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AIの「第二の夜明け」はまだか

AI MIRAIが考える、ちょっと先のAIとシゴトNo.4

2018/12/25

AIの「第二の夜明け」はまだか

東大・松尾氏と考える「変化と向き合うために必要なこと」

「AIブーム」は、単なる流行から実践のフェーズに移り始めています。今後数年の間に、どのような局面を迎えるのでしょうか。そして、それに伴う企業の在り方とは。

AI研究の第一人者である東京大の松尾豊特任准教授と、電通のAIプロジェクト「AI MIRAI」のリーダーである児玉拓也氏が語り合います。

(左から)松尾豊特任准教授(東京大)、児玉拓也氏(電通)
(左から)松尾豊特任准教授(東京大大学院工学系研究科)、児玉拓也氏(電通 AI MIRAI統括/AIビジネスプランナー)

インターネットの歩みに見る
“AIが普及する瞬間”とは

児玉:AIはビジネスへの応用が少しずつ進むものの、まだ多くの企業にとって黎明期で、新規事業やR&Dの一環という位置付けも少なくありません。一方、グローバルではAIの活用が本格化しており、後れを取ることは大きなリスク。では、日本でAIの活用が一気に進む「第二の夜明け」はどう訪れるのでしょうか。

松尾:何か明確なブレークスルーが起きるというより、さまざまな現象が積み重なって、連続的に進展していくと考えています。よくAIやディープラーニング(※1)の普及で例えられる20年前のインターネットも、何かひとつがきっかけになったというより、次第に浸透していきました。ディープラーニングもすでに医療画像での活用や顔認証は実用化され、製造業の検品作業でも活用され始めています。この流れで連続的に浸透が進むのではないでしょうか。

児玉:領域ごとに差はあれど、連続的に広がっていくと。

松尾:その中でも大きく進展するタイミングは、ビジネスモデルと結び付く瞬間だと思います。ネットで言えば検索エンジンと検索連動型広告が結び付いたときで、マネタイズが容易になり活性化し始めたのですが、ディープラーニングはまだそれが見当たらない。

児玉:確かによく聞かれるのは、AIによるマネタイズの手法が「開発の受託」か「ライセンスの利用料」あたりしか思いつかないという声です。特にAIはtoB向けが多いので。それでスケールしないと言われることも多いです。

松尾:ただ、近いうちにtoCにつながる汎用(はんよう)の技術は出てくるでしょう。ネットの普及に当てはめると、今は1998年くらい。ポータルサイトが重要と言われながらまだなかった時期で、ネットではそこからさまざまなキラーアプリが登場しました。AIも同じようになると思います。

※1:ディープラーニング
AIを支える機械学習の中でも特に高度な技術であり、深層学習とも呼ばれる。機械学習は画像などの膨大なデータ群から法則などを見つけ学習していくが、深層学習はその学習機能が進化しており、特に難しい認識や判別が可能。グーグルが開発した「アルファ碁」にもディープラーニングが使われている。
 
松尾豊特任准教授(東京大)

変化する広告・マーケティング、鍵は「ストーリー性」

松尾:AIが普及すると、ざっくり言えば人間は王様の生活ができるようになります。身の回りの作業、それも料理などの極めて属人的な作業までも自動化されますから。

児玉:それとともに、広告やマーケティング領域にもAIは大きな変化をもたらすと思います。

松尾:同感です。GAN(※2)などを使って、高品質な画像を自動生成できるようになるので、状況や人に合った広告も出せるようになります。いわば「社会における概念生成のプロセス」を人に合わせて提示できる。そのときにどんなものが出てくるか興味深いですね。

児玉:ドラマなら画像の自動生成がシームレスにできるとCMとして独立させずに、ドラマの中に広告を自然な形で組み込むこともできますよね。広告とコンテンツの区分がなくなると、より適切な文脈で伝えることができるかもしれません。

松尾:あるいは、ドラマの小物はGANで映像を自動生成して、スポンサーに合わせて変更するなど。すると、再放送の時には小物を代えることもできます。

児玉:こういった変化は確実に起きてきそうですね。

松尾:広告チャネルも変わるのではないでしょうか。一例がAIによる家庭向けの片付けロボットで、これが普及するとティッシュやトイレットペーパーなどの消費財もロボットが自動で注文してくれます。すると、「どの銘柄を買うか」という選択は片付けロボットのデフォルト設定によってくる。消費財の銘柄にこだわらない人なら、大抵はデフォルト設定の商品を買うでしょうから。

児玉:片付けロボットのデフォルト設定が、広告として価値を持つわけですね。広告チャネルも一変してくるかもしれません。

松尾:SiriやアマゾンエコーなどのAIが発達してコンシェルジュのような存在になると、彼らもひとつの広告チャネルになるでしょう。ただ、AIに提案された店が実は広告契約だったと知ったらユーザーは気分が悪い。となると、基本的にAIのコンシェルジュに広告は乗らないはずです。でも、私は乗る可能性があると思うのです。つまり「このAIが勧めるなら行ってみよう」という形で。

児玉:「この雑誌の広告だから行ってみる」という感情に似ているかもしれません。

松尾:そうです。仮にAIがキャラクターを持っていて、ユーザーに「ここの店、私のオススメなので行ってみてください」と言う。もしユーザーとAIの関係性が構築されていれば「仕方ない、おまえが言うなら」となるかもしれない。これはリアルの人間関係でもありますよね。

児玉:つまり、コミュニケーション設計そのものが広告になると。

松尾:そして、その中での付加価値として重要になるのが「ストーリー性」です。AIは「自動化」の文脈で語られることが多いですが、仮に建築の設計を自動で行っても設計費が削減されるのみ。しかし、有名な建築家風の設計を自動でできるとなると、逆にその物件の販売価格は高くなる。この技術はすでに視野に入っていますし、マネタイズになります。

児玉:いわゆる「ストーリーテリング」ですよね。今まさにマーケティング領域で重要視されている概念であり、それをAIが提供するとマネタイズされると。

松尾:はい。ディープラーニング発展の鍵は「自動化」と「ストーリー性」です。王様がお金を使うのも、有名な画家が描いた絵や、ある地方でしか採れない食材など、ブランドや希少さといったストーリー性のあるもの。それを今と違う形で提供するのがディープラーニングの未来像ではないでしょうか。

※2:GAN
敵対的生成ネットワーク。画像などを生成するAIと、その生成物のクオリティーを判別するAIを作り、敵対関係の中で二つのマシンの精度を上げていく技術。例えば生成側のAIが、データベースをもとに犬の画像を生成し、対して判別側のAIは、その画像が犬としての要素を満たしているか分析する。その結果をフィードバックすることでお互いが賢くなっていく。これを繰り返し、画像の生成精度や判別精度を上げていく。
 
児玉拓也氏(電通)

これからの企業に必要な「理解」と「正しい投資」

児玉:ここまで未来の話をしてきましたが、一方で足元を見ると、昨年はAIの実証実験などが相次いだものの、今は一段落した印象。現状はまだ開発費が高く、技術的にも人がやった方が安くて早いという声もある中で、開発にブレーキがかかる危惧もあります。企業はどのような投資を続けていくべきと考えていますか。

松尾:さまざまな動きを見ると、AIと言いながら実態は単なるIT化、データ化であるケースも多い。追い付いていなかったIT化を、このタイミングで行っているだけで、例えるなら「マイナスをゼロにすること」です。私がずっと言い続けているのは、今回のイノベーションは「ディープラーニング」だということ。IT化やデータ化の話と、アルファ碁のようなディープラーニングの話は全く別物で、今まで不可能だった領域が急に可能になったのがディープラーニングです。例えるならゼロからプラスにすることです。その認識を明確にした上で投資すべきではないでしょうか。

児玉:確かに話を聞くと混同されているケースもあります。ここをきちんと切り分けていかないと、ディープラーニングを使った未来のビジネス像を描きにくいかもしれません。

松尾:例えば医療画像は、これまでの技術ではデータ分析が難しかった。しかし、ディープラーニングでは新たな分析ができます。他の分野も同様で、今までデータにするのが非常に難しかった膨大な画像や映像が、今後高い価値を持つわけです。

児玉:だからこそ、何がディープラーニング時代の資産になるのか、今のうちに整理すべきかもしれません。何げなくためていた画像データが、貴重なビジネスの種になることもあります。

松尾:さらに言えば、ディープラーニングを見据えて画像や映像を“取りにいく”べき。それが未来へ向けたビジネスの分岐点になると思います。大切なのは、ディープラーニングでどう利益を上げるのか、今から企業が明確にビジョンを描くことではないでしょうか。

児玉:それほどディープラーニングが起こす技術革命は大きいということですよね。

松尾:はい。何より、ビジョンを描いて未来の利益をはじき出しておくからこそ、明確な姿勢で投資ができます。シリコンバレーの企業はそれを細かく予想していて、ゴールが見えるからこそ惜しみなく投資できる。もちろん、ここでいう投資には、人材への投資も含まれます。

児玉:AI領域の人材育成は今とても注目されているポイントです。松尾研究室でもディープコアへの協力などをしていますが、この人材育成においても、企業のビジョンが関係してくると。

松尾:そうですね。ディープラーニングによってどんなビジネスができるようになるのか、それがどれだけの利益をもたらすのか。そのビジョンがあると、人材にいくらお金を投入できるか見えてきます。すると、高い人材費用をためらいなく捻出できる。結果、そこに人が流れ込んでいくのです。海外の企業はそれをすでに始めています。

児玉:ディープラーニングを使ったビジョンをできるだけ明確に描くことが人材確保にもつながるということですよね。

松尾:はい。ですので、まずはディープラーニングがどのような技術なのか、それが何を可能にするのか、正しく把握しなければなりません。それがビジョンにつながりますから。新しい技術を深く理解することで、新しいビジネスの発想が生まれるはずです。

児玉:しかもいち早くやらないと、冒頭で話したようにAIの発展は連続的に起こっていて、いつのまにかディープラーニングが“標準”になっている可能性もあります。

松尾:変化の時代に入っていく中で、グローバルから後れを取ることは致命的です。特に日本の場合、組織が大きくなると機動力が落ちやすい。内部事情で制約が起きたり、内部で意見を通すことに時間がかかってしまったり。自らスピードを落とすのは避けなければいけません。そう考えると、急速に技術が進化する中で、組織の在り方を見直すことも、ディープラーニングが発展する時代に必要なことではないでしょうか。

AI MIRAIとは?
さまざまな領域でのAIのビジネス活用を模索し、実践知をためる電通の横断型プロジェクト。広告会社ならではの社会や生活者に対するインサイト、アイデア、ネットワークを、AIという新しいフィールドに応用する。テクノロジーにより自らのビジネス/働き方を刷新し続けると共に社会に新たな価値を提供することを目指すプロフェッショナル集団。