デジタルマーケティングのヒントNo.3
PDCAって、ちゃんと回せているのだろうか
2017/10/04
PDCAというキーワードがビジネスシーンでごく普通に使われる時代になりました。でもこれ、期間限定・単発というキャンペーン型の仕事をしてきた人間には、案外苦手な作業かもしれません。概念としては分かっていても、結局は「PDC」で終わってしまう。つまり次のファインディングスにつながらず、実行した施策の効果を測るだけになってしまう。あるいは「PDC」をうまく「A」につなげることができているのやらできていないのやら、なんとなくよく分からないまま進んでしまう、といったことが起きがちです。
一方、PDCAを回し続けるプロたちもいます。主にはデジタルの領域、特にネット広告の運用などでゴリゴリに(といった言葉がよく使われるのですが)成果を追い掛けてきた経験のある人たちです。ここでは、メディアもメッセージも高速でPDCAを回し、どんどん最適化していく。つまり確率の高い方に発信を集約していくことにより、数字的な成果は上がっていきます。
これは非常に重要な方法論なのですが、マーケティング活動全般という視点から見ると、目指す「成果」が必ずしも「最適化による数字改善の結果」に限らないという難しさがあります。
最適化のためのPDCA、探索のためのPDCA
例えば、多くの人に認知されること、多くの人がコンバージョンしてくれること、できるだけ安いコストで顧客を獲得すること。そういったゴールであれば、目標も分かりやすく、計測もシンプルです。この種の最適化のためのPDCAはサイクルが速いので、自社なりの基準値がある程度経験的にたまりやすく、また出てきた数字を見る視点も明確なため、現場で作業している当事者もマネージャークラスも比較的容易に評価を共有できます。
けれど、マーケティング活動において獲得したい成果は、必ずしもこのような分かりやすいものばかりとは限りません。
例えば、若年層の顧客を獲得すること、使用ブランド数と使用年数を増やしてもらうこと、ブランドのロイヤルティーが上がること、ブランドへの接触頻度を上げる方法を探ること、商品購入につながる情報の動線を見極めること、など目指したい成果はさまざまです。この種のPDCAは、時に「最適化」というより「探索」になるケースがあります。絶対的な正解がないので、いろいろ試しながら自社なりの基準を見いだしていくという作業になるためです。
そのためには、インタビュー調査が必要だったり、実施した施策との関係を知ることが必要だったり、時系列の変化を知る必要があったりします。その成果は、さまざまなデータや情報の組み合わせによって結論が得られるものであり、かつ継続的な変化のトラッキングも重要になるため、発見を得るにはある程度のまとまった時間が必要になります。
そのような探索型のPDCAを、「数字を改善し、最適化していく」というスタンスで取り組もうとすると、なかなかうまくいかないケースが出てきます。
そもそも成果ってなんだろう?
さらにPDCAの成果は、「こういうことが分かった」というだけでなく「分かったことを基にして次のアクションを考案する」というところまでたどり着かなければならない、という側面を抱えています。次のアクションを考えるために必要なのは、チェックの段階で課題を発見することです。最適化のためのPDCAではこれが発見しやすいのですが、探索のためのPDCAの場合にはなかなか難しく、探索して分かった結果を次にどう生かしていくか、を改めて議論する必要が出てきます。
そもそも「成果」は、施策やアイデアの良しあしを測るためだけのものではありません。プロジェクト全体や事業全体の視点から、目指すべきゴールに対して組織として何がどこまでできるようになったのか、を測るためのものです。
と同時に、ある時点で「成果が出た/出なかった」と判断するだけでは不十分で、継続して前進させていくことが何よりも重要となります。
成果を出すポイントは、先にゴールと指標を決めてから、施策を考えること
少し話はずれますが、時折、PDCA以前に成果が出ているのかどうかすらも分からない、という声を聞くことがあります。
忘れてはならないのは、「成果」には誰が見ても良い悪いが判断できるような絶対的な指標がない、ということです。それはつまり、プロジェクトを始める前に「何をもって成果が出た、と判断するか」という「成果の定義」(=ゴール)を自分たちで決めておかなければならない、ということを意味します。
競合の数字を抜く、という定義もあるでしょう。新規顧客●万人とか毎日●万PVなど目標数値を決めていくやり方もあるでしょう。数字では設定しにくい「成果」であったとしてもデジタル上で計測しやすいよう、数字に変換しておくことは重要なポイントです。
この定義は、コンテンツなどコミュニケーション施策を検討するときの選択基準にもつながります。「成果の定義」がないままに始めると、施策の判断はどうしても無意識のうちに「話題になりそうなもの」に傾きがちです。見る人の気持ちを捉えるものであるかどうかは、施策において重要な判断基準ですが、デジタルマーケティングの場合には必要条件しか満たしません。「成果の定義」に基づいて、施策に触れた人に求める行動を決め、それを計測する指標を決める必要があります。
私たちは施策のアイデアを優先するあまり、この「成果の定義」をどうしても後回しにしがちです。ですが、最初にこれを設計し、さらにその定義をきちんとチーム・決裁者と握ること。それによって、自分たちのプロジェクトが成果を出しているのかどうか、が明確になり、次に意味のある施策を行うことができていきます。と同時にチームにも達成感が生まれ、組織上層部の納得感も得られやすくなり、結果的にそのチームのデジタルマーケティング全体が進化することにつながっていくのです。