孤食マーケティングのすすめ ~「食と孤独」を考える
2018/02/15
食生活ラボ(通称:食ラボ)の連載も今回で3回目を迎えました。「『食と○○』を考える」という形で、食をいつもよりちょっと広い視点で捉えてみようというこの企画。
今回は「食と孤独」がテーマです。
先月、イギリスで「孤独担当相」の職が新設されるというニュースが流れました。同国の「ジョー・コックス孤独委員会」報告によると、孤独によるネガティブな影響がイギリスの国家経済に与える損失は、年間320億ポンド(約4.9兆円)に上るとのこと。
どうやら孤独問題は日本特有のものではないようです。
日本で「孤食」という言葉を耳にするようになったのは、2000年代半ばからでしょうか。
以前は否定的なニュアンスが強い言葉でしたが、最近では「孤独のグルメ」に代表されるように、一人で食事をすることの醍醐味もフィーチャーされるようになってきました。
日本の社会はこれからどんどん単身世帯が増えていきます。さらに、家族であっても、個々人で食事を取ることが多くなってきました。
孤食が増えるこれからの時代。実際のところ、孤食はどのように捉えられているのでしょうか。いまだネガティブな印象が強い孤食を、ポジティブなチャンスへと転換していくことはできないのでしょうか。
今回は、このあたりを考えつつ、食をひもといてみたいと思います。
1人で食事することは「減らしたいけど増えそう」
連載第2回でもご紹介した「近未来マインド調査」。
この調査では、食にまつわるさまざまな項目について、今から3~4年後、それぞれの項目が「増えそう/減りそう」か、「増やしたい/減らしたい」か、を聞き、結果を点数化・マップ化しています。
生活者から見た「世の中の予測」と「個人の願望」を掛け合わせたマップ、とご理解いただくのが一番分かりやすいと思います。
この項目の一つとして「1人で食事をすること」も調べています。
これを性年代ごとにプロットしたのが図1。
こうしてみると、性別年代問わず、おしなべて「1人で食事すること」は「減らしたいけど増えそう」な、自らの希望と現実の予想にギャップのある事象(=ソリューションを提供すべき事象)だということが分かります。
また、その中でもとりわけ特徴的なのが10代女性。「1人で食事すること」が増えているだろうという予測が際立っています。
10代に焦点を当てて近未来マインド調査をひもといた連載第2回では、10代女性は、時間や手間をかけて、主体的に食と向き合いたい思いを強く持っているものの、それを実現するのは難しいと感じている10代は食に関して誰かと楽しみたい思いが強いことがうかがえるとお伝えしました。
その気持ちこそが、今回見た「10代女性は、1人で食事することが増えるだろうと強く予測している」ことの裏側にあるのでは、と考えています。
孤食にはタイプがある – 恥じらい型?SOS型?
さて、ここまでで、孤食は総じて「減らしたいけど増えそう」な事象として捉えられていることが分かりました。
でも、ここでちょっと疑問が湧いてきます。本当に皆、1人で食べるときに同じような気持ちを抱いているのでしょうか。孤食の裏にあるインサイトも、共通しているのでしょうか。
食ラボの調査結果※から、この点に関して興味深い結果が得られました。次の四つのグラフは「1人で食べるときの意識」について当てはまるものを回答してもらった結果です。
※食生活ラボ調査vol.5。インターネット調査(15~79歳、1200人、2016年9月、調査機関/ビデオリサーチ)
この結果からは、実は性別や年代によって、孤食の際の意識が少しずつ異なっていることが分かります。
いくつか特徴的な結果をピックアップします。
◆「1人の食事は、できれば他人に見られたくない」は若い世代、特に10代女性が突出。
◆「1人だと食べるのが面倒になる」は女性、特に30代女性が突出。
◆「自宅や自分の席であれば1人で食事するのも平気」は女性、特に40・60代が高い。
◆「1人で食べることは寂しい」は男性70代で突出(女性70代はとても低い)。
つまり、一言で「孤食」といっても「孤食の気持ち」には違いがある。例えるならば
◆10代女性は、恥ずかしい気持ちが強い「恥じらい型孤食」
◆30代女性は、日々の食事づくりの負担や面倒から解放されたい「SOS型孤食」
◆40・60代女性は、孤食慣れっこの「達観型孤食」
◆70代男性は、寂しさが先行する「ロンリー型孤食」
ということになりそうです。
調査結果では集計の便宜上、デモグラ特性で区切っていますが、必ずしもこの性年代に限った類型ではないようにも思えます。
皆さんはどのタイプでしょうか。
私は…SOS型です(苦笑)。毎日ご飯つくるのって、結構大変ですよね…。
孤食マーケティングの醍醐味
こうして孤食をひとくくりにせず、あえて類型化してみると、その先、どうやってその生活者の気持ちを動かしていけばよいかが少し見えてきます。
たとえば、「1人なら食べるのはもはや面倒」だと言う「SOS型孤食」。
この人たちには「面倒の逆転」的な発想で、「1人のときこそ究極の手間なしぜいたくを楽しもう!」という提案ができるかもしれない。アマゾンダッシュのように、ボタン一つでお気に入りのレストランからいい匂いのするランチがとどいたら、「食べるのが面倒だ」なんて言っていられませんものね。
また、「ロンリー型孤食」の人には「寂しさの解消」提案を。
共通話題を持つ他人との食空間をつくるのがよいかもしれません。例えば、釣り、将棋などテーマ特化型のシニア男性用相席居酒屋があれば、1人で寂しく夕食を取ることも減るでしょう。
このように考えていくと、一口に孤食といえども、その裏に抱えている気持ちによって、アプローチの仕方が異なってくることが分かります。
単身世帯が増えていく今後の日本。孤食の機会も増えていきます。そんな中、より大事になっていくであろう孤食マーケティング。その醍醐味は、それぞれの孤食インサイトをひもとき、それぞれの孤食に寄り添った提案ができることにあるのではないでしょうか。
さて、次回のテーマは「食とSNS」。
今の時代、もはや切り離せない二つの事象について考えてみます。どうぞお楽しみに!