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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.140

思考とプレゼンは、別物だ

2018/09/13

「あさ起きて、ごはん食べて、よる寝た」

そんな中身がない夏休みの感想文を書く姿を心配した父親が、子どもを旅行に連れて行く…。昔々、そんなコマーシャルがありましたっけ。

ぼくは8月末、お休みを利用して金沢へ。その目的は九谷焼をしっかり見ることでした。ご縁あって中村元風さんの「今久谷」に触れる機会には恵まれましたが、この焼き物を創始した大聖寺藩祖前田利治公生誕400年のいま、古九谷をはじめ、改めてその歴史を勉強したかったのです。

石川県九谷焼美術館

…なんて、本当は北陸のウマイものを食べたかっただけ。カニにガスエビ、おでんにかぶら寿司と冬のイメージが強い金沢ですが、いやいや初秋もなかなかで。名残のどじょうはかば焼きや柳川鍋に。はしりの加賀野菜、五郎島金時(サツマイモ)は蒸すだけで。ブリに出世する一歩手前のガンドやフクラギは旬の味覚。あさ起きて、ひる飲んで、よる飲んで。最高の休日でした。

さて。広告会社が持つアイデアづくりの方法論を他分野で商品開発する現場に持ち込むとき、しばしば確認しなければならないのが「思考とプレゼンは、別物だ」ということです。

ヒトとモノ・コトの間に「その手があったか!」という新しい結び付きをつくるプロセスは、はた目から見ればハチャメチャに映るでしょう。例えば「新しいお豆腐商品」を考える場合。あるときは「画期的な濃度の豆乳」という技術から議論を始めたり、かと思えば「過去10年間にわたる家庭内調理に関する統計資料」という客観データを起点にしたり、知り合いのアヤシゲなうわさ話を参考にしたり。

そこには決まった手順なんてありません。ありとあらゆる手を使って、アイデアが手に入るまでヒトとモノ・コトの間を「行ったり、来たり」します。

一方、「マーケットイン」でプロジェクトに取り組む場合、考える段取りもスッキリ、明快です。生活者を分析し、課題を発見、それを解決する手段を発想し、受容性を検証するだけ。そして何より、その「思考のプロセス」をそのまま説明すれば、立派な「プレゼン」として通用します。

「プロダクトアウト」にしたって同じこと。その技術の競合優位性を明らかにし、それを生かした商品案を発想、受容性を検証するプロセスは、ロジカルです。

ところが唯一、アイデアづくりのプロセスだけ脈絡がなく、それをそのまま他人に説明しても混乱を招くのです。しかし思い出してください。夏休みの感想文だって、起こったことを順番に描写するだけではダメでした。「あさ起きて、ごはん食べて、よる寝た」のは事実でしょうが、それよりごはんなら、ごはん。睡眠なら、睡眠。起こったことの意味合いをきちんと整理して書くことの方が重要でした。

アイデアづくりも、そのメチャクチャなプロセスを必死になって説明するのではなく、手に入れた「アイデア」を「課題」との関係で「整理」したものをプレゼンしなければなりません。

例えば、「新しいお豆腐商品」という問いに対する「茶碗豆腐」というアイデア。これは「ダイエットしたい」ターゲットの「炭水化物(ごはん)を取りたくない」悩みを解決する「炊飯の手間もなく、おかずにも合う、パッと茶碗に空けるだけのカップ豆腐」というプロダクトとして「整理」できます。

そこに至るまでのハチャメチャなプロセスには一切触れる必要はなく、最終的にこの図の中で整理された状態のみを説明すれば、十分「プレゼン」として成立するのです。

冷静に考えれば「思考とプレゼンは、別物」なのは当然ですよね。でも、長年染み付いた思考習慣を変えるのは、それだけ難しいということなのでしょう。

どうぞ、召し上がれ!