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「日本の広告費」特別対談No.3

「2017年 日本の広告費」特別対談 デジタル化が進むほど、アナログ的な体験価値が高まる

2018/03/14

2017年 日本の広告費」は、6年連続で前年実績を上回りました。インターネット広告費が4年連続の2桁成長で全体をけん引しています。

文化経済学やコンテンツ産業論が専門で総務省情報通信審議会の専門委員も務める同志社大学の河島伸子教授に、電通メディアイノベーションラボの奥律哉氏が、各メディアの注目されるポイントや若者のメディア接触事情について聞きました。

同志社大教授 河島伸子氏(右)と電通メディアイノベーションラボ 奥律哉氏
同志社大学教授 河島伸子氏(右)と電通メディアイノベーションラボ 奥律哉氏

インターネットが広告のメインストリームへ

奥:2017年の日本の総広告費は前年比101.6%の6兆3907億円で、6年連続でプラス成長でした。中でもインターネット広告費が4年連続の2桁成長で初めて1兆5000億円を超え、引き続き広告費全体の伸びをリードしました。この結果にどのような感想をお持ちになりますか。

河島:14年にインターネット広告費が1兆円を超えたことが話題になりましたが、ある意味で、その時よりも衝撃的な結果ではないかという感じがしています。英米ではすでにインターネット広告費がテレビ広告費を上回っており、世界の情勢としても、18年にはネット広告費がテレビを上回るといわれています。実態として、テレビ広告費の伸びはあまり期待できないけれども、インターネット広告費はまだまだ成長の余地がある。そうした現実がこの数字に表れているのではないでしょうか。

奥:日本の名目国内総生産に対する総広告費の比率は、だいたい1%強で推移しています。簡単にいうと、経済が成長すれば広告費のグロスも増えるという構造なのですが、ここ15年、日本の国内総生産はほとんど伸びていません。グロスの広告費が増えない中で、インターネット広告費は伸びていますので、当然テレビはほぼ横ばいか、行ったり来たりという構造になっているわけです。

ただ、テレビ広告の需要は引き続きあります。日本と比較すれば英米の経済は順調ですから、インターネットも伸びているけれども、テレビも伸びている。先進国3カ国の間でも、広告費全体をマクロで見た感じがかなり違う印象があります。広告費の動向は国力そのものに関わっています。日本の経済成長の鍵はイノベーションにあるといわれますが、経済や社会のシステムが新しいかたちに変わっていけるのか、注目されるところだと思います。

奥氏

テレビ広告よりSNS広告が効果的!?

奥:河島先生は学生と接触する機会も多いと思いますが、若者たちとメディアの関係についてはどうご覧になっていますか。

河島:大学生に「最近ドラマ見てる?」と尋ねても、まるっきり反応がありません。文化経済のゼミですから、多少なりともテレビやコンテンツに関心が高いはずなのですが、見ていない。そのくせ、Twitterで流れてきたとか、YouTubeで見たとか、お笑いタレントにはとっても詳しいですね。テレビのことが嫌いなわけじゃないんですが、積極的な意思表明がないですね。

おそらく、自分の好きな時に、好きなように、手元で見られないから、彼らにとってテレビは不便なメディアなのでしょう。スマホなら、友達の投稿した写真もツイートも、YouTubeの動画も、いつでもどこでも集中して見られますから。

奥:今の大学生というと、小学校4年生くらいの時にiPhoneが登場していますから、まさにスマホネイティブな人たちです。いわゆるマスメディア的な情報よりも、SNSで共有される情報を浴びる量が多いのでしょうね。広告については、学生たちはどのように接しているのでしょうか。

河島:彼らを見ていると、テレビ広告よりもソーシャルメディア上の広告の方がより多くの人に見られていると思っている節があります。拡散するから、ソーシャルメディアの方が波及・訴求する効果が大きいだろうというのですね。

伝統的には「マスに訴求するのがテレビだ」と思われていますが、若い人たちは逆に感じているようです。彼らは自分が知りたい情報はネットにある、マスメディアでは報道されない掘り下げた情報はソーシャルメディアにあると思っている。ネットから流れてきた広告をクリックすれば、商品やサービスについてより詳しい情報がすぐに得られる。一方、テレビは深く知るメディアではないという位置付けになってきているのではないでしょうか。

河島氏

テレビに期待されるネットへの挑戦

河島:十何年前だったでしょうか、アメリカ人がテレビに対して何を望むかを尋ねた調査で「テレビでインターネットをしたい」という回答が1位だったんです。当時はその意味がよく分からず、検索した結果を大画面に出したいのかなと思ったのですが、要はYouTubeなどのインターネット上の動画を、テレビ番組を見るときと同じように見たいということなんですね。それが日本でも現実になっている。

奥:電通の調査では、日本におけるテレビスクリーンの結線率は29%に達しています。テレビをネット回線につなぎ、テレビの大画面につないでYouTube、NetflixやDAZNなどを見ている人が増えているんですね。

私は「一周まわってテレビ」といっていますが、パソコンからガラケー、スマホ、タブレットと進んできて、エンターテインメントコンテンツをネット上で見るというとき、家にいるのであればやはり大きな画面で見たいじゃないですか。調べてみると、YouTubeの音楽プロモーションビデオを見ている人が多い。つまり、かつてのステレオの代わりになっている。最近ではリビングルームにステレオがない家庭が増えており、家の中で一番良い音がするのがテレビという場合も多い。テレビで音楽をかけながら、いろいろなことをやる。テレビが二重、三重の「ながら行動」の入り口になっていたりするわけです。

もちろん、NetflixやHuluを見る人もたくさんいて、週末のビンジウオッチング(=一気見)はすごい人気です。そうした視聴形態、テレビの使われ方を考えると、放送もネット側にもっとコンテンツを出していくとか、ラジコ的な考え方も必要ではないかと思いますね。

河島:日本のテレビ局はエンターテインメントコンテンツをつくる能力が高いですから、それをベースに視聴者を集め、属性などの情報を登録してもらってエンターテインメントやレジャーに関する行動履歴などを確実に押さえるようになる。そのデータはECにも生かせるので、極端なことをいえば、テレビ局がAmazon化したっていいのではないでしょうか。

奥:今の勢いでいうと、EC展開によって顧客の購買行動を熟知しているAmazonがテレビ化する方が早いかもしれません。実際、Amazonプライムの名の下で動画サービスを始めていますよね。

例えばラジコでいうシェアラジオとか、AbemaTVなどではSNSで好きな番組をシェアすることができます。ハッシュタグで拡散すると、受け取った人がそのハッシュタグを踏めばその番組が見られるというネットワーク効果はものすごいボリュームになります。そういう仕組みがつくれれば、テレビもまだまだいける。コンテンツをネットで視聴してもらうための手立てはまだまだあると思います。

リアルとデジタルを自由に行き来する

河島:今回、「展示・映像ほか」の広告費が増えているのは面白いですね。プロジェクションマッピングとか、デジタルテクノロジーを生かした催し物の集客力はすごい。なぜ、人々はそういうものに心を奪われるのか。デジタル化が進むほど、その現場に出掛けるとか、多くの人たちとリアルに共有するとか、アナログ的な体験価値が高まっているような気がします。

若い人は、ネット上で手に入れられるコンテンツにはお金を払わない。でも、アニメソングのコンサートに彼らがどれだけお金を使っていることか。チケット代、遠征と称する交通費と宿泊費、関連グッズを山ほど買って、友達に惜しみなく分け与える。驚くほどお金を使っています(笑)。

奥:プロジェクションマッピングはデジタルの表現ですが、人間の五感を刺激するリアルな体験を提供します。「リアルなネタ」「インスタ映え」「共有して盛り上がる」といった、アナログとデジタルを組み合わせたコミュニケーションのループがあるように思いますね。

河島:ライブコンサート市場がCDなどの音楽ソフト市場を売り上げで上回ったのが2014年だったと思いますが、現場での体験とか唯一の価値が相対的に上がっている。これは非常に面白い現象ですね。

奥:若い人たちは「今しか」「ここだけ」に引かれる。一方メディアには「いつでも」「どこでも」を求める。ユーザーのニーズはわがままともとれます(笑)。せめて、情報にはどこかで必ずコストは掛かっているということは知ってほしいですね。

河島:1950年から2000年までの50年間とこの10年間を比べると、この10年間の変化の方がはるかに大きいといわれます。それは、メディアにも広告の手法にも、マーケティングにも当てはまりますよね。

奥:スマホだけを見てもこの10年で大きく変化しています。今後生まれてくる子どもたちは5G(第5世代移動通信システム)の世界観ですから、まったく違うスピード感で情報接触するようになるでしょうね。

河島:それでも、いまだに試験の答案は手書きですから、学生は手書きが上手です(笑)。鉛筆と消しゴムの世界ですから、そこは超アナログなのです。教室でも、パソコンでノートをとる人はいませんが、黒板の画像はスマホで撮っています。でも、それは大人も同じですね。プレゼンを見ていると、「カシャカシャ」ってあちこちから音がします。

若者たちはトリプルスクリーンで情報を適当に消費しているといわれますが、それは40代以上の大人でも心当たりがあるはずで、トリプルまではいかなくても、二つくらいは絶対あると思います。ニュースにしろ、ドキュメンタリーもドラマもエンターテインメントも、その程度にしか見ない人が増えている。そういう意味では、大人も若い人たちも実はあまり変わらないのですね。

奥:大人はアナログ、若者はデジタルと決めつけるのではなく、TPOやモチベーションに合わせて、アナログとデジタルを自由に行き来できるデバイスやメディアが求められているのかもしれませんね。本日はありがとうございました。

河島氏と奥氏