loading...
MENU

アイデアとは差分である。「爽」で新たな食体験を生んだ発想の原点

2019/07/26

アイデアとは差分である。「爽」で新たな食体験を生んだ発想の原点

アイス商品としておなじみのロッテ「爽」。その商品をキャンバスに見立て、“食べる”だけでなく“お絵かき”を楽しむキャンペーンが話題となりました。

お絵かき専用のスプーンも制作されたこの企画は、「爽」の売り上げに貢献しただけでなく、新たな食体験を提案したとして、ADFEST(アジア太平洋広告祭)2019のブランドエクスペリエンス&エンゲージメント部門で金賞を獲得し、世界でも高く評価されました。

同キャンペーンのクリエーティブディレクターを務めたのが、電通の小布施典孝氏(第3CRプランニング局 グループ・クリエーティブ・ディレクター)。人気アイスをキャンバスに見立てた新たな食体験のアイデアはどう生まれたのか。その発想の裏側に迫ります。

小布施さん
小布施典孝氏(電通 第3CRプランニング局)

注目したのは、「爽」の個性である“四角い形”

──どのようにして企画のアイデアが生まれたのでしょうか。

僕らのチームは、3年前から「爽」のリブランディングに携わっています。ロングセラーの同商品ですが、その分“当たり前にあるもの”というイメージが定着しつつありました。そこで、もう一度ブランドの輪郭をハッキリさせて、存在感を発揮させるのが狙いでした。
 
リブランディング1年目に、新たなブランドコンセプト「NO THINK 爽ハッピー」というものを提案しました。今、私たちの日常にはデジタルが当たり前のように浸透し、いつでもスマホで仕事のやりとりをできたり、メールを返信できたり、みんな忙しくなっています。その中で、アイスを食べる時間だけは何も考えずのんびりしようという意味です。

リブランディングの3年目は、このコンセプトを実際に体験してもらうフェーズとしました。そして生まれたのが“お絵かき”のアイデアです。

爽ハッピー
ADFEST(アジア太平洋広告祭)ブランドエクスペリエンス&エンゲージメント部門 ゴールド、シルバー、ブロンズトリプル受賞、広告電通賞アクティベーション部門金賞、日本マーケティング大賞奨励賞受賞、「お絵かき爽ハッピー!」

はじめに、どんな体験で「何も考えずのんびりする」ことを味わってもらうか、チームでアイデアを出しました。極端にいえば、芝生に寝転んで空を見ることも「のんびりする」ことに当てはまります。いろんな意見が出ましたが、やはり商品を主軸にした体験の方が、その商品でやる理由になると考えました。

そこで目をつけたのが「爽」の形です。丸いフタのアイスが多い中で、これは四角ですよね。ブランドの個性として印象が強いですし、しかもキャンバスっぽい。ならば、そこに絵を描いてから食べるのはどうかと。お絵かきは子どもの頃にしていた遊びですし、「童心に帰る」という意味で掲げたコンセプトにも通じます。

しかも、今は“1億総クリエーター”の時代。SNSを通じて、誰もが創作者になることができます。「爽」で“お絵かき体験”という企画をうまく投げかければ、SNSで盛り上がると思ったんです。
  
さらにチームで会議を重ねる中で、「絵を描くための専用スプーンがあるといい」という話になり、「爽ハッピースプーン」を開発しました。お店でアイスを買うと、スプーンをもらいますよね。あのスプーンに着目したキャンペーンはこれまでなかったと思うので、新しさが出ると考えました。

爽ハッピースプーン
爽ハッピースプーン

チームの全員が「この企画は自分のアイデアだ」と思っている

──企画のアイデアを出す上で、心掛けていることはありますか。

僕が勝手に思っているだけかもしれませんが、僕らのチームは、チームワークの良さが特徴だと思っています。いろんな領域の専門家たちがいますが、フラットにアイデアを出し合って、交じり合って議論をするので、みんなが出したアイデアに、みんなの意見がどんどん積み重なっていって、より良いものに昇華されていく。なので、誰のアイデアか、ということはなく、チームの全員が「この企画は自分のアイデア」だと思っているんじゃないでしょうか。

統合キャンペーンにおいては、こういった形で、みんなのアイデアが積み重なっていけるものほど、いいアイデアになると個人的には思っていて、一人では到達できない高みにアイデアが昇華されていくための雰囲気や合いの手や環境をどうつくるのか、そこには結構な神経を注いでいます。

“1億総クリエーター時代”と言いましたが、誰でも押し付けられてやるのは好きじゃないはずです。いきなり専用スプーンを出して「はい、それでは『爽』でお絵かきしましょう!」と押し付けるのではなく、まずはお絵かきの要素をCMにさりげなく入れ込むところから仕掛けました。広瀬すずさん出演のCMを見ると、気づいたら「爽」に絵が描いてあると。その上で、興味を持ってくれた人中心に、SNSで作品を投稿するキャンペーンを実施。興味を持った方はそこで楽しめる仕組みにしました。あくまで「気になった人が、気になったからやってみる」という構造です。

そして2カ月後に、ネット上での盛り上がりを受けて、という文脈で「お絵かき専用スプーン」をお披露目しました。さらには、幸福学の研究者である慶應義塾大学の前野隆司教授にも協力を依頼。お絵かきしながらアイスを食べる効果について、科学的なエビデンスを頂きウェブサイトなどで公開しました。反響は、自分の想定以上のもので、すごくうれしかったですね。

マンガとフリー素材を組み合わせた「新しい体験」も話題に

──このキャンペーンに込めた、小布施さんの思いはどんなものですか。

このキャンペーンは、クライアントさんと一緒になって作り上げていったアイデアなんですが、やっぱりモノが動くのは、きちんと商品が真ん中にあること、きちんと食体験が真ん中にあること、だと教えていただいたので、とにかくどうすれば「NO THINK 爽ハッピー」な食体験ができるか、そこから逃げずに、とことん考え抜きました。そこで出てきた「アイスにお絵かきして食べる」という新しい食体験のアイデア。これを、いかにスプーンという販促アイデアだけに留まらせずに、マスCMや、イベント、PR、ウェブまで含めた大きな統合キャンペーンにできるのか、ここに思いを賭けています。

僕は、本流のクリエーター出身ではなく、ストラテジックプランナーという、マーケティングの戦略や課題から考える職種でキャリアを積み、そこからクリエーティブまで領域を広げてきた異端児です。それもあり、人がどんな体験をすると良い効果が生まれるか、人がシェアしたくなる新しい体験は何か、というモノや人がしっかりと動くブランドエクスペリエンスを新たにつくることに興味があります。

昨年携わったマンガの「ワケあり無料版」もそのひとつです。「100万の命の上に俺は立っている」という一度読んだらハマる、面白いマンガがあるのですが、マンガは買わないと、読めない。だからといって、読んでもらうために無料で内容を公開してしまったら、その後、買ってくれなくなってしまう。このジレンマにどう向き合えばいいのか、というお題に対して、マンガの絵だけをすべてフリー素材に差し替えた「ワケあり無料版」を公開しました。読めるけれど、さらにきちんとした絵でも読みたいので、お金を出して正規版を買いたくなる。新しい試し読みのカタチとして大きな話題になりました。

ワケあり無料版①
ワケあり無料版②
ADFEST(アジア太平洋広告祭)インタラクティブ部門ブロンズ、ニューヨークADCインタラクティブ部門ブロンズ受賞
「100万の命の上に俺は立っている」ワケあり無料版

また、心電などの生体データが読み取れるスマートウェアを作成しているベンチャー企業、ミツフジのブランディングも同様です。心電とは単なる無機質な折れ線データではなく、本当はドキドキしたりワクワクしたりしている、一人一人の“こころ模様”なのではないか、との着眼から、読み取った個人の心電データを、花のようなデザインにリアルタイムで変換して見せるシステムを開発し、CESで披露しました。この会社にはとてもすてきな社長がいらっしゃるのですが、社長と話をしている中で心電の可能性の大きさを知り、心電がもたらす新しいブランド体験を通して、会社のポテンシャルを感じてもらえるようにと考えました。

Heart Signature①
Heart Signature②
スパイクスアジア ブロンズ受賞 「Heart Signature」

新しい体験にはアイデアが必要ですが、「良いアイデアとは何か?」と考えたとき、僕は「良いアイデア=想定外-想定内」だと定義しています。つまり、人が予想していることや思っていること、今までの常識などと差分があればあるほど、誰もが驚くアイデアになる。そして、その後にある種の伏線の回収ともいえる納得感が後追いでくる必要があります。

そのため、アイデアを作るときには、まずは主題との差分が大きいものをいくつも考えます。その上で、最終的に腑に落ちるものはどれなのかを探して、具現化していくという手順を踏みます。「爽」も同じで、アイスとお絵かきは差分が大きいので強いアイデアになりそうだという予感を持った上で、「爽」の四角い容器の形や、「童心に帰る」「のんびりできる」という意味において、伏線回収できる論理的なストーリーが組み立てられると思ったので、これはいいアイデアになる、と思いました。

この手順がアイデア発想においては重要で、論理から考え始めると差分が出なくなって、驚きのないつまらないものになります。まずはできるだけ遠くに飛ばして差分を作り、最後に意味を通す。それが自分のチームの発想法になっています。

クリエーティブというと、表現やアートだと思われることが多いかもしれませんが、社会課題を解決したり、人を動かす動機になったり、もっと世の中を良くできる便利な手段だと僕は思っています。なので、体験の設計やブランディングのノウハウといったクリエーティビティの力を、世の中のためにつながるアクションにどんどん活用していければと思っています。