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インフルエンサーマーケティング2.0No.4

インフルエンサーマーケティングも「運用型」の時代に

2018/10/22

これまで3回にわたって、インフルエンサーやインフルエンサーファンに関するさまざまな分析・考察を行ってきました。第1回では、いくつかのデータから、インフルエンサーマーケティングの概観を伝え、第2回では、インフルエンサーのタイプ分類を、第3回では、インフルエンサーの影響を受ける側のインフルエンサーファンについてタイプ分類を行い、購買行動への影響力や、PR投稿への抵抗感の違いを明らかにしました。

最終回は、インフルエンサーマーケティングのソリューション、電通オリジナルの「EVANGELIST FINDER(エバンジェリスト・ファインダー)」を中心に紹介していきます。

インフルエンサーマーケティングの最新トレンド

インフルエンサーがそのファンに与える影響については、マーケットや企業のマーケティング担当者も注目しています。“Influencer marketing”のGoogle 検索数の2016年上昇率は5000%で、現在も上昇傾向にあります(出典Google Trends)。

また、2016年から2017年にかけてのインスタグラムにおけるPR投稿数は、グローバルで前年比200%、日本国内で400%となっており、国内における伸びは特に顕著です(出典:Klear)。

マーケットの拡張に伴い、インフルエンサーの形態も多様化してきました。ブロガー、インスタグラマー、ツイッタラー、ユーチューバーに加え、昨今では、ピナー(ピンタレストに投稿するインフルエンサー)、ライバー(ライブ配信をするインフルエンサー)、Vチューバー(バーチャルなユーチューバー)、ティックトッカー(TikTokで活躍するインフルエンサー)などが新たに登場しています。

さらに、ことインスタグラムについては、著名なタレント・モデルといったパワーインスタグラマー(※)からマイクロ・ナノインスタグラマー(※)に主役がシフトしてきています。実際、下グラフ(日本国内)からも分かるように、PR投稿を行うインスタグラマーの平均フォロワー数は2016年夏以降下降の一途をたどっています。

その結果、一つの案件で起用するインフルエンサーの人数が増え、多くのインフルエンサーを同時に管理する必要性が生じてきました。

Instagramでのスポンサード投稿数、インスタグラマーの平均フォロワー数
※パワーインスタグラマー:10万以上のフォロワーを持つインスタグラマー
※マイクロインスタグラマー:1万以上のフォロワーを持つインスタグラマー
※ナノインスタグラマー:1000以上のフォロワーを持つインスタグラマー

 

インフルエンサーの長期活用

ブログが主流だった時代は、1記事でそれなりに深い情報を届けることができました。それがインスタグラムやツイッターになると、断片的なコミュニケーションスタイルになるため、1度の取り組み・投稿によりブランドのメッセージをインフルエンサー自身が理解し、フォロワーに伝えることは難しくなりました。

そのため、より高い効果を出すためには継続的な取り組みを行い、インフルエンサーのブランドへのロイヤルティーを高めることが重要となっています。

グローバルでは、62%のブランドがインフルエンサーと「ブランドアンバサダー」契約を結んでいるといわれています(出典:米国広告主協会)。日本のブランドにも既に同様の動きが見られます。

契約したインフルエンサーに対しては、競合排他を要請しているケースも見られますが、タレントの広告契約よりは緩やかな、あくまでインフルエンサーの裁量の範囲内でブランドのPRへのコミットを求めるケースが多いようです。

このように、ブランドがインフルエンサーとの長期的な関係を築きつつ、より高い効果を得るためには、インフルエンサーが、どういうファンにフォローされているのか、普段どういう投稿をしているのか、中でもどういう投稿が反響を得られているのかなどを常時掌握しておく必要があります。

これらの大容量データを、経過も含めて管理することで、ロングテール化したインフルエンサーの「数」と、インフルエンサーとの関係値を育む「時間」を束ねることができます。それにより、複数インフルエンサーの長期活用が可能になるのです。

インフルエンサーPDCAプラットフォーム

そこで、このインフルエンサーの長期活用ニーズに対応するために、電通ではインフルエンサーPDCAプラットフォーム 「EVANGELIST FINDER(エバンジェリスト・ファインダー)」を開発・運用しています。

エバンジェリスト・ファインダーのブランドロゴ

当初は、ブランドに最適なブロガーを検出するマッチングデータベースとして、2012年に運用を開始しました。その後2016年に、インスタグラム、ツイッター、フェイスブックに対応すべく、クロスリング社が提供するインフルエンサーマーケティングプラットフォームのSPRAY (スプレイ)をベースに追加開発を行い、電通専用の高機能バージョンとしてアップデートしました。

インスタグラマーのケースについて、簡単に機能をご説明します。現状、登録している約4500人(9月14日現在)のインスタグラマーのフォロワー数推移や平均エンゲージメント率(※)、使用ハッシュタグなどはもちろんのこと、フォロワーのデモグラフィックデータ、画像解析AIによる本人の日頃の投稿特徴、投稿特徴ごとのエンゲージメント率などを、常時可視化しています。

インフルエンサーPDCAプラットフォーム「エバンジェリスト・ファインダー」

これにより、あるインスタグラマーを起用した際に、どういう属性のどういう趣味嗜好を持った人にリーチできそうかということが分かります。またそのインスタグラマーが、日頃ファッション系の投稿を多く上げているとか、美容系の投稿をすると特に“いいね”が多くつく(=エンゲージメント率が高い)、といったことも分かります。

そうすることで、数多くのインフルエンサーの中でも誰を起用すべきか、そして起用した結果、狙い通りの効果が出たのか否かについて、精緻に検証することが可能になりました。

※エンゲージメント率:(いいね+コメント)÷フォロワー

 

インフルエンサーPDCAモデル

このように、EVANGELIST FINDERのソリューションを活用することで、インフルエンサーマーケティングのPDCAを精緻に回すことが可能となりました。それでは、具体的にどのようにPDCAを回しているかについて説明します。

PLAN:カテゴリーと文脈のシミュレーション

まず、ブランドの課題やターゲットインサイトを読み解き、どういう文脈でどんなインフルエンサーに語られるとよいかをシミュレーションします。このとき、文脈は訴求ポイントやターゲットカテゴリーごとに複数シミュレーションし、どのパターンが効果的かを検証します。

さらに、起用候補のインフルエンサーを投稿特徴カテゴリーでマッピングし、どの領域に属するインフルエンサーを起用するべきか検討します。例えば、UV美容液の案件で、屋外シーン切り口と、美容切り口のインフルエンサーをマッピングし、それぞれでエンゲージメント率の高いインフルエンサーを優先的にアサインします。

起用予定インフルエンサー2軸マッピング

DO:インフルエンサーの体験と発信

次に起用したインフルエンサーに対して、文脈に応じてテスティモニアル(推奨意見)、商品発表会招致、体験イベント招致、キャンペーン参加などの条件下で投稿(PR投稿)を依頼します。

検索による流入を見込んだり、文脈をより強化したりするために、投稿時に特定のハッシュタグをつけるよう依頼することもあります。またイベントであれば、ブランド理解を深めてもらうために、ブランド体験を強化するといった工夫をします。

CHECK:投稿結果の分析と検証

続いて、投稿に対する反応(いいね数、コメント)を集計・分析し、事前に設定したどのパターン(投稿文脈やインフルエンサーカテゴリー)が効果的だったのかを検証します。

さらにコメントのポジネガ分析も行い、ポジティブなコメントについては、ブランドに対する好意なのか購入意向なのかといった質の分析をすることで、フォロワーに対してどのような影響を与えたかまで検証します。UV美容液の案件では、屋外シーン切り口の方が、美容切り口よりも商材との相性が良かったことが分かります。

インフルエンサー投稿マッピング

ACTION:インフルエンサーのブランドアンバサダー化

最後に、引き続き起用するインフルエンサーを決定します。新規で起用する場合も、効果の高かったインフルエンサーと同タイプのインフルエンサーを起用していきます。

同時に効果の高かった投稿文脈、画像、ハッシュタグ、テキストなども分析し、次のプランニングに役立てます。このようにPDCAを回すことでさらに効果が高まるのはもちろんのこと、継続起用することでインフルエンサーのブランド理解を深めることにもつながります。

インフルエンサー投稿結果マッピング

実際に事例を見てみましょう。下記は、某コスメブランドが体験イベントを2回実施し、インフルエンサーを招致してPR投稿を実施した際の結果の比較です。2回のイベントは3カ月の間を空けて実施され、同じアイテムを、同じ予算で、同じ人数のインフルエンサーを招致しました。

見ての通り、エンゲージメント率、ポジティブコメント量ともに、アフター(赤バブル)がビフォー(青バブル)に比べ、大きく改善していることが分かります。

某化粧品メーカーインフルエンサー投稿結果比較

インフルエンサーマーケティングは「予約型」から「運用型」へ

これまでのインフルエンサーマーケティングにおいては、「誰を起用すべきか」のみに焦点が当たりがちで、起用においてはフォロワー数から推測される影響力の大きさが最大の基準となっていました。その結果、施策後の効果検証ができず、PDCAを回せずに単発で終わってしまうことが課題でした。

これに対して、前述の通りEVANGELIST FINDERを活用することで、露出することがゴールとされるいわゆる「予約型」から、PDCAを回しながら最適解を見いだす「運用型」のインフルエンサーマーケティングが可能となりました。

海外広告賞のカンヌライオンズで、2018年からソーシャル&インフルエンサー部門が新設されました。これに象徴されるように、これからのインフルエンサーマーケティングにおいては、「誰が」(WHO)だけでなく「何を」(WHAT)のクリエーティブに注目が集まっています。

「運用型」のインフルエンサーマーケティングには、PDCAを回すことで効果を高めるだけでなく、継続的なインフルエンサー活用により、インフルエンサーのロイヤルティーとブランド理解が深まり、ブランドメッセージを効果的に訴求するクリエーションにつながるというメリットもあるのです。

このように、活用するインフルエンサーのロイヤルティーとモチベーションを最大化していくことが、これからのインフルエンサーマーケティングに欠かせない視点といえます。