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「大づかみ」する技術と、その弱点

ろーかる・ぐるぐる №134

  • 山田 壮夫

2018/06/21

「大づかみ」する技術と、その弱点

食いしん坊は遺伝するのでしょうか。83歳で一人暮らしの母は今日も自分の食欲を満たすためだけに料理をし続けているし、祖父は他界する間際まで「あれ食べたい」「これ食べたい」と暴れまわっていたし。

ぼくも「食べたいものを、食べたい」というだけの理由でわが家の台所を占拠。表向きは「ちゃんと家事を分担する夫」と見せながら、要はメニュー決定権を手放したくないだけ。たまに「料理教室でもやったらいいんじゃない?」なんてお世辞を言ってくださる方もいますが、欲望任せの素人料理は大ざっぱも、大ざっぱ。酔っ払った口で「われながら、天才!」と思っても、再現性はゼロ。まったくだらしがないもんです。

大ざっぱにつくり過ぎたルバーブのパイ

ところで先日、ある企業の役員の方と飲んでいたら「広告会社の人は『大づかみする能力』が優れているから、面白いよね」と言われました。なるほど「大づかみする能力」ですか。酔った頭で考え始めました。

ぼくらは仕事の性質上、いろいろな業界に顔を出します。広告コミュニケーションといえば、マーケティング活動の一端でしかないので、ビジネスの全体像をそれなりに理解しなければなりません。厳しく見れば「半可通」、やさしく言えばいろいろな業種の「セミプロ」である経験を重ねて、やがて「あっ!これはなんとなくこういうことね」と「大づかみ」するチカラがつき、それが時として専門家にユニークな視点を提供するのでしょう。

この図でも示される通り、わたしたちの現実は「経験的世界」にあります。それを俯瞰する鳥の目を持ち、時として常識を覆すような新しい視点を提供する「コンセプト」の重要性はこのコラムでも繰り返し、お話ししている通りです。「大づかみする能力」とは、まさにこのコンセプトづくりにも通じる大切な技術なのかもしれません。

ここまで考えて。

「ところで広告会社の人間って、そんなに優秀なんだっけ?」(笑)。そこで思い出されたのが「確証バイアス」。人間の脳には結論を先に下し、あとからその裏付けとなる情報を集めようとする傾向があります。そして困ったことにその時、不利な情報は無視したり、軽視するのです。

例えば「自分が正しい」と思い込んだら、どんな客観的事実も耳に入らなくなっちゃう人とか。「市況が上向きだ」と信じたら、マイナスのシグナルを無視して突っ走る投資家とか。それほど極端な例でなくとも、あらゆる人間が陥りがちな傾向が「確証バイアス」であり、これこそが「大づかみする能力」の大敵でもあります。

「大づかみ」の対極である「緻密な積み上げ」によって物事を把握しようとする人は、絶えず「耳の痛い情報」にもさらされます。そういうタイプの人は、自分の結論と相反する情報に対しても自然とオープンです。スピード感には欠けるかもしれませんが、大きく間違えることもないでしょう。

ところが「大づかみする能力」で物事を進めようとするとき、自分に都合が良い情報だけを集めてしまっては、方向性を大きく誤ります。広告会社の人間は大胆に物事をとらえるのが得意かもしれませんが、その分「確証バイアス」を警戒しなければならないのです。

では、どうすればいいのか?

哲学者のフッサールがヒントを与えてくれます。彼は、世の中の命題ひとつひとつを正しいとか正しくないとか判断することなく「カッコ」に入れて受け入れる「エポケー」を提唱しました。「正しい」情報だけを求めるのではなく、ありとあらゆる情報を「ふむふむ、そういうこともあるかな」くらいの感じで(判断を停止して)受け入れる。そういう態度こそが「確証バイアス」にはまらない、最大の防御策になります。

(そうそう。「ぐるぐる思考」でも、コンセプトを考える材料を”Don’t think, feel!”「感じよう」と提案したのは「確証バイアス」を避けるためなのでした)

…ここまで考えてようやく、あの役員がおっしゃっていたのはお酒の席のお世辞だったと気が付きました。常に聞く耳を持って(=エポケー)、「大づかみする能力」は広告会社に限らず、優れたビジネスマン、全員に共通する資質ですもんね。いやはや、飲み過ぎ注意! お恥ずかしい!

 

どうぞ、召し上がれ!