電通Bチームについて、ようやくちゃんと説明します。
2018/02/06
各分野で一流の“B面”を持った電通社員たちによる「オルタナティブアプローチ」チーム、それが電通Bチームです。正攻法の“A面”では突破できない企業や組織のさまざまな課題や閉塞感を、B面ならではの今までと違うアプローチで解決します。謎のチームの全貌を、リーダーの倉成氏が明らかにします。
BチームのBは何のB?
あなたの会社やプロジェクトは、絶好調ですか?もしも閉塞感があるとしたら、今までと違う方法を検討するためにどんな方法を取っていますか?
「電通総研Bチーム」という怪しい組織を3年半前に立ち上げた倉成と申します。昨年10月に組織改編とともに改名して「電通Bチーム」となり、さらに謎度が増したところです。
このBチーム。なぜBなのか?諸説あるのですが、簡単に説明すると「AじゃなくてB」のBです。プランAに対するプランB。正攻法に対するアプローチB。つまり「オルタナティブ」を意味しています。今までと違う方法を日々実験、提供しているチームです。
それだけ理解していただいて、もう先にURLも書いときますので、チラッと見ていただけたら幸いです。
この連載では、新しいものが生めない!とお悩みの方に効く、僕らがいろんな思いを込めて開発してきた30以上のプロセスを抜粋して紹介します。
第1回は、Bチームの始まりと、「Bチームをつくる方法」についてです。
始まりは、ソファに集まった8人のお茶会。
2014年7月。電通本社ビル29階の窓際のソファに、8人の社員が集まりました。8人の共通点は、会社の仕事である広告業以外に、個人的に何らかの側面を持っていること。本業をA面とするならば、B面を持つ社員たちです。
世界的DJ
小説家
スキーヤー
元編集者
プロダクトデザイナー
平和活動家
社会学者
6カ国で教育を受けてきた海外出身者
集まった目的は、お茶を飲むため(これ重要です)と、それぞれが私的なB面活動から得ている情報を共有してみるため。もともと知っている情報を、雑談しながら他分野同士でつないで、コンセプトをつくる。いわば「リサーチゼロでシンクタンクをつくる」という実験でした。
これがBチームの始まりですが、誕生の背景には、「広告制作ではなく、イノベーションを生む手伝いをしてほしい」というクライアントニーズの増加がありました。当時、電通総研はメディアやマーケティングリサーチを中心に活動をしており、そこに加えてイノベーションに関わるシンクタンクチームをつくろう、ということだったのです。
この時点で「電通総研Bチームを結成しました!」と会社からリリースを出してもよかったのですが、広告業界は何かとラボをつくってリリースを配信しがち。そういうのはよそうと、こっそり始めました。オフィシャルだけど、地下組織。その方が、ワクワクしますよね?
芽のある情報を集めるポテンシャル採集
最初のお茶会で異ジャンルの情報交換会議が良い形で進むことを確認できたところで、電通社員で「B面」を持つスペシャリストにもっと声をかけ始め、徐々にメンバーを増やしていきました。
ファッション、AI、農業、建築、食、健康、メーク、Hack、電子工作、金融、伝統工芸、写真、ダイバーシティー、ゲーム、教育、未来予測、漫画、メディアアート、エクストリームスポーツ、釣り、フェス、ソーシャル、クラフトビール、ハンドメード、落語、ストリートカルチャー、分子調理などなどなど。1ジャンルにつき1人ずつ。現在は40人を超えました。
このメンバーで毎月、情報を集め、共有します。「これはみんなをインスパイアするだろう」「違うジャンルに横展開できるんじゃないか」、そんなポテンシャルを秘めた情報を集めるので、この定例会のことを「ポテンシャル採集」と呼んでいます。これを3年半続け、2018年1月時点で50以上のジャンルから2000もの情報アーカイブに達しました。
いくつかこぼれ話をはさむと、
- チームの方針は「CURIOSITY FIRST」。好奇心第一。情報収集には、好奇心のアンテナが一番大事です。
- 重視している情報は、メンバー自ら体験した「1次情報」と、「検索できない情報」(そうじゃなければ、他人をインスパイアできませんから)。
- メンバーの肩書は「特任リサーチャー」。例えば僕はいつもコンセプトを集めているので、「コンセプト担当特任リサーチャー」です。
なぜ、Bチームは情報を集めるのか?それは、情報が、イノベーションにおいて欠かせない要素だからです。ジェームズ・W・ヤングが「アイデアは既存要素の新しい組み合わせ」と言い、あるいはシュンペーターが「イノベーションは異なる情報の新結合」と言った通りで、僕がこれ以上書くまでもないですが、念のため。
新しい違う何かを生むために、Bチームでは、他とは違う情報を、他と違う方法で集めているわけです。楽しく、個性を重視した、知的好奇心を常々刺激される、かつメチャクチャ速い、オルタナティブな情報収集方法です。
コンセプトのレシピは「情報」と「雑談」。
情報を集めたら、次はそれをコンセプトへと料理する時間です。
こう生きたい、こうあったらいいなという、みんなの価値観に気付く。またはつくる。Bチームが提供したいのは、そういう「新しい価値観へのシフト」のサポートです。そのためには、集めた情報をコンセプト化する必要があります。
さて、そのコンセプトのつくり方ですが、面白いメンバーと、みんなが集めてきた異ジャンル情報を用意したら、あとは雑談と少々のファシリテート。それで、いろんなコンセプトが生まれてきます。コンセプトじゃなくても、新しいアイデア、新しい方法論、あったらいいなと思うプロジェクトなど、雑談から生まれるものをどんどんストックします。
「アナろぐ」
「下克上タグ」
「BUZZサーフィン理論」
「セレンディピティーレガシー」
「すきまオーシャン」etc.
Bチームがつくってきたコンセプトは、ForbesのBチームの連載で垣間見ることができます。
https://forbesjapan.com/author/detail/287/
ただし、何でもOKかというとそうでもなく、コンセプトづくりの際に絶対にやりたくないこともあります。一つは、人間を属性でくくって「○○世代」と名前を付けるみたいなこと。広告業界では定石かもしれませんが…それぞれ違う個人を一言でくくるなんてことは、われわれはやりたくないわけです。
もう一つは、海外、特にアメリカ直輸入の考え方や手法のうのみ。「日本版○○」ばかりでは海外と同じか、それ以下のものしか生まれません。「イノベーション」とかいっているなら、オリジナルのコンセプトをつくり、独自の進化を目指したいじゃないですか。
そんな、いろんなアンチからBチームはできています。
つくったコンセプトでBチームが行う二つのこと。
コンセプトをつくったら、次は実践です。Bチームでは二つのことをやっています。
一つは、他社のプロジェクトのお手伝いです。必ずしも企業だけでなく、国や自治体、スタートアップ、NPOも含まれます。
「イノベーションを生みたいけど行き詰まった」「変化を生みたいけど変えられない」という相談を頂いたら、ストックしたコンセプトの中から特に「新しいアイデアを生んで実行するためのプロセス」を選び、提供します。いわばプロジェクトの「処方箋」に近いかもしれません。
Bチームでは、そうした新しいプロセスを20以上開発してきました。例えば以下のようなものです。
「10ジャンル同時ブレスト」
「Prototype for One」
「ショートショート発想法」
「マジックワードカード」
「4次元オープンイノベーション」
「Kaizen the Mottainai」
「プロセスの模様替え」
「ダジャレノベーション」
「情報の五感化」
「インクルーシブマーケティング」
「B面を使ったリサーチ」
「隣接領域リサーチ」
「シンパシーネットワーキング」
「Bチーム(をつくる)」
もう一つは、誰にも頼まれていないけれど始めてしまう、Bチームオリジナルプロジェクトの実行。例えば、昨年ADCグランプリを受賞した、町工場を音楽と映像で支援する「INDUSTRIAL JP」(http://idstr.jp )は、Bチームが発端です。※電通報記事リンク
また、教育を面白くしたいという思いから生まれた「アクティブラーニング こんなのどうだろう研究所」(http://www.konnano-dodaro.jp )も、Bチームからのスピンアウト。※電通報記事リンク
今も、たくさん進行中&仕込み中。世の中に出すのが楽しみです。
Bチームをつくろう! 師匠は、宮本武蔵とビートルズ。
最後に、Bチームの「プロセス」の中からさっそく一つをご紹介したいと思います。それは、あなたの組織にも「Bチーム」をつくりませんか?という提案です。
われわれは、広告という「マスの情報が集まって、大きく仕掛ける」業界にいます(A面)。しかし、変化は常に小さいところからしか起こりません(B面)。そのA ×B で何か新しいことを起こそうというのが、社内的に見た電通Bチームの役割ですが、これをあなたの組織にも応用するのです。
何かを破壊してゼロから新たに何かをつくるのは難しくても、本流はそのまま残し、違うミッションを帯びた「もう一つのチーム」を小さく別に動かすなら可能なはず。Bチーム結成後に知ったのですが、このやり方は「二刀流の経営」というそうです。確かに宮本武蔵の二刀流は、大と小、二つの刀です。
別の例としては、ビートルズ。彼らはシングルを出す際、A面(あ、レコードの話です)ではヒットを狙い、B面では実験していたそうです(諸説あるようですが)。仕事でも表と裏で機能を分けて、裏では小さく実験してみるのはどうでしょう?
Bチームをつくるためのノウハウは、「How to make B team in your office」(あなたの会社にBチームをつくる方法)としてまとめてあります。Dentsu Aegis Networkに属する海外支社にはすでにこのハウツーをまとめたファイルを送っていて、すでにBチームが結成された支社もあります。ご興味がある方は、お問い合わせください。3分の1は、実はもうここに書いちゃいましたが。
次回からは、Bチームの生み出したプロセスの実例をいくつか紹介していきます。
たとえ、小さくとも、変化の芽を皆さんと一緒に生むのが、楽しみです。われわれの実験が、これからお会いするどなたかのお役に立ちますように。