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「広告」と「ファンづくり」。取り組んで気付いた三つのポイント

デジタルマーケティングのヒント №4

  • 郡司 晶子

2018/03/13

「広告」と「ファンづくり」。取り組んで気付いた三つのポイント

マスからデジタルへ。ダイレクトマーケティング系の商材だけでなく、これまでマスメディアを中心にキャンペーンをやってきた消費財も、デジタル広告やソーシャルメディアを起点としたキャンペーンなどにチャレンジしていく動きが加速しています。

一方で、新しいチャレンジとして5〜6年前から一部で始まっていたブランドのファンづくり。ソーシャルメディアやオウンドコミュニティーの場を通じたファンの育成が、企業のマーケティングにとっていよいよ重要になりつつあります。

デジタルを用いた「広告」と「ファンづくり」を、マーケティング戦略全体の中で上手に使い分けていくことは、今後大きな課題となっていくことでしょう。

しかし、両者を実際に統合的にプランニング、実施していくに当たっては、意外と気付かない違いがあります。実際に作業していく前の段階で、少し意識しておいた方がよさそうな三つのポイントをまとめてみました。

1.コミュニケーションの仕方が大きく違う、ということ

まずぶつかるのは「似て非なるものの壁」ではないでしょうか。同じ「コミュニケーション」なのだから似たようなもの、と無意識に思い込んで、広告の感覚でファンづくりの施策を企画してしまい、思うような成果が出ないといったケースです。

広告で培ってきたプランニングの方法と、ファンをつくるためのコミュニケーションは、全く違うものだと両方を経験してみて思います。

一番の違いは、デジタルを活用したファンづくりにおいては常に「相手がどのように反応するか」を気に掛けながら施策をつくっていかなければならないことです。投稿やコメントの書き込みを通じてすぐに反応が返ってきますし、ファンをつくっていくためにはこれらの反応に丁寧に応えていく必要があります。

もちろん「このメッセージ、この表現において損害を被る人、傷つく人がいないかどうか」を気に掛けるのは広告も同じなのですが、ファンづくりの施策においてはさらに「記事のタイトルだけしか読まない人たち(も実際増えているわけですが)が誤解して、問い合わせが来たりしないか」といったことまでを含みます。こうしたことをいつも意識するためには、読者がどんな人なのかをより具体的に把握していなくてはなりません。

また、情報発信の「振る舞い方」が相手にどう見えるか、という点にも細心の注意が必要です。広告を使っての情報発信をしていると、発信側は「自分たちの伝えたい情報を伝えること」に終始しがちで、相手が本当にその情報を欲しいのかどうか(タイミング的に、内容的に)の吟味がしばしば甘くなります。

相手を一人の人間として見ずに「マーケティング上の生活者の一人」として捉えていると、相手に対する振る舞い方も少し雑になってしまいます。自分たちの発信する情報やコンテンツによってファンになってもらう、つまり「個人」の気持ちや意識を変え、そのうえでブランドに好意的な行動をしてもらいたいのであれば、リアル社会での人間関係と同じように相手の存在を認め、リスペクトしながら対応していく必要があるのです。

このあたりの勘所は、これまでオウンドメディアやソーシャルメディアを活用したブランドのファンづくりを経験してきた方々は、知らず知らずのうちに蓄積されていることと思います。

2.KPIの捉え方も違う、ということ

目指すゴールが違えば、成果を測るためのロジックも当然変わっていきます。

広告ではコンバージョンの考え方がファネル型で、認知から検討、購買行動につなげていくジャーニーを想定することが大半です。一方、ブランドのファンづくりにおいては、「ブランドとの接触頻度」や、「ブランドへの自発的な関わり方」などが課題になってくるケースがしばしばあります。

もっとも重要なのはブランドに対するロイヤルティーの度合いですが、それを「購買行動」などの定量的な行動データだけから測定するのではなく、ブランドに対する意識を定期的にチェックし、一人一人がそのブランドに愛着を持つ、関与したいと思うといった本当の意味でのロイヤルティーを継続的に把握していくやり方が始まっています。

「商品情報への遷移」「ブランド好意度の○%向上」「売り上げへの貢献」など、何らかのゴールがある点はファンづくりも広告と同じです。しかし、ファネルの上流から下流へと定量的に顧客を絞り込んでいく広告と違い、ファンづくりの場合はブランドが一人一人に対して常に人として向き合っていく必要があります。メールの文言ひとつ、サイトでの告知の文章ひとつ、あらゆる表現に細心の注意を払っていくのは、とても地味で手間のかかる仕事です。

しかも、ロイヤルティーの高い顧客といえども、長い人生の中では常に特定のブランドのことを考えているわけではなく、忙しい時期もあれば、ブランドを気に掛けなくなる時期も出てきます。それでもそんな顧客の状況まで理解しようと努め、彼らの気持ちに真摯に応え続けることは、結果的に強固な顧客基盤の構築につながります。

3.「広告の人」「ファンづくりの人」。それぞれの経験則から生まれる溝もある、ということ

広告畑で経験を積んできた人たちにブランドのファンづくりの話をすると、しばしば、「それって売り上げにどうつながるんですか?」「これからはファンづくりが大事だって本で言われているだけで、成功事例とかありませんよね?」といった反応が戻ってきます。

ファンづくりがターゲットとする人数は、広告の到達量に比べたら規模は小さくなりますし、施策の実施についても広告キャンペーンのように期間限定ではなく、365日の対応が必要になり、手間もかかります。そのため広告と比較して捉えてしまうと、とても効率が悪いように思えるものです。

一方でファンづくりに本格的に取り組み始めると、逆に昔ながらの広告施策に対して懐疑的になり、距離を置くようになるケースがあります。量を求めているだけではいつまでたっても自分たちの顧客を理解することはできない。それではマーケティングは進化しないと考える、それもまた重要な視点です。

この、自然と生まれてしまう両者の溝を大きくしないためにはどうしたらよいのか。短期的な数字目標を追いかけるのか、中長期的な関係構築に力を注ぐのか。

おそらくその答えはどちらでもなく、「事業ごとの課題に応じて、マーケティング戦略全体の中での両者の使い分けを明確にしていく」ということになるでしょう。

広告だけでは情報発信はできても、コネクティビティーはなかなかつくれません。逆にファンづくりは既存顧客とのコネクティビティーを育むことはできても、ブランドを知らない人にまで届ける力は弱くなります。

できるだけ広告チームとファンづくりチームが常に会話できる環境をつくり、互いの日常作業の中からそれぞれが目指すこととその成果を報告し合う。何が違うのかを肌身で理解し合うための地道な活動をいとわないところに、大きな実りがあるのだと思います。

マーケティングを進化させていくためには、デジタル化の中で気付かないうちに生じている「違い」を常に意識することも、大事なカギのひとつだと思います。