スマホ一強はどこまで続くのか? IoTが切り開く新しい情報空間
2018/03/30
『情報メディア白書2018』発刊を記念した連載企画、今回は第3回です。
iPhone発売から10年、昨年2017年は“インスタ映え”などスマホ特有の情報行動(コミュニケーション、メディア利用など情報のやり取りに関わる行為のこと)に注目が集まりました。企業にとってスマホ抜きのキャンペーン設計など今や考えられない状況です。
スマホ全盛の現在ですが、変化の兆しも認められます。スマホに必ずしも依存しない人々が新しい情報行動の担い手として現れてきました。
『情報メディア白書2018』巻頭特集では「スマホ一強はどこまで続くのか」と題し、人々の新しい情報行動とIoTの可能性について論じています。本稿では2回にわたり、白書の背景となった情報行動によるクラスター分析の結果を紹介しながら、ポストスマホとも言うべき人々の新しい情報行動について明らかにしていきます。
情報メディアが規定する人々の情報行動
広告宣伝の現場ではターゲットのことをしばしば“オーディエンス”と呼び、われわれエージェンシーは彼らのインサイトを深耕し、メッセージ策定に余念がない。オーディエンスという言葉を使う時、われわれは無意識に自分たちの発信したメッセージを視聴する姿勢にある人々、あるいは視聴する環境に置かれた人々の存在を想定している。
視聴という行為は、ラジオ・テレビ放送といったマスメディアによって生じた情報行動の枠組みであろう。しかし1990年代に端を発するインターネットの発展は、個人の意思で情報を取りに行くという行為を日常化させる。そして近年のスマホの発展は、ソーシャルメディアなど新しい情報行動を生み出し、広告宣伝の構造を大きく変化させたのは周知の通りだ。自分が発信した情報と他人が発信した情報の境目が曖昧なソーシャルの世界において、テレビと同じ意味で、誰かが発信したメッセージをスマホ利用者が“視聴している”と果たして言えるのだろうか?
このように新しい情報メディア環境は新しい情報行動を生み出し、人々の情報行動の枠組みそのものを変えてしまう。そして情報行動の枠組みの変化は、顧客と企業のコミュニケーションの在り方にも影響を与えていく。人々を“オーディエンス”と呼んでしまう前に、広告宣伝に携わる者はこのことにもっと自覚的であるべきだろう。
情報メディアが生み出す新しい情報行動タイプ
では、現代の情報メディアはどのような情報行動を人々にもたらしているのだろうか。図1は電通メディアイノベーションラボのオリジナル調査から、人々の情報行動の好みを四つのタイプに分類したものである。詳しい説明は省くが、調査項目として6カテゴリー54の情報行動項目を設定(※1)、状況によってどの情報行動を選択するかを質問した。IoTのマーケティングへの影響を考察するために、情報行動の項目には、既存の情報メディアだけではなく、将来のIoT環境を想定した情報行動も含めている。回答データをもとに因子分析で得られた四つの因子を情報行動のタイプ(情報行動因子)として捉える。
※1 情報行動の項目を設定した六つのカテゴリーは以下の通り。「情報入手にあたっての個人の考え方やポリシー」「情報を受け取るタイミングや手法」「情報源の種類」「情報の精度」「情報の入手と利用の仕方」「広告宣伝のタイプ」。
「情報環境融合型」は、情報収集を誰かに委ね、結論の情報を届けてほしい、また受け取る情報の精度を高めるためにはパーソナルデータの開示もいとわない、などわれわれが想定したIoTでの情報行動の特徴を複数併せ持っている。またVR/ARといった没入型のUIにも親和的である。外部の情報源の存在が希薄で、情報を検討手段ではなく結果として捉える、情報源と私的空間が混ざり合った情報行動と言える。
「情報探索型」は、都度自分で情報を検索する、情報を自分で選び取る、気が付かなかった情報に出合うなど、自分が中心にあり、自分の判断で外部の情報源を探索していくことを好む情報行動タイプ。マス(テレビ)からインターネット(パソコン)の流れの中で生じた能動的な情報行動であり、自他の区別が曖昧な「情報環境融合型」とは対照的な性質を持っている。この他にも、情報行動因子には対話による納得感を重視する「対話型」と、判断基準を外部に求める「情報受動型」があるが、詳しくは『情報メディア白書2018』の25ページ図表1を参照していただきたい。ここでは次回紹介するクラスター分析で強く影響した二つの情報行動因子である「情報環境融合型」と「情報探索型」に着目する。
現代の情報メディアが生み出す、四つの“情報空間”とは?
二つの情報行動タイプ(因子)、「情報環境融合型」と「情報探索型」の因子負荷量で前述の54の情報行動項目をグループ分けし、四つの枠組みに要約したのが図2である。縦軸は「情報探索型」(因子)の負荷量の強弱で、情報取得に当たっての主体意識の高低と解釈できる。上側は情報を自分で“探索”する、下側は情報を“伝達”されることを好む情報行動が集まった。横軸は「情報環境融合型」(因子)の負荷量の強弱で、情報取得場所の内外の違いを意味する。左側には“外部”(パブリックな)空間にある情報源に、右側には“内部”(プライベートな)空間にある情報源を好む情報行動が集まった(具体的な情報行動は後述する)。
このように探索的か伝達的か、あるいは情報は外部か内部かで54の情報行動を4象限で整理することで、各象限を支配する大きな情報行動の枠組みが見えてくる。ユニークな情報行動の枠組みを有している各象限を、情報メディアが人々の情報行動に影響を与えている見えない枠組みという意味で、以後“情報空間”と呼ぶことにする。以下、詳しく見てみよう。
IoTが切り開くポストスマホの情報空間
ここでは、情報メディアの発展の順番に基づいて、各象限の主な情報行動を記載する。
■外部性伝達空間(第3象限)
主な情報行動
・広い情報源からの情報の網羅性を重視する
・広告を通じてさまざまな情報に接する
第3象限の情報行動は、自分の外にある情報源から情報を広く受け取りたいという意識が強い。“外部”の情報源から“伝達”される情報を「聴く」という情報行動の枠組みが見える。マスメディアの出現によって生み出された情報空間と位置付けられた、まさに“オーディエンス”の世界である。
■外部性探索空間(第2象限)
主な情報行動
・世の中のさまざまな情報源から自分の力で情報を見つけ出す
・自分の意思で情報を選択する
・世の中の情報をできるだけ広く集めた情報源を重視
・自分で気が付かなかった情報との偶然の出合いを重視
第2象限の情報行動は、「外部性伝達空間」よりも主体意識がとても強く、自らの意思で自分の外の世界を探索し情報を「見つける」という枠組みが強く出ている。マスメディアの成熟とインターネットの発展によってつくられた情報空間と言える。
■内部性伝達空間(第4象限)
主な情報行動
・自分の関心分野のおススメ情報がほしい
・指定した分野の情報が自動的に届く
第4象限には、自己文脈中心の意識が強く見られる。自分の“内部”に好みの情報が“伝達”されてくる、言わば「届く」という枠組みだ。行動履歴によるリコメンド、ソーシャルメディアのフィード、プッシュ式の情報取得などスマホとアプリの影響で生み出された情報空間と考えられるだろう。
■内部性探索空間(第1象限)
主な情報行動
・情報収集を誰かに委ねて、結論の情報を集めてもらいたい
・自分のためだけにカスタマイズされた情報を好む
・意見が違っても多様な情報を参照したい
第1象限の特徴としては、前述したIoT環境を想定した情報行動と、マス・インターネット的な情報行動の両方がプロットされている。能動的な「見つける」と受動的な「届く」の両方の特徴を兼ね備えた、言わば「出合う」情報行動の枠組みと言えるのではないか。上の三つの情報空間は既存の情報デバイスと関連付けられるのに対し、内部性探索空間はスマホを契機にしつつ、IoTによって切り開かれる全く新しい情報空間と言える。ポストスマホのマーケティング環境として着目したい。
四つの情報空間には、どんな人々が居るのか?
以上見てきたように四つの情報空間は、「聴く」「見つける」「届く」「出合う」というそれぞれ異なる四つの情報行動の枠組みを持っている。このことは、情報空間によってターゲットの性格や振る舞いが異なり、最適なコミュニケーションの手法もまた異なってくることを示唆する。特に「出合う」という枠組みを持つ「内部性探索空間」はIoTによって切り開かれた新しい情報空間で、この空間に居る人々の心理や行動を把握することが、ポストスマホのマーケティングを考えるための鍵となるだろう。果たして四つの情報空間にはどのような人々が存在するのか? クラスター分析で得られた生活者像を見ながら次回明らかにしていきたい。
【調査概要】
名称:生活者の情報行動とIoT環境受容性調査
目的:メディア情報環境変化に伴う生活者の情報行動の実態を把握する。情報行動の実態からIoTの受容性と、広告マーケティングへの影響を分析する。
時期:2017年10月
方法:ウェブ調査
対象者:全国18歳から49歳男女計2780サンプル
実施協力機関:ビデオリサーチ
本調査のお問い合わせ:infomedia@dentsu.co.jp