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アイデアが生まれる感覚を身体でつかむ~企画身体学

電通インターンで伝えるアイデア脳No.1

2019/02/14

アイデアが生まれる感覚を身体でつかむ~企画身体学

電通は、2018年の「電通インターンシップ」を東京本社、関西支社、名古屋支社で実施。参加した学生たちは、第一線で活躍する電通のクリエータ―やプランナーによる講義や演習を通して、人の心を動かすアイデア発想法を広く学びました。

本連載では、インターンシップの講師を務めた電通社員が登場。それぞれが自分の思考法や企画術、仕事の取り組み方などについて語ります。

第1回は、クリエーティブソリューション・ディレクターの小布施典孝が、アイデア力を身に付けるためのスキーム「企画身体学」を紹介します。

企画を考えることはスポーツに似ている

僕は、アイデア力を身に付けるためのスキームを「企画身体学」としてまとめていて、若いクリエーターに講義をする機会も頂いています。なので、ここではその内容についてお話しできればと思います。

まず、「企画身体学」を考えた経緯ですが、企画を考えることはスポーツに少し似ているな、と思ったのがきっかけです。

というのも、僕は学生時代に体育会野球部に所属していて、練習量だけは誰にも負けないぐらい頑張った自負があったのですが、悲しいことにさっぱり上達しませんでした。なので、ただやみくもに量をこなせば上達するわけではなく、うまくなるためにはセンスのようなものが必要で、そのセンスをつかむ方法を分かった上で練習をしないといけない、ということを強く感じました。

その後、電通に入社し、企画の仕事をしていく中で、どうすれば良い企画が出せるようになるのかを考えていました。知識をどんどん蓄えれば、ヒットする企画が生み出せるようになるのかというと、どうも違う。やはり企画が上手になるためのセンスのようなものが必要で、センスを高める方法が分からないままに量をこなしていてもアイデア力というのはなかなか身に付かないと感じました。

では、どうすればセンスを高められるのか?野球はヒットを打った時の感覚を自分の中に染み込ませていくことで、次第にヒットを打てる体質になっていくのだと思います。だとしたら、それを応用するとどうなるんだろう、と考えました。つまり、良いアイデアを思い付いた時の感覚、その時の脳の回路の使い方を自分の中にストックしていくことで、良いアイデアが出せる体質になっていくのではないか。

そこで、ヒットする企画を生み出せる人は、どのように脳の回路を動かしているのか、はたまた自分がいい企画を出せた時は、なぜその企画を生み出せたのか、それらを研究し、「企画身体学」としてまとめました。これは、アイデアの発想法や企画力を身に付けたい人のための手引きのようなものです。

「企画身体学」詳説!

「企画身体学」では、アイデアを生み出すための方法や企画を考える時のポイントなどを幅広く解説しています。ここからはその内容についていくつか紹介します。

●好奇心の毛穴が開く体験

人に面白いと思ってもらえるアイデアを生み出すためには、まずは自分が遊び心を持っていろいろな体験をして、好奇心の毛穴が開くような感覚をたくさんインプットしていくことが、何よりも大切です。

最近では、レビューを読むだけでも、行った気になったり体験した気になったりしがちだからこそ、きちんとその場に行って自分の肌で感じることが、とても重要です。なので、「自分の好きなものはコレ」と決めつけることなく、これも興味が持てるかもしれない、あれも好きかもしれない、そう思って、楽しんでみることが、企画体質になるための第一歩だと思います。

●初動脳のインストール

お題を出された時に、まずどこから考え始めればいいのかという、はじめの頭の動かし方の反射神経みたいなものを、僕は「初動脳」と呼んで重視しています。この「初動脳」を身に付けるためには、たくさんのケーススタディーを知識として頭の中に詰め込むだけでは不十分で、自分の身体を一度通す「追体験」によって、筋肉をつける必要があります。

自分がいいアイデアだな、と思うケースがあったら、そのアイデアが生まれた元々のお題はなんだったかを想像してみます。そして、そのお題が自分に与えられたとしたら、どう脳みそを動かすことで、その好きなアイデアにまでたどり着くのか、そのアイデアがポンっと生まれる追体験を自分の体を通して何度かシミュレーションしてみるのです。そうすることで、自分になかった筋肉をつくっていくことができます。知識のインプットよりも、筋力のトレーニングの方が、アイデア体質になっていく上では、重要だと認識しています。

●アイデアの腸内発酵時間

最新の学説では、「腸は第二の脳」どころか「腸は第一の脳」という説があるそうです。これは、人は脳ではなく腸で物事を考えていて、それが信号として脳に送られているという説です。自分の経験を振り返っても、アイデアというのは、考えたらすぐ出てくるものではなく、何かの拍子に突然ふっと脳に湧いてくることの方が多い。もしかしたら腸内細菌が一生懸命考えてくれていて、その中の面白いものを脳がキャッチしているだけなのかもしれません(笑)。

でも、そう考えると、腸内細菌に考えさせる時間=アイデアを発酵させる時間が必要で、そのために、課題や与件、ターゲットインサイト、最近面白いと思ったこと、話題になっているニュースなど、とにかく思いつく限りのことをごちゃごちゃに混ぜ込んで、体の中にカオス状態をつくることが重要です。なぜなら「カオス状態からの発酵」という時間があって初めてアイデアは出てくるからです。そもそもアイデアというのはロジックの延長線上には発見できないものなので、最初から理路整然と考えないことがポイントです。

●思考迷子を救う道しるべ

意図的にカオス状態をつくるわけなので、途中で何を考えればいいのか、何を考えていたのか、自分でも収拾のつかない局面がやってきます。慣れてくると、この局面になったということはゴールが近い、という気持ちになれるのですが、どのみち思考迷子になっている状態なので、この状況を打破する道しるべを持っておくと便利です。

基本的に、どんな領域のどんな企画も、「現状把握→課題→コアアイデア→エグゼキューション」の四段論法でまとめることができるので、この一本線を常に頭に入れておくことがいいと思っています。

アイデアは理路整然としたロジックからは生まれないので、意図的につくり出したカオス状態がまずあって、そこからモンモンとした発酵時間を経て、ある時、アイデアが突発的に生み出されるというプロセスをたどります。ですが、そこで生み出されたアイデアは、なんとなく直感的にはいいアイデアだと思えるのだけど、なぜだか分からない、という状態で生み出されるので、どんな一本線を引くと、誰にでも分かる4段論法として言語化ができるのか、最後は左脳でしっかりと整理していくことで、研磨されていきます。このプロセスはとても大切なので、インターンの学生たちにも重要な点として伝えています。

●偶発性を呼び込む環境設定

アイデアは、五感の受ける刺激が変化することで生まれやすくなるといわれています。例えば、夜寝る前に照明を落としたらアイデアが浮かんだ、などの話をよく聞きますが、それは身体感覚が変わるからです。音楽を聴いたり、シャワーを浴びたり、街を歩いてみたり、五感に与える刺激を変える環境をつくり出すことが、偶発的にアイデアが浮かぶきっかけになります。なので、外部刺激の与え方を、自分なりに工夫してみるといいのではないでしょうか。

一方で、これは逆の話ですが、「意図的にゾーンに入る」ことも大切だと思っています。スポーツの世界でよく言われる超集中状態を“ゾーン”と呼びますが、気がついたら2〜3時間たっていた、という超集中状態こそが、あらゆる無駄を削ぎ落とした切れ味鋭いアイデアを磨き上げてくれます。最近では、ひっきりなしにメールやメッセが飛んでくるので、そういうものを一切気にせずにゾーンに入れる時間を持てるかどうかが、生産性向上にもつながってくると思います。自分がゾーンに入りやすい時間帯や空間を、自分なりにどう確保しておくかがポイントです。

●アイデアジャンプで高く飛ぶための踏み込み台探し

企画における踏み込みとは、課題設定を指します。高くジャンプするためには、グッと踏み込む必要があるように、飛躍したアイデアを生むためには、課題をどれだけ深掘りできるかが重要です。

例えば、「肩凝り」という課題を解決するために、マッサージや鍼治療をするのは対処療法で、肩凝りの原因が目の疲れにあるなら、目を治さないといけない。つまり、踏み込み設定というのは、肩が凝っているから肩を治すアイデアを考えることではなく、肩が凝る原因を深掘りして、目が疲れているということに気付くこと。課題を深掘りすることで、本当に解決するべきことが見えてアイデアが生まれます。

●うなずき同調呼吸法

どんなにいい企画も、最後はお題を出してくれた依頼主に採用されないことには、何の価値もありません。そういう意味では、僕らクリエーターがクリエーター目線で、いきなりこれがいいアイデアです!と提示するのは、乱暴なことだと思っています。しっかりと依頼主の目線で納得してもらえるように、オリエンテーションの咀嚼から始めて、「まず僕たちはこう考えました。でもそれだとここに落とし穴があると思いました。そこで次にこう考えました。でもこの部分が足りないことに気付きました。そのためこう考えました…」という感じで、考えたプロセスをきちんと説明することが大切です。

そのために、企画書はだらだらとした文章ではなく端的にまとめたり、プレゼンテーションの場では、企画書をめくるタイミングや話すスピードなども調整し、息を吸う・吐く、というのもシンクロさせていくなど、いかに気持ちよくうなずいてもらえるか、聞き手の立場に立って考えつくすことがポイントです。

アイデア力が伸びる人は、素直な人

クリエーターとしての自分は、自分の中にある世界観を世の中に打ち出したい、という表現欲求よりも、誰も疑っていない常識や、当たり前の慣習に目をつけて、それをひっくり返すことで、多くの人に気づきを与えたい、という欲求の方が強いタイプです。

インターンに講師として参加し、学生たちと接していると、短期間ですごく伸びるタイプの学生がいることを実感します。一方で、社内の後輩で初めはまったく伸びずに、4・5年ぐらいたって、突然開花するタイプもいます。アイデア力が伸びる人ってどんな人なのでしょうか。自分も、多くの後輩たちを見てきましたが、スキルうんぬんよりも、実はその人の性格が大きく影響するのではないか、と最近感じています。

若手についていえば、アイデア力が伸びるタイプは、結局は何でも吸収しようとする素直な人に尽きる、と思っています。クリエーターだからといって個性的でなければいけないってことはない。でも意外と、個性的に見せているけど、すごい素直な子っていうのもいますよね。

一方で、思い込みが激しいタイプやプライドが高い人はあまり伸びない気がします。伸びしろにフタをしてしまっている感じでしょうか。なので、いかに自分のプライドを壊せるかというのは大切なポイントだと思います。「美学は持つべきだけど、壊せるものでもある」ということを本能的に分かっている人の方が伸びる気がしますね。

アイデアの出し方は、本来的には手取り足取り教えてあげるものではないと思っています。これまでの経験上、教えてあげる、というスタンスをとった時はあまりうまくいかず、一緒に成長していく、というスタンスの時の方が、自分も含めて一緒に成長していけた実感があります。「教育」というよりも、共に育つ「共育」の考え方ですね。

おそらくそれは、アイデアの仕事が、知識の伝達ではなく、身体感覚の伝授によって身に付くものだからではないでしょうか。一緒に走って、跳んで、汗かいて、感覚をつかんでいく。だからこそ、この先輩、自分の走り方とは違うけど、ちょっとまねしてみようかなって、自分の殻を軽やかに壊せる素直な人が伸びるのかもしれません。

チームづくりも同じで、完成された「できる人」だけでそろえたチームよりも、「できるようになりたい」と思っているガツガツした人たちでチームをつくる方が僕は好きです。そっちの方が、とんでもない爆発が起きることがあるからです。この勢いやハングリー精神みたいなものは、アイデアを生み出す仕事においてはかなり重要で、そのガツガツ度を嗅ぎ分ける嗅覚は、自分の中でいつも大切にしてチームづくりをしています。

「企画身体学」は、つまるところ自分の中にある感覚を取得する術です。野球の打撃フォームも人によってバラバラなように、アイデアでのヒットの打ち方も、人それぞれ違うはずです。僕自身も、まだまだ理想のフォームにたどり着けていないので、これからも引き続き模索していきたいと思っています。