人に寄り添える「People Driven Marketing」のすすめNo.6
データを味方にするとクリエーティブが変わる!
2018/08/13
ピープル・ドリブン・マーケティング(PDM)の考え方を紹介する本連載。今回のテーマは「Creative & Activation」、人を動かすクリエーティブです。
マーケティングの中でも、「クリエーティブ」の話になると、勘やセンスが入り混じり、話が混乱しやすいところかもしれません。でも恐るるに足らず!
PDM型クリエーティブは、「メディアへの最適化」「ファネル別の整理」「データに基づいたPDCA」の三つの基本をおさえておけば、大丈夫。クリエーティブは、表現は、もっと強くすることができるんです。
<目次>
▼~A子さんの物語:Creative&Activation編~
▼基本①クリエーティブを各メディアに最適化せよ!
▼基本②動画はファネル別の「3S戦略」で考える
▼基本③クリエーティブにも、データに基づくPDCAを
▼A子さん、手応えあるクリエーティブの面白さに気づく
~A子さんの物語・Creative & Activation編~
とある街の郊外に、大型スポーツ用品店「スポーツピープル」はあります。入社6年目のA子さんは、スポーツピープルの顧客にメッセージを届けるためのメディアプランニングをしています(前回参照)。
問題はクリエーティブです。宣伝部がつくったテレビCMはすでにあり、地元の草野球チームと社会人フットサルチームが汗を流している姿を中心にした映像です。宣伝部長は「このCMをデジタルメディアでも流せばいいんじゃないか?」と言っていますが、A子さんは疑問です。
「テレビCMならいいけど、ネットでこの動画が流れてきても、スキップされちゃうんじゃないかな」
また、スポーツピープルは近年人気のボルダリング用品コーナーにも力を入れているのですが、自身もボルダリングを始めたばかりのA子さんはこう感じています。
「この野球とフットサルのCMを見ても、ボルダリング好きの人は、来店してくれないだろうな…」
さらに、検索広告やバナー広告も気になります。今は「スポーツピープル」を検索した人に対してバナー広告を出しているだけで、バナーのデザインも「スポーツピープル」のロゴだけです。本当にこれでいいのでしょうか?
「配信結果のデータをちゃんと使った方がいいんじゃないかな」
A子さんはより有効なクリエーティブを考えるため、またしてもデータに向き合い始めました。
基本①クリエーティブを各メディアに最適化せよ!
電通デジタルの並河です。今回はデータを活用したクリエーティブのメソッドやソリューションを開発している、電通デジタル アドバンストクリエーティブセンターの方法論を紹介します。
A子さんの懸念通り、テレビCMではよくても、同じ内容がSNSや動画サイトなどデジタルメディア上の動画広告として流れてきたら、スキップしてしまう、というのはよくあることです。
テレビCMは、お茶の間で流れていて、自然と目に入ってくるもの。「受動的な視聴態度」と言われることもあります。一方で、視聴者が自分の意志でスキップできてしまうデジタルメディアの場合、もっと「能動的」に見てもらうための何かが必要ということです。
つまり、「デジタルメディアに合わせて別の動画広告をつくる」あるいは「同じ映像ソースでもテレビCMとは編集を変える」という対応が必要になるのです。
これが、「クリエーティブのデジタルメディアへの最適化」です。
電通では、昨年、過去のYouTube動画広告3000本以上のデータから、動画広告に含まれる「クリエーティブの要素」と、その広告を見た人に与えた影響を調査。クリエーティブの要素と「視聴率」「広告想起率」「ブランド認知率」などの関係性を解明しました。
例えば「視聴率」を上げる、つまりスキップされないためには、下記のようなクリエーティブが効果的である可能性が高いと判明したのです。(ほんの一例です)
~スキップされないクリエーティブの傾向例~
- ダンスシーンがある。
- 犬が出る。
- 数字での主張がある。
- 冒頭3秒以内に商品が出る。
これを見ると、「企画自体に関わるので簡単には変えられないこと」と、「編集で後からでも取り入れられること」、その両方があることに気づきませんか?
①企画自体に関わること
「ダンスシーンがある」「犬が出る」などは、企画自体に関わることです。テレビCMが存在せず、デジタル動画だけをつくる場合は、こうしたデータを、企画の参考にすることができるでしょう。(もちろん、何を伝えるべきか、という部分が大事なので、むやみにダンスシーンがあったり、犬が出てきてもダメなのですが)
②編集で後からでも取り入れられること
一方、「数字での主張がある」「冒頭3秒以内に商品が出る」といった要素は、編集でも加えることのできる要素です。すでにテレビCMがある場合は、デジタル動画用に別編集を行うだけでも、効果を上げられるのです。
なお、「視聴率」「広告想起」「ブランド認知」「好意度」「購入意向」など、高めたい反応に応じて必要なクリエーティブ要素は変わってきます。また、要素同士が影響を与え合うこともあります。
電通と電通デジタルは、こうした点もふまえ、デジタル動画広告に対する視聴者の反応をシミュレーションできる「ブランドリフトチェッカー」というツールを開発しました。詳しくは以下の記事をご参照ください!
電通と電通デジタル、クリエーティブ観点で、マスとデジタル媒体向け動画広告の最適化を実現するサービス「BRAND LIFT CHECKER」の提供開始
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2017/1205-009405.html
基本②動画はファネル別の「3S戦略」で考える
A子さんの次の気付きは、「この広告内容では自分ゴト化してもらえない人がいるんじゃないかな」というものです。
つまり、テレビCMやウェブ動画で認知を広げても、「CMをやっているからお店の名前は知っているけれど、自分向きじゃない」と考えている人がたくさんいるんじゃないか、ということです。
この人たちは、顧客をファネル(漏斗)で表現したときに、その真ん中にいる「潜在層」と呼ばれる層です。
ざっくり言うと、「商品のことは知っているけれど、自分から検索したりするほどの意向はない」という人たちです。
この層に、自社の商品やサービスを「自分ゴト化」させていくことは、まさにPDMの醍醐味、といえます。
方法はいくつもあるのですが、動画広告を使った手法と、バナーやメディアタイアップからランディングページに誘引する手法の二つが、よく使われる手です。
まず動画広告を使った「自分ゴト化」の手法について。ここでいう「動画」は、最初にお話しした「認知を広げるテレビCMやデジタル動画」とは違います。「自分ゴト化させるための動画」なのです。
電通デジタルでは、こうした用途の違いに応じて、動画広告を「3S」というフレームで整理しています。
動画広告の「3S」
■Show……認知を広げるための動画
■Story……自分ゴト化を促すための動画
■Sale……購買を後押しするための動画
ファネルの上から、Show、Story、Saleと覚えてください。Showはトップファネル向け、Storyはミドルファネル向け、Saleはボトムファネル向けです。
自分ゴト化で必要なのは、Story動画です。
例えば、これからボルダリングを始める人を主人公にして、お店がどうサポートしてくれるのかを描いていく、そんな物語性のある動画です。
バナーやメディアタイアップで自分ゴト化させてランディングページに誘引していく場合も、考え方は同じ。
例えばボルダリングのビジュアルを使ったバナーを出して、ボルダリングに関心のある人の興味を引き、ランディングページへ誘導。
ランディングページには「ボルダリングの始め方講座」のようなお役立ちコンテンツを用意しておき、その中で商品を紹介していく。…といったやり方です。
ちなみに、筆者の経験上、Story動画は、「その商品について既に自分ゴト化している人が制作すると、気持ちをくすぐる表現になりやすい」という傾向があります。
「あーそういう気持ちって、あるある」と広告を見る人にも感じさせられるんですよね、きっと。
ボルダリング好きのA子さんの腕の見せどころ、です。
基本③クリエーティブにも、データに基づくPDCAを
A子さんの三つ目の悩みは、検索広告やバナー広告について、でした。
例えば、野球のボールを購入しようと思っている人は、「野球 ボール」のようなワードで検索している可能性が高いと考えられます。そうした人たちに対して、単にブランドロゴを大きく入れたバナーを出しているのではもったいないですね。
「野球のボールを探している人たち」に響くようなリスティング広告テキスト文や、バナーでアプローチしていくのです。
「スポーツピープル」というロゴを大きく見せるよりも、「困った!野球のボールが足りない!どうしよう?」といった表現の方が響くと思いませんか?
そして重要なことですが、クリエーティブにもPDCAという考え方を導入しましょう。バナーでも、動画広告でも、いろんなパターンを配信し、配信後のデータから成果を検証することで、より良い表現に改善していきます。
PDCAを回す際に見るべき指標は、3Sそれぞれで異なります。
- Show…認知を広げたい動画広告なら「再生数」「ブランド認知率」を見る
- Story…自分ゴト化させたい動画広告なら「好意度」を見る
- Sale…購入へ直結させたいバナーなら「クリック率」「コンバージョン率」を見る
大事なのは、「それぞれのクリエーティブの役割に応じて、成果の指標を設定する」ということです。
最後に。今までのクリエーティブの制作プロセスでは、「A案、B案、C案、どれがいいだろう?うーん…」と悩むことが多かったと思います。
しかしこれからは、「こういうメディアだから、動画はこうした方がいい」「ファネルのこの層だから、こういうクリエーティブがいい」「配信した結果、こういうデータが出ているから、今度はこういう表現がいい」と、もっとクリアに説明し、議論できるようになっていくともいえます。
もちろん、それだけでクリエーティブが出来上がるわけでありません。その先は、表現やアイデアの世界。表現やアイデアをより高くジャンプさせるための土台が、より確実になる、強くなる。それが、PDM型クリエーティブだと思います。
A子さん、手応えあるクリエーティブの面白さに気づく
A子さんは、テレビCMの素材を使いつつも編集を変えて、スキップされないように冒頭を印象的なシーンに変更したデジタル動画広告を制作。テレビCMでは届けられなかった、特に若い層の認知を上げることができました。
さらに、最近急増しているボルダリングファンの心に刺さる特別な動画広告も制作。お店としても力を入れているボルダリングコーナーの売り上げが先月に比べて20%向上しました。
さらに、「野球 ボール」などジャンルごとに検索キーワードを細かく設定し、それぞれバナーもつくり分けることで、ECでの売り上げが一気に向上。日々、改善も繰り返しています。
最初は、「クリエーティブって難しそう!」と思ったA子さんですが、データを見ながら制作することで、「手応え」を感じ始めました。A子さんは、「一人一人に届ける、手応えのあるクリエーティブ」の面白さに気づいたようです。