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セカイメガネNo.67

次のフロンティアは火星か、深海か

2018/04/18

2018年2月6日、本物の宇宙服を着たマネキンドライバー「スターマン」の運転するオープンカーが火星に向かって疾走を始めた。バカげたアイデアに思えるかもしれないが、事実だ。イーロン・マスクCEO率いる民間宇宙ベンチャー「スペースX」の火星ミッションが、大きな一歩を踏み出したのだ。2024年に人類を火星に着陸させ、その後コロニーを建設する壮大なプロジェクトだ。

僕は両足を大地に着けたまま、ロケット打ち上げの様子を見ていた。1969年、月面に人を降り立たせた探査機より複雑なテクノロジーで動いている、手のひらのスマホで。

真っ赤なテスラが、エルトン・ジョンの楽曲「ロケット・マン」をBGMに宇宙を航行していく。ふと、疑問が浮かぶ。「どうしてなんだろう?」。いや、音楽の話じゃない。エルトンの曲は素晴らしい。なんだってわれわれ人類は、生存に適さない無重力・無酸素の環境を目指すのだろう?

数え切れない数の人工衛星を打ち上げ、国際宇宙ステーションにクルーを送り、ゴルフカートのような乗り物を火星軌道に交差させる。次は、人間を火星に送り届けるって? それは、冒険?イノベーション?移住?それとも、単なる好奇心?

人類は、次のフロンティアを求めて狂奔してきた。世界最高峰の山脈に登頂した。犬ぞりを駆り、南極も北極も踏破した。前人未到の密林にも分け入った。けれど、大海原はどうなんだろう。まだ爪先を濡らしたくらいしか探索できていないんじゃないか。

「まるで青いビー玉のよう」とアポロ17号乗組員が形容した、われらが惑星。表面の約70%が水、つまり海で覆われている。地球の底、海面下1万916メートルのチャレンジャー海淵に単独で到達したのは2012年、「タイタニック」の映画監督ジェームズ・キャメロンだけだ。人類は太陽系にロケットを航行させ、フロンティアを求める。一方、砂浜の先には、未知のフロンティアが残されている。発見されることを待ち続けて。

僕たちが働くクリエーティブ業界は、新奇なテクノロジーを追い求める。クリエーティビティーの限界を突破したい。でも、例えば、口コミを拡散するためにARやAIのチャットボットを使えば、限界を突破したことになるのか。テクノロジーを駆使した最新のオモチャに夢中になるあまり、水面下に隠れているもっと大事なものを見落としてはいないか。休日を海で過ごしていたら、そんな考えが浮かんできた。

  (監修:電通 グローバル・ビジネス・センター/写真:中村正樹)