スマホ一強はどこまで続くのか? 七つの情報行動クラスターと、IoT時代の先駆け“イマーシブ”型情報探索者の登場
2018/04/27
情報メディア白書2018発刊を記念した連載企画、第4回は、前回に続き「スマホ一強はどこまで続くのか?」後編です。
前編では、「IoTが切り開く新しい情報空間」の副題で、現代の情報メディア環境は四つの情報空間と情報行動の枠組みで説明できること、枠組みによって顧客とのコミュニケーション手法が異なること、情報空間の一つである内部性探索空間はIoTによって生み出される新しい情報空間で、ポストスマホマーケティングの鍵を握ることを論じています。後編ではこれを受け、情報行動によるクラスター分析の結果から、各情報空間にはどのようなターゲットが存在しているのかを見ていき、スマホだけではない現代の情報行動多様化の実態を明らかにしていきたいと思います。
多様化する情報行動の好み 7タイプの情報行動クラスター
まずは、情報行動による人々のグループ分けを試みた。前編で説明した四つの情報行動タイプ(※1)に加えて、情報獲得手段の好みを元に抽出した三つの「デバイス因子」(※2)で人々をクラスタリングしたものだ。結果、図2にある7タイプのクラスターが得られた。情報行動の好みによるクラスターという意味で情報行動クラスターと呼ぶことにする。それぞれ特徴を見ていこう。
※1 情報源と私的空間が混ざり合った意識を持つ「情報環境融合型」、相手と自分の間の空間に情報が生じるという意識を持つ「対話型」、情報や権威は外部にあり、そこから受け取るものという意識を持つ「情報受動型」、自らの判断で外部の情報空間を探索していく意識を持つ「情報探索型」。詳しくは前編を参照。
※2 パソコンやSNSなど外部の独立した情報源から情報を得たい「既存デバイス型」、AIなどの機能に情報選択を委ねたい「IoTデバイス型」、身近なデバイスで情報を得たい「スマートデバイス型」。
■CL1「イマーシブ型情報探索者」
イマーシブ(immersive)とは「没入する」という意味で、IoT環境に最も親和的なタイプ。情報≒結果ととらえる環境融合的意識が強い一方、外に情報を求める探索的傾向もややある。IoTデバイス因子もとても高く、VRやARなど没入的UIに興味を持つ。プライベート(内部)/パブリック(外部)、意思/偶発のこだわりなく出合った情報は受け入れようという姿勢を持つ人々だ。IoTとの親和性を示す「情報環境融合型因子」「IoTデバイス因子」両方が高いクラスターはCL1だけである。今後のIoT普及を牽引していく“IoT受容ポテンシャル層”として着目したい。
CL2「スマートデバイスラバー」
その名の通り情報取得をスマホに依存し、SNSをよく使う人々だ。ソーシャル空間で他人の評価、ランキングなど自分の外に情報決定の基軸を置くことが特徴。また自分の関心のある分野に情報を限定するなど選択的な情報行動を示す。
■CL3「情報取得省力」
あらゆる情報行動に消極的で、自分の労力を省ける、楽をして得られる結果には興味を示す。情報行動をできるだけ省力化して結果が早く欲しい人々である。
■CL4「対話プロセス重視派」
スマートデバイス因子が強いが情報探索因子は平均的スコアを持っている。人の評価や、一方的に送られてくる情報に頼らないで、人とのやりとりや対話による情報取得を重視する人々といえる。他者視線にあまり左右されない大人なスマホユーザーとでもいえようか。
■CL5「堅実なネット情報探索者」
確固たる目的意識をもってネットを自在に使いこなす人々だ。世界中の情報に自由にアクセスできる場としてネットを評価している。リテラシーは高く、既存のメディア、パソコン、スマホかかわらず現代の情報メディア環境に高度に適応している。
■CL6「マス聴衆2.0」
情報環境融合因子が強い一方で、情報探索因子もややある。内と外に情報を求めるという意味ではCL1に近いクラスターだ。その一方でCL1とは異なり既存デバイスに親和的である。マス的に伝達される情報空間を基本としつつ、スマホにはなじめず、新しい情報行動を志向している。次代の“聴衆”といえるのではないか。
■CL7「良識ある聴衆」
CL5と因子得点の傾向は似ているが、若干情報探索因子が低い。スマートデバイスへの親和性が低く、既存デバイス親和性がとても高い。自己の価値観や判断で取捨選択するインターネット的情報行動に重きを置きつつもテレビのような従来のメディアにも親しむバランスのとれた“聴衆”といえよう。
二つのルートで“進化”してきた人々の情報行動
七つの情報行動クラスターの特徴を見たところで、本題に入る。各情報空間にはどのようなターゲットが潜んでいるのか? 図3は、各情報行動クラスターを前編で解説した四つの情報空間にプロットしたものである。
図3でまず分かることは情報行動の二つの大きな“進化”の流れの存在だ。一つ目は、マスメディアの情報空間である外部性伝達空間(聴く)からインターネットで開かれた外部性探索空間(見つける)への流れ(図3の青い矢印参照)。インターネットの拡大により自由意思によって情報を見つけ出すことに適応していった人々といえる。いわば「理性」のルートで、外部性探索空間にはCL5「堅実なネット情報探索者」とCL7「良識ある聴衆」、外部性探索空間と外部性伝達空間とのボーダー付近にCL4「対話プロセス重視派」がプロットされる。彼らは総じて、テレビ、パソコンといった既存デバイスに親和性を示す一方、IoTデバイスには非親和的傾向が見られる。マスとインターネットを介してコミュニケーションをとることができる既存マーケティングが対象とする人々だ。
もう一つは、マスメディアの外部性伝達空間(聴く)からスマホ的な内部性伝達空間(届く)を経て、ポストスマホの内部性探索空間(出合う)への流れ(図3の赤い矢印参照)。スマホやSNSをきっかけにして自分の文脈優位の情報行動に変化していった生活者で、いわば「感性」のルート。内部性伝達空間にはCL2「スマートデバイスラバー」、CL3「情報取得省力」、内部性探索空間にはCL1「イマーシブ型情報探索者」、CL6「マス聴衆2.0」が存在する。CL2は当然のことながらスマートデバイスに親和性を示し、近年注目を集めるSNS/スマホのマーケティングの対象だ。一方でIoTに紐づけられる内部性探索空間にいるCL1、CL6は必ずしもスマートデバイスに親和的でない。IoTの時代はスマホに依存しない人々から始まっていくことを示唆する。この点は記憶にとどめておきたい。
“聴衆”はどこに消えたのか?
マスメディアの情報空間である外部性伝達空間にプロットされるクラスターは今回現れていない。テレビ全盛の時代には外部性伝達空間にいた“オーディエンス”(聴衆)が、インターネット/スマホの出現により、他の情報空間に分化していったと考えられる。CL7「良識ある聴衆」あるいはCL6「マス聴衆2.0」のような既存デバイスに親和性の高いクラスターがかつてのオーディエンスの“進化”した姿ではないかと私は考えている。特にCL6は、IoTに親和的なポストスマホの情報空間に位置する。IoT時代の消費を牽引する新しい“聴衆”としての可能性に着目したい。
新しい情報空間の担い手 CL1「イマーシブ型情報探索者」
CL1「イマーシブ型情報探索者」は“出会う”情報空間(内部性探索空間)最深部に位置し、「感性」ルートの現状の到達点といえる。IoT時代の新しい情報行動の先駆者である。彼らは既存デバイス、スマホには非積極的で、かつ「消費意識」、「企業の宣伝手法への好み」、「価値観」などさまざまな項目で他のクラスターと異なった特徴を持っており、従来のマーケティングの話法では捉えがたい人々と考える(図4)。
特に「宣伝手法の好み」に関して、企業やメディアより“個人”発の情報を重視し、コンテンツとしての広告を好むなど、示唆に富むスコアを示している。今後、CL1「イマーシブ情報探索者」のような人々とコミュニケーションをとるために、IoT時代の“新しいマーケティング”話法が要請されることだろう。詳しくは、情報メディア白書2018をご覧になるか、電通メディアイノベーションラボまでお問い合わせいただきたい。
調査概要
調査名:生活者の情報行動とIoT環境受容性調査
調査目的:メディア情報環境変化に伴う生活者の情報行動の実態を把握する。情報行動の実態からIoTの受容性と、広告マーケティングへの影響を分析する。
調査時期:2017年10月
調査方法:ウェブ調査
調査対象者:全国18歳から49歳男女計2780サンプル
実施協力機関:ビデオリサーチ
本調査へのお問い合わせ:infomedia@dentsu.co.jp