人に寄り添える「People Driven Marketing」のすすめNo.5
People Driven Marketingはメディアプランナーの自由革命だ!
2018/05/16
ピープル・ドリブン・マーケティング(PDM)の考え方を紹介する本連載。今回のテーマは「Media&Promotion」(メディア&プロモーションプランニング)です。
「人」を基点とするPDMではどんなメディアを使うべきでしょうか。的確なターゲティングならデジタルだ!という考え方も、いや、テレビCMのパワーは捨てがたい!という考え方もあるでしょう。
しかし、各メディアがそれぞれに進化した現在では、ニュートラルな視点でメディアを組み合わせることで、かつてない自由なプランニングを楽しめます。最新の状況を見ていきましょう。
<目次>
▼~A子さんの物語:Media&Promotion編~
▼デジタルが効率的?テレビが最強?メディア選びに「先入観」は禁物
▼進化するトラディショナルメディアたち
▼「平日は仕事で頭いっぱいの社会人週末ジョガー」攻略作戦
▼メディアプランニングって自由だ!メディアプランニングって楽しい!
~A子さんの物語・Media&Promotion編~
大型スポーツ用品店「スポーツピープル」でマーケティング全般を担当するA子さんは、顧客タイプ別にチャンスポイントを発見しました(※第4回参照)。
※チャンスポイント…離脱顧客と優良顧客のジャーニーを比較して発見する、両者の差異。離脱顧客に対してこのチャンスポイントを埋めるアプローチをすることで優良顧客化を図ることができる。
- 平日は仕事で頭がいっぱいの社会人週末ジョガーに対して
→「週末のジョギングモード」に切り替わったタイミングを捉える - 子どもたちのキャンプデビューをもくろむお父さんに対して
→「家族がそろっているタイミング」でオファーを出す
チャンスポイントを中心にコミュニケーションシナリオを描き、メディアプランを組み始めたA子さん。同僚のB太郎さんに相談してみました。デジタル広告に詳しいB太郎さんは自信ありげにこう言います。
B太郎「そのターゲットならデジタルでいくべきだよ。社会人のジョガーには、位置情報を使って、週末にジョギングコース周辺にいる人だけにスマホ広告を配信するのさ。そして家族がそろうタイミングといえば週末の夕方だろ?その時間帯に動画広告を…あ、僕、セミナー聞きに行かないといけないんで。また明日!」
B太郎さんの話には一理ありますが、本当にそれだけで十分でしょうか?
「その日その時に実際にジョギングしていた人だけがターゲットじゃないし、それに家族がそろっている時にスマホで動画なんて見るかなあ」
不安になるA子さんに、C部長が話しかけてきました。
C部長「なんやかんやいってもテレビスポットCMだよ。何しろリーチの桁が違うからね。あ、これから会食があるんで。じゃまた!」
C部長の意見にも一理ありますが、テレビCMは多くの人にコンタクトできる半面、無駄も大きいような気がします。結局ベストなメディアプランとはどういうものなのでしょうか。
デジタルが効率的?テレビが最強?メディア選びに「先入観」は禁物
電通第3統合ソリューション局の篭島です。今回は、コミュニケーションプランニングに日々取り組んでいる私が、「メディアニュートラル」な視点についてご説明します。
「人」を基点とするPDMでは、デジタル広告はもちろん重要です。デジタルなら、年齢や職業といったデモグラフィック情報だけでなく、趣味嗜好も踏まえた精緻なターゲティングが可能です。広告を出すタイミングやデバイスも自由に選べて、スマホの位置情報データを使えば場所さえも指定できます。
しかし一方で、テレビCMや交通広告などトラディショナルメディアも進化しており、ターゲティングの精度や柔軟性が高まっています(詳しくは後述)。「トラディショナルメディアはマスを対象に認知を高めること専門で、個人を基点とするPDMと相性が良くないのでは?」と思うかも知れませんが、全くそんなことはありません。
事前に「このメディアはこういうときに使うもの」と決め付けず、常に全メディアを選択肢に入れることが、今求められる姿勢といえます。各メディアの進化を把握し、従来の使い方に縛られないメディアの引き出しを多く用意するほど、メディアプランニングの自由度は増していくのです。
メディア選定の基準になるのは、カスタマージャーニーマップから導き出した「チャンスポイント」に基づくシナリオ設計です。基本的な考え方は以下のようなものです。
【PDMの考え方】
- 「チャンスポイント」を的確に突くプランを考え、
- 実際に人を動かしてコンバージョンに導くための施策を展開し、
- 効果測定をして長期的関係を構築する。
この考えに基づいて「どのメディアをどのチャンスポイントにどう使うのが有効か」を検討しましょう。
なお、PDMではターゲットの「属性」「ボリューム」「チャンスポイント」がはっきりと分かった上でメディアプランニングを行うため、以下のようなメリットもあります。
進化するトラディショナルメディアたち
トラディショナルメディアのターゲティング精度や柔軟性が高まっている具体例を紹介します。
①ネットにつながるようになったテレビ
長い間、テレビ視聴者は「年齢」「性別」「職業」などのデモグラフィック情報でしかセグメンテーションができませんでした。しかし、最近では視聴者のプロフィールをより細かく分析できるようようなデータ取得が可能になっています。
例えばビデオリサーチの「VR CUBIC」、スイッチ・メディア・ラボの「SMART」が代表的なサービスで、これまで知り得なかった「テレビ視聴者の価値観や生活スタイルによる視聴傾向の違い」を分析し、ターゲティング精度を高めることができます。
また、最近のテレビは、インターネットに結線されるのが当たり前になりつつあります。電通は、そうしたテレビから得られる視聴ログデータを使った「STADIA」というマーケティングプラットフォームを提供しています。
STADIAでは「テレビCMに接触したor接触していない」を実ログベースで把握し、それぞれの人たちに向けて異なるデジタル広告を配信できます。つまり、「テレビCMとデジタル広告を連動させた、横断的なメディアプランニング」を実現します。
②外部データでリアルタイムに映像を変えられる屋外広告・交通広告
屋外広告・交通広告(OOH)では、デジタルサイネージの進化により、リアルタイムに広告表現を差し替えられるようになってきました。例えば朝と夜で広告表現を変えたりするのはもちろん、「気温変動」「桜の開花状況」「スポーツの試合結果」といった外部データと連携することで、より注目度を高めることができます。
電通では、前述のSTADIAの進化版として、屋外広告・交通広告も含めた横断的なプランニングを実現する「STADIA OOHプラス」(β版)もスタートしました。こちらもPDMの中で高い効果を得られるサービスです。
③ラジオ、新聞、雑誌が次々とデジタル化
他にも、新聞紙面や雑誌誌面のデジタル化、radiko.jpによるインターネット経由でのラジオ聴取など、デジタル化の波はトラディショナルメディアを進化させ、従来とは比較にならないターゲティング精度と柔軟性の向上を実現しています。
「平日は仕事で頭いっぱいの社会人週末ジョガー」攻略作戦
A子さんは、進化した各メディアを駆使して、「平日は仕事で頭いっぱいの社会人ジョガー」にアプローチすることにしました。以下は、とあるジョガー「Rさん」の体験したストーリーです。
週末のジョギングで、シューズに違和感を覚えたRさん。
「ネット通販で買った大手メーカーの最新モデルだし、イイもののはずなんだけど…」
不安も感じますが、平日は仕事のことで頭がいっぱいです。しかし、帰宅してテレビをつけると、まるで計ったように「スポーツピープル」のテレビCMが流れました。
「シューズはあなたに合うかどうかが大事です。あなたのジョギングライフを支えるスポーツピープル!」
「なるほどな」と思いながら眠りにつきます。
金曜日の夜、明日はジョギングだ、と思いながら駅に急ぐRさんがふと顔を上げると、大好きな野球の試合結果とともに、「スポーツピープル」のサイネージ広告が目に入りました。
「週末はスポーツモードのあなたに。スポーツピープルの“シューズカウンセリングサービス”で、あなたにピッタリのシューズを見つけてください。●●店スタッフより」
「へぇ、地元にスポーツピープルの店舗があったんだ。知らなかった」
そして土曜日、気持ちよくジョギングするRさんですが、やはりシューズに違和感があります。走り終わり、水分を取りながら休憩しているとき、なんとなくTwitterを開くと、こんな広告が表示されました。
「今のシューズ、本当にあなたにピッタリですか?スポーツピープル」
Rさんは「あの駅にあったスポーツピープル、帰りに寄って相談してみるか…」と思いました。
メディアプランニングって自由だ!メディアプランニングって楽しい!
今回のターゲットである「週末ジョガーな社会人」は、平日は仕事のことで頭いっぱい…といっても、帰宅後はテレビCMに触れる機会もあります。
A子さんは「仕事バリバリだが、週末もアクティブにジョギングを楽しむサラリーマン」がよく見る時間帯と番組を狙ってテレビCMを流すことで、多くのターゲットにコンタクトできると考えました。
さらに金曜日の夜、駅のデジタルサイネージで、サラリーマンの頭が週末モードに切り替わるタイミングを狙った広告を打ちました。このとき、リアルタイムな最新スポーツニュースと併せてメッセージを発信することで、注目度を高めています。
そして週末は、ジョギングコース周辺にいる人を対象に位置情報データを使ったデジタル広告を配信して、店舗への誘引を図ります。
こうしてA子さんは、チャンスポイントを狙い、トラディショナルメディアとデジタルをうまく組み合わせたプランを実行できました。週末に企画した「シューズカウンセリング」への集客も上々です。
…と、このA子さんの例はうまくいきすぎかもしれませんが(笑)、ここで重要なのはA子さんが「メディアニュートラル」なスタンスで、自由にプランニングしていることです。
以下、従来のような一般的なメディア設計と、PDM的なメディア設計の違いを図で比べてみましょう。
A子さんは「多くの引き出しの中から、チャンスポイントに適切なメディアを選んで組み合わせていくメディアプランニングって楽しいな」と思いました。
さらに、正解は一つではなさそうです。テレビの代わりにデジタル動画広告を使う選択肢もありました。電車内のビジョン広告もアリかもしれません。雑誌だって新聞だってラジオだってまだまだ奥が深そう。いろいろと試してみたくなります。
メディアプランニングはA子さんが思っていた以上に「自由」になっていたようです。
そしてA子さんは「目的に応じたメディアプランニング」と必ずセットとなる、「メディアに応じた最適なクリエーティブ」について思いを巡らせ始めました。(続く)