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インサイトメモNo.63

ソーシャルメディアはシニアの生きがい?

2018/04/25

2016年の65歳以上の人口が総人口に占める割合は27.3%、2025年には30%を超えて、さらに伸びていく。平均寿命は15年に男女共に既に80歳を超えている(※1)。これからの日本社会で人々は、70代とそれ以上を生きることを前提に人生を設計していかなければならない。

長いシニアライフをより良く過ごすために、デジタルの果たす役割は今後ますます高まっていくと考える。しかし、スマホを中心に拡大したデジタルサービスの多くは若年層の視点で評価され、シニアライフへの寄与の実態はあまり語られない。果たしてデジタルはシニアを幸せにしているのだろうか?

※1 内閣府平成29年版高齢社会白書

 

シニアはデジタルに何を求め、何を得ているのか?

デジタルとシニアの幸せを考えるに当たり、電通メディアイノベーションラボでは、シニアの“楽しみ”と“悩み”に着目した。一口にシニアと言っても、経済状況、健康状態、家族関係、交友関係など境遇はさまざまだ。デモグラフィックな属性ではなく、日常において多様な“楽しみ”や“悩み”を持つシニアが、どのような動機(モチベーション)でデジタルサービスを利用し、その結果どのような心理・行動の変化(アクティベーション)を起こしたのか。本稿では、その実感調査に基づき、デジタルサービスのシニアライフへの寄与を明らかにしていく。

趣味を楽しみ、仲間と交流するFacebook

図1は、日常の楽しみの中で、“趣味で他人との交流を楽しんでいる”シニア(※2)のFacebook利用についてまとめたものだ。“趣味で他人との交流を楽しんでいる”シニアのスコア、そうではないシニアのスコアを利用率、利用動機(モチベーション)、利用による心理・行動変化(アクティベーション)の三つの視点で比較している。

※2 日常生活において「同じ趣味・スポーツを持った人と交流するとき」「趣味・スポーツに没頭しているとき」「趣味・スポーツの成果を人に見てもらったとき」などの項目で楽しいと感じていると主に回答したシニア。
 

図1
 

棒グラフ: シニアの日常の楽しみについての因子分析から得られた“趣味で他人との交流楽しい”の
      因子得点が、平均値以上の場合を「趣味で他人との交流を楽しむシニア」、平均未満を
      「そうではないシニア」と定義。

レーダーチャート: 各グラフの数値は、因子分析から得られた、6タイプの「モチベーション
          因子」、8タイプの「アクティベーション因子」の因子得点。

趣味で他人との交流を楽しんでいるシニアの方がそうでないシニアよりFacebookを多用し、利用の結果、コミュニケーション、新しいステップ、自己表現など、様々なアクティベーションの増加につながっている。

趣味で他人との交流を楽しむシニアにとって、Facebookは学生時代のサークル活動のような、楽しい交流の場として機能している。ともすれば年齢とともに出不精・引っ込み思案になりがちなシニアにとって、こういったソーシャルメディアの効能は格別のものであろう。

家族とつながり不安を和らげるLINE

悩めるシニアにもデジタルは貢献している。図2は、“身体の健康に不安を感じている”シニアのLINE利用についてまとめたものである(※3)。“身体の健康に不安を感じている”シニアはLINEの利用率が高い。利用モチベーションを見ると、家族・友人交流を強く求めており、実際に家族交流が増えたと感じているようだ。LINEは家族と常時コミュニケーションできる手段を提供することで、シニアの不安を和らげているといえそうだ。

※3 日常生活において、「最近身体の衰えを感じる」「記憶力の衰えを感じる」「病気ではないが体調が悪い」などの項目で、悩んでいると主に回答したシニア。
 

図2

棒グラフ: シニアの日常の悩みについての因子分析から得られた“身体・健康不安”の因子得点が、平均値
      以上の場合を「身体の健康に不安を感じているシニア」、平均未満を「そうではないシニア」
      と定義。

レーダーチャート: 各グラフの数値は、因子分析から得られた、6タイプの「モチベーション
          因子」、8タイプの「アクティベーション因子」の因子得点。

一人暮らしまたは夫婦のみの世帯は、1980年には合わせても3割弱であったが、2014年には55.4%にまで増加している(※4)。多くのシニアにとって、家族は必ずしもいつも一緒に居る存在ではない。

※4 内閣府平成29年版高齢社会白書 
 

インスタントメッセンジャーは電話と違い、相手を一方的に拘束しない。家族に負担を掛けたくはないが、気持ちではつながっていたいと願うシニアにとって、インスタントメッセンジャーの間合いは絶妙な頃合いなのかもしれない。

自分の居場所をつくるInstagram

図3は、生活の中で自分の“居場所がない”と悩むシニア(※5)のInstagram利用について調べたものである。悩みを抱えるシニアの方がInstagramをより多く利用している。また楽しい気持ちになりたい、若くありたい、といったFacebookやLINEとは毛色の異なるモチベーションでInstagramを利用している。利用の結果、楽しい気持ち(ポジティブ心理変容)や新ステップ、自己表現といったアクティベーションが増加している。Instagramを通じて、新しい世界を開くさまがうかがえる。

※5 日常生活において「職場の環境や人間関係に慣れない」「もう仕事を辞めたい」「家庭に自分の居場所がない」などの項目で、悩んでいると主に回答したシニア。
 

図3
 

棒グラフ: シニアの日常の悩みについての因子分析から得られた“居場所喪失”の因子得点が、平均値以上
      の場合を「居場所がないと悩むシニア」、平均未満を「そうではないシニア」と定義。

レーダーチャート: 各グラフの数値は、因子分析から得られた、6タイプの「モチベーション
          因子」、8タイプの「アクティベーション因子」の因子得点。

自ら工夫を凝らして撮影した写真に、いいね!やコメントなど、友人・知人からの反応が寄せられる。Instagramの写真投稿には自分が肯定される喜びがある。同じ調査でシニアに「いいね!」をする理由を聞いたところ、Instagramでは「相手を褒めてあげたいから」と回答する人の割合が最も高かった(※6)。投稿した写真への好意的な反応を励みとしているシニアは存外多いのではないか。一部のシニアにとってソーシャルメディアは、生きがいにもつながり得る、かけがえのないものなのかもしれない。

※6 相手の投稿に対していいね!する理由「相手を褒めてあげたいから」の回答率
   Instagram 38.1% Facebook 35.3% Twitter 25.9%

 

シニアの楽しみや悩みに着目することで、ソーシャルメディアがシニアにもたらすポジティブな影響が見えてきた。これらは、シニアの社会交流、家族関係、生きがいといった高齢化社会の課題とつながっている。

高齢化がますます進む日本においては、今後もデジタルのあり方が問われていくだろう。

デジタルは若者だけのものではない。シニアと向き合ったデジタルサービスの発展に期待したい。


【調査概要】
電通メディアイノベーションラボ
「シニアデジタルユーザーのアプリ・サービス/SNS利用実態調査」
 
調査目的:シニアのソーシャルメディアおよびアプリ・インターネットサービスの利用実態を把握する。また、アプリ・サービスの利用がシニアの生活面にどのような影響をもたらしているのかを分析する。
調査時期:2017年8月
調査方法:インターネット調査
調査対象者:全国55~74歳男女2146サンプル
デジタルアプリ・サービスの利用インサイトを把握するため、ある程度デジタルに慣れたシニアをスクリーニング
スクリーニング条件:
①PC(デスクトップ・ノート)、タブレット、スマートフォンのうち、1日1回以上使用する機器が2つ以上
②調査対象のアプリ・サービスのうち、5~30個の利用あり。
①&②の条件を満たすシニアを調査対象者とした。