「届く表現」の舞台裏No.17
2017年クリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞 佐藤雄介氏に聞く
“効く広告の手口”の最新形
2018/07/03
「『届く表現』の舞台裏」では、各界の「成功している表現活動の推進者」にフォーカスします。今回は、2017年クリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞した電通の佐藤雄介氏に、“効く広告の手口”の最新形を伺いました。
広告の手法はもちろん時代の流れに応じて変化するものですが、目下のところ、マスとウェブとリアル、この三つを有機的に総合的に機能させるのが最も有効ではないかと感じています。テレビCM中心のマス広告だけでも素晴らしいキャンペーンが成立していた時代もありましたよね。それからメディアが増えデジタル環境も進化してネット上でのコミュニケーションも重要になって、でもそれだけでも無理だな、となって。結局はマスとウェブ両方を使いつつ、かつリアルな場づくりをしてターゲットに対して体験や体感を通じてブランドづくりをしていくようなキャンペーンが、今の時代の流れに即しているように感じます。
僕自身の経験も重なります。入社2年目にクリエーティブ部門に移り、最初の3年くらいはひたすらテレビCM中心に研さんを積みました。するとウェブも動画視聴の場になる時代がきて、程なくバズ動画の手法なども考えるようになった。ウェブコミュニケーションの自由さを体得して、自分としてマス・ウェブ・リアルの複合的キャンペーンを初めて実現できたのは、「味噌汁’s」というバンドの仕事でした。知る人ぞ知るバンドの、決して大きなキャンペーンとはいえないものでしたが、ひと通りの要素を組み込んだモデルを構築できました。この仕事は、世の中への接着というPRの概念が加味されて、マルコメとのタイアップにつながりました。「若者にもっと味噌汁を」との課題に応えた「ロックを聴かせた味噌汁」というプロジェクトでした。
直近の事例では、大塚製薬ポカリスエットのチームで企画している一連の「ガチダンス」のフレーム。テレビCMであえて難しいダンスを題材にして、ウェブにはダンスレッスン動画を配して若者たちがまねに挑む意欲をあおり、うまくできるとSNSにアップしたくなっちゃう構造。そしてダンス甲子園のイベントで数千人で踊っちゃう。その模様をまたCMとして流す。マス・ウェブ・リアルの有機的な構造です。
これらの事例に共通するポイントとして、ウェブ上ではいかにして自走させる仕組みをつくるか、があります。例えば、日清食品カップヌードル「HUNGRY DAYSアオハルかよ。」シリーズ。これはほぼテレビCMとサイトだけの展開です。ここでの自走の仕掛けは、ウェブ上でいかに何度もCMを見たくなるようにするか。商品の世界観を拡張させる機能を果たしつつ、この時代において何度も見たくなる表現とは、を考え抜いてつくりました。具体的にはCM上に膨大な情報量を詰め込みました。若者たちは何度も何度もCMを見て、発見や意見をSNSで語り合いました。それが、自走です。「アオハルかよ」というコトバも、10代の言の葉に乗って、ふんわり残ってくれるといいなと考えたキーワード的なもの。いわゆる「キャッチコピー」とはちょっと違う性質ですね。
とはいえ、このような時代において消費者の志向や反応は全く読めないんです。僕は本当にそう思っています。だからあの手この手を用意します。キャンペーンは複数のシミュレーションを想定して時系列で軌道を変えることもあります。特にウェブ発のものは。
そして自分だけでできることには限りがありますからチームで動きます。分からないことや新しいことはチーム内で聞きまくります。若いメンバーとかに。クライアントがチームメンバーの中心。一緒に知見を積んでいく意識です。オーディエンスである消費者ももちろんチームメンバーなんですが、広告に参加している意識を持たないメンバーですね。そうじゃないとうまくいかない。ポジティブな気持ちになって自発的に参加してもらう空気をいかにつくるか。それがうまくいくと自走が始まる。自分では広告と思っていない消費者の活動が結果として広告として機能していくんですよね。