役に立てることが。きちんと話を聴いた上で初めて、自分の知識と理解に基づき発言する準備ができた、と僕は感じる。

クリエーティブ・パーソンとして優れた仕事をしたければ、相手の気持ちになって考えることが何より大切だ。けれど普段目にする広告の多くは、相手に共感し、理解しようとしているとは思えない。流行に乗っただけの広告。かっこよさげな手法におぼれている広告。

こうした相互コミュケーションの不在は、クライアントにも当てはまる。仕事を競合にしたいと思うのは、担当広告会社が話を聴いていないと不満を抱くときだ。「自分たちの利益を確保するのに夢中で、われわれの利益を最優先していない」。一方、広告会社の言い分は、「あのクライアントは自分たちに何が大事か、ちっとも分かっていない」。

確かに、適任でない担当者であれば、自分たちに何が大事か分かっていないこともあるかもしれない。でも、もしそうであるなら、生活者に伝わるコミュニケーションがどんなものかその担当者に示すのは、僕たち、広告会社の責任だ。生活者に声が届けば、結局、クライアントに利益をもたらすことができる。

相手の言うことをじっくり聴き、聴いた内容に基づいて答えを返す。このサイクルこそ、仕事を継続し、新規の仕事を獲得する基本になる。4カ国、20年の実地体験で学んだ、僕の結論だ。

クライアントであれ、生活者であれ、まずはじっくり相手の話を聴いてみよう。そうすれば、相手に自分の話を聴いてもらえる確率は間違いなく上がる。

イラストレーション:段 希子

(監修:電通 グローバル・ビジネス・センター
 イラストレーション:段 希子)