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食ラボの視点 ~「食と○○」を考えるNo.2

コンテンツ化する10代の食~「食と未来」を考える

2018/01/18

はじめまして。
電通食ラボ連載第2回担当の春原千恵です。
今回は、「若者の食」、特に「10代の食」にフォーカスを当てます。

これから5年後10年後、社会の一員となり、家族を形成し、食の重要な担い手となる若者たち。その食に関する価値観や行動にはどのような特徴があって、どのような社会的背景が隠れているのかを知ることで、日本の食の抱える課題や、食の未来までも見えてくるかもしれない。そんな企画です。

電通では生活者が思い描く食の近未来を明らかにするため、「近未来マインド調査」※を実施しました。

この調査は、食にまつわる40の項目を提示し、3~4年後の食生活を想像した場合に、各項目について「増えそう/減りそう」「増やしたい/減らしたい」かを聞いたものです。その結果を点数化、各項目の平均値をマップ化して、「近未来予測マップ」を作成しました。

(15~19歳男女)

近未来予測マップのうち、左上・右下は、それぞれ「減らしたいけど増えそう」「増やしたいけど減りそう」な項目がプロットされるゾーン。ここは理想と現実のギャップが存在しており、何らかのソリューションが必要な「ソリューションゾーン」です。

この10代の近未来予測マップからは、「ちゃんとした食事を」「みんなと一緒に」食べたい、という10代の食への思いが明らかになりました。彼ら彼女らの日常の一部となっているSNS文化も背景に読み解いていきます。

10代の食は、パパッとよりも、ちゃんと。

10代と全年代の近未来予測マップを比較してみました。

まず項目の分布に着目すると、10代の近未来予測マップでは他の年代よりも多くの項目がソリューションゾーンに存在し、その位置もよりスコアが高い場所にあります。

10代は食に関する課題意識が高いことが分かります。

そしてソリューションゾーンにプロットされた項目を見てみると、左上の「減らしたいけど増えそう」ゾーンには、「インスタント食品や冷凍食品」「コンビニ」「ファストフード」など、手軽で簡便な食に関する項目が挙がっています。

右下の「増やしたいけど減りそう」ゾーンには「手間ひまかけた料理をすること」がプロットされました。

10代は「きちんと食に向き合う姿勢」を持っているようです。

次に、10代の男女で比較してみました。

10代女性の方が、10代男性よりもソリューションゾーンのスコアが高い方に項目がプロットされており、手軽で簡便な食を避け、手間ひまかけた料理への志向がより強く出ています。

加えて、食事にかける時間に関しては、さらに男女差が強く表れました。

10代男性の場合、「ゆっくり食事をすること」はソリューションゾーンの中でも真ん中寄り。「時間をかけずに食事をすること」はソリューションゾーンに入っていません。

しかし10代女性は、「ゆっくり食事をすること」、「時間をかけずに食事をすること」両方がソリューションゾーンのスコアが高いゾーンに表れています。

こうした結果から、10代(特に女性)は、ただ栄養を摂取するだけのものではなく、時間や手間をかけて、主体的に食と向き合いたい思いを強くもっているものの、それを実現するのは難しいと感じている、ということが分かります。

「おいしい」は、誰かといっしょに。

次に特徴的なのが、「減らしたいけど増えそう」ゾーンで「一人で食事をする」、「増やしたいけど減りそう」ゾーンで「家族と食事をする」のスコアが高い位置に表れたことです。

10代は他の年代に比べ、「家族との食事」を特に重視しているものの、それが難しい環境にあることが分かります。塾や習い事に忙しい最近の子ども事情や、10代の子どもの親が30代後半~40代の働き盛りであることを考えると、納得できる結果です。

最近「一汁一菜」「つくおき」などが流行しましたが、食事の準備にかける時間を短縮・効率化するのはママ・パパ側だけでなく、その子どもにとってもいいソリューションだったのですね。

また、前述の「家族との食事」だけでなく、「飲み会やホームパーティーへの参加」や「地域や近隣の人との食事」といった、「リアルな人付き合い」を「増やしたい」と考えていることが分かりました。

これは10代のみにみられた特徴です。

つまり、10代は食に関して誰かと楽しみたい思いが強いことがうかがえます。

食は最強のインスタ映え

10代の若者を語る際に、外せないのがInstagramをはじめとするSNS。

「インスタ映え」といえば、フォトジェニックなスイーツを前に、理想の一枚を求めて友達と一緒に自撮りをする10代女性の姿が思い浮かびます。

では、なぜ食べ物がインスタに投稿するネタとして選ばれがちなのでしょうか。その理由として、食が普遍性と独自性を併せ持ったコンテンツであることが挙げられると考えています。

まず、食は人間誰しもが基本的には1日3回行う行動であり、人を選ばず理解できる普遍性があります。そのため、食べ物の写真は、気軽に投稿できて、見た側も気軽にいいね!をつけることができるため、コンテンツとして適しているのです。

それでいて、色とりどりのパフェでカワイイを体現したり、手間をかけて作った手料理で丁寧に暮らす自分をアピールしたりと、その人自身の価値観や生活レベルを分かりやすく発信することができます。また、彼氏との休日カフェや、サークル仲間とのBBQなどをアップすれば、端的に仲間に必要とされている自分の姿が伝わります。こうした、自分ならではの独自性を発揮してくれる側面もあります。

一人でコンビニ飯やインスタント食品を流し込むのではなく、誰かとちゃんとした料理や好きなものを楽しむ自分でありたい。そして、そんな自分をみんなに知ってもらって、認めてほしい。

今回明らかになった10代の食に対する思いが投影されているのが、「インスタ映え」であるように思えます。

人の暮らしに密接に関わっているからこそ、時代を如実に映す食。
戦後の食べることが何よりのぜいたくだった時代を経て、インスタント食品が普及。
食にかける時間も惜しんで働くべし、という高度経済成長期がありました。
食がステータス誇示に使われ、ぜいたくさを競ったバブル時代、その反動で身近な食材で健康や美容を追求するコスパ重視の不景気時代もありました。
そして現代、10代をはじめとする若者は食をコンテンツととらえ、SNSを通じて自分をプロデュースしているのかもしれません。
近年はコップ1杯で完全栄養が摂取できる飲み物なども開発され、わざわざ食に時間や手間を割く必要はなくなりつつあります。

それでも食は、今も形を変えて10代のコミュニケーションの中心となり、大事な時間として愛され続けています。

10代の若者が食に関心を向けてくれている限り、日本の食の未来は明るい。そう食ラボは思っています。

次回は「食と孤独」について。

一転、暗い話題に思えるかもしれませんが、孤食の気持ちについてひもとくことで、単身世帯が急増している日本の食の課題が見えてくるかもしれません。乞うご期待!

(注:※近未来マインド調査について)
2016年9月に、全国1200サンプル、男女個人15~79歳に対して、食にまつわる40の項目を提示して行ったインターネット調査