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限界集落とビジネス

ろーかる・ぐるぐる №130

  • 山田 壮夫

2018/04/19

限界集落とビジネス

宮崎県高千穂の山奥の奥。この連載63回目でも取り上げた40戸100人がひっそりと暮らす秋元集落の佐伯さんご夫妻から「新商品が出来たよ!」という知らせが届きました。なんでも「米ぬか」のお菓子だとか。ポチリと注文すれば数日で商品が手に届く現代って、ホント便利ですよね。さっそく頂きました。

キューブ状の固体をガリガリ、ポリポリ噛むと、ほのかな甘みが広がります。自然で素朴な味わい。たまごボーロよりだいぶ堅めですが、甘みの質は近いかな。なんとなくもうひと口、もうひと口と食べながら、開発のプロセスに思いを馳せました。

佐伯さん達が目指しているのは秋元のような限界集落(過疎化や高齢化によって、その存続が危ぶまれている村落)でも、ビジネスの力で活性化を図れるということです。商品を通じて郷土の良さを広めたいという明確な願いがあります。

その目的のために開発された最初のヒット商品が「ちほまろ」。集落内の棚田で丁寧に栽培したお米と諸塚山水源の湧水を原料につくった甘酒を、さらに乳酸菌でダブル発酵させた健康飲料です。麓の高千穂まで30分、延岡まで60分、宮崎市までは2時間近くかかる環境に負けず、地道に営業開拓を続けた結果、いまでは取引先が200を超え、年商も1億円に迫っているのだとか。

十字フレームを使ってまとめるとこんな感じ。「棚田の健康飲料」で「便利な生活に疲れているひと」の「信用できるものを食べたい」という気持ちを解決する乳酸菌と麹の健康飲料「ちほまろ」によって「秋元の活性化」を目指しているという整理です。乳酸発酵した甘酒という商品自体は他にも販売している事業者さんがいらっしゃいます。しかし寒暖差が激しく、水に恵まれ、手塩にかけて育てた「棚田」のお米でつくるところに、そして限界集落を元気にするのだという思想に、多くの人がわざわざ「ちほまろ」を選ぶ理由があるのでしょう。

明治学院大学

ところが甘酒を製造すると副産物が生まれます。精米のときに必ず発生する「米ぬか」です。ある程度までは肥料として田んぼに撒いていましたが、「ちほまろ」の販売が拡大するに連れ。それだけでは処理しきれなくなりました。米ぬかはお米の中でも一番栄養成分が豊かなことで知られています。ここをなんとか自然のまま味わえるようにできないか、というのが開発の原点でした。

いわば「棚田の健康スナック」というコンセプトで開発がスタートしたわけですが、最大の難関は原料としての「米」でした。巷でヒットしている商品のように「やわらかさ」を追求しようとすると、どうしても卵やベーキングパウダーに頼らざるを得ません。とはいえ、そうしてしまってはコンセプトが生きないので、地道な努力の結果「米ぬか、米粉、米あめ、米あぶら」という米原料100%(もちろん無添加・無加糖)の「堅さ」に特徴がある商品ができあがりました。

イメージ

実は佐伯さんとはみやざきフードアカデミーで商品開発について、あれこれ議論した仲間。そのため、今回の開発時も十字フレームを活用してくださったそうです。ぼくが実際のエピソードを伺う前、勝手に想像して書いたものと、佐伯さんが開発時に使っていたものを並べても、ほぼ同じ。それだけ特徴が明確なのでしょう。ヒット商品である「ちほまろ」と比べても重複が多く、特にターゲットが一緒なので、既存の流通ルートでの販売拡大が図れそうです。

佐伯さんは当初、堅さを心配していたようですが、それこそが素朴さ、まじめさを表現しています。と同時に、食事もせっかちにのみ込んでしまうぼくのような人間にとって、ゆっくり咀嚼しないと味わえないこと自体が健康的です。やわらかさがトレンドだからと迎合せず、ビジョンとコンセプトに素直に向き合って生まれた逸品。宮崎はもちろん、全国でもちらほら手に入るようなので、見かけることがあったら、是非試してください。

どうぞ、召し上がれ!