loading...
MENU

これからのセオリーは、「取り組みクリエーティブ」

2019/11/06

これからのセオリーは、「取り組みクリエーティブ」

クリエーティブなアイデアを活用する領域が、ますます広がっています。これまで、主に「広告」に使われていたそのアイデアが、近年、企業の事業活動や経営そのものに取り入れられているのです。

例えば、伊勢半が今年の採用活動で取り入れた「顔採用」。自分らしい自由なメイクと服装で面接に来てもらう試みは、大きな話題となりました。あるいは、プロ野球の北海道日本ハムファイターズが中途採用向けに用意した「家族円満転職サポートツール」。北海道に移住するという決断が、転職をする上で一番のネックになることを考えて、家族への理解を得るためのプレゼン資料が用意されました。

これらは、クリエーターが企業の採用活動の仕組みそのものを企画した事例。それぞれの案件を手がけた電通の小布施典孝氏(第3CRプランニング局 グループ クリエーティブ・ディレクター)と、吉川隼太氏(第2CRプランニング局 コミュニケーション・プランナー)は、企業や人々の活動にクリエーティブなアイデアを織り交ぜる「取り組みクリエーティブ」が今後価値を持つと考えています。その理由について、2人が対談で語り合いました。

(左から)小布施 典孝氏(第3CRプランニング局)、吉川 隼太氏(第2CRプランニング局)
(左から)小布施 典孝氏(第3CRプランニング局)、吉川 隼太氏(第2CRプランニング局)

採用活動に企業のDNAを。伊勢半の「顔採用」

吉川:今日はどんなテーマで話すのか、もう小布施さんがここにいる時点で分かってきました(笑)。

小布施:僕らは同じ案件に関わることも多くて、よく仕事の話もしています。最近よく話すのは、クリエーティブの活用の仕方。これまでのクリエーティブは、広告コミュニケーションにアイデアを入れるのが一般的だったけど、企業の事業活動や経営方針といった“取り組み”そのものにもアイデアを入れられるのではないかと。

電通小布施さん、電通吉川さん対談

吉川:確かに、僕たち飲み屋でも延々とその話をしてましたね(笑)。

小布施:それを僕らは「取り組みクリエーティブ」と呼んでいて。その可能性をここで話そうと思いました。ということで、まずは「顔採用」について吉川からお願いできる?

伊勢半「顔採用、はじめます。」
伊勢半「顔採用、はじめます。」

吉川:「顔採用」は、採用者を容姿で判断するという意味ではなく、好きなメイクや服装で面接に来ていただき、ありのままの自分を表現してもらおうという取り組みでした。就活というと、黒髪に薄めのメイクという“就活用メイク”が定番化している中で、フルメイクでもすっぴんでも自分らしいメイクや服装であればなんでも歓迎としました。また、エントリーには「私らしさ」を表現している写真の提出が必須で、その写真を通して自分を語ってもらうという募集の仕方をしました。そして、インスタグラムからの応募も可能にしました。

小布施:どうしてこういった採用活動のアイデアに行き着いたの?

吉川:最初から採用活動の企画を考えていたわけではなく、コンセプトを聞いているうちにそこに行き着いたというか。

電通、吉川隼太

伊勢半は「私らしさを、愛せるひとへ。」というブランドメッセージを掲げていて、それをもっと世の中に知ってもらう方法を考えていました。伊勢半は日本で初めてセルフメイク棚を導入したり、化粧品会社として初めて新聞にカラー広告を出したり、老舗で革新的なDNAがあることを広めたいというお題があったんですね。

ちょうどその頃、世間では「女性のメイクはマナーかどうか」という論争が起きていて。そこで、伊勢半として「メイクはマナーでなく、自分らしさを表現するものだと考えている」というメッセージを打ちたかった。ただ、普通の広告を出すよりもっと世間で議論になる方法がないかと話し合って、採用の仕組みから変えてはどうかと、顔採用の企画に行き着きました。

小布施:実際、大きな反響を呼んだよね。

吉川:発表した朝にヤフトピに載って、翌日から民放やNHKでも取り上げていただきました。その後、プロモーション取材が続くようになって、どんどん情報が広がっていきました。結果的に、この取り組みを通じて、「私らしさを、愛せるひとへ。」という一番伝えたかった伊勢半の企業思想をちゃんと伝えることができました。

クリエーティブの力で企業の活動にニュース性を

小布施:僕が関わったファイターズの案件は、札幌ドームに代わる新たな本拠地「北海道ボールパーク」をつくるための、中途採用です。ただし、転職サイトに募集要項を出すだけでは、もとからこの事業に興味がある人にしか見てもらえない。スポーツを超えた街づくりの要素もあるので、より広い範囲の人に知ってもらいたいという狙いがありました。

北海道日本ハムファイターズ「家族円満転職サポートツール」
北海道日本ハムファイターズ「家族円満転職サポートツール」

転職する際、北海道への移住が必要な人も出てくるでしょう。ネックなのは家族の理解ですよね。であれば、家族を説得するためのツールがあるといいんじゃないか、という着想から、この仕事の価値と北海道生活の魅力をプレゼンするための、自由にカスタマイズできるパワーポイント企画書を用意して、ダウンロードできるようにしました。ファイターズが、家族を説得するための「本気の企画書」をつくった、というユニークな取り組みそのものがニュース報道となって、中途採用の情報が拡散していくことを計算しています。

電通、小布施典孝

ファイターズの場合は、コアなファンがいて、彼らは球団関連の情報をくまなくチェックしてくれる。まずはその人たちに情報を届ければ、最初に広まる火種はできると思っていました。実際、5000人を超える応募があったので、一般的な中途採用の告知より認知が高くなったと思います。

吉川:顔採用も、採用視点のアウトプットで、伊勢半の認知度が約2倍に上がりました。企業の取り組みそのものにアイデアを入れているので、新しい企業の活動として、あるいは時事ネタとして、一般ニュースに取り上げられやすい。結果、企業としての知名度やブランドイメージも上がります。

クリエーターは「何を言うか」「どう言うか」だけを考える時代ではない

小布施:今は誰もがSNSなどで発信できる時代で、何を言うか、どう言うかという「SAY」の部分は世の中にあふれている。コモディティー化が進んでいるともいえます。もちろん、クリエーターとして、「SAY」の部分はこだわらないといけません。でも、さきほどの事例は「DO」の部分から工夫しているんですよね。「取り組み」というファクトがあるからこそ、ニュースになって広がりやすいのかなと。

吉川:ユーグレナが18歳以下のCFO(Chief Future Officer)を募集したのも、企業の取り組みにクリエーティブのアイデアを入れた事例ですよね。僕の前の席の後輩が中心となって手がけたのですが、やはり話題になりました。

ユーグレナ「18歳以下のCFO(Chief Future Officer)募集」
ユーグレナ「18歳以下のCFO(Chief Future Officer)募集」

この話の背景として考えていたのは、すべての広告コミュニケーションが「イメージクリエーティブ」と「ファクトクリエーティブ」に分類できるのではないかということ。前者は、いわゆる絵や映像で世界観を見せるもの。後者は、リアリティーやドキュメンタリー性。今回話したような「取り組みクリエーティブ」や、実際に触れるものをつくること。そんな意味合いなんですけど。

小布施:ついにその話が出ましたね(笑)。最近飲んでいると、いろんな広告に対して「これはどっち?」ってひたすら2人で分類してるよね。略して「イメクリ」と「ファックリ」って呼んで(笑)。

吉川:話してますね。マッチングアプリみたいに、次々に案件が出てきて「これはどっち?」ってスワイプするアプリがあったら、ずっとやってると思います(笑)。

電通小布施さん、電通吉川さん対談

小布施:吉川のその目線がきっかけで生まれたのが、僕らが一緒に手がけたロッテ「爽」の「お絵かき爽ハッピー」というキャンペーン。「アイスに絵を描く」という取り組み、ファクトをベースにした統合キャンペーンだよね。

吉川:広告コミュニケーションに、取り組みのアイデアを入れた形ですよね。その経験から、この考えが、企業の上流レイヤーでも活用できるのではないか、とさらに思うようになりました。

企業の上流レイヤーからクリエーターが関わる意味

小布施:カンヌライオンズの審査員を経験させてもらって、世界中のマーケティング事例やキャンペーンで気づいたのは、今、世界はコミュニケーションから発想するのではなく、「ブランドアクション」というものから発想をしているな、ということ。どんな「ブランドアクション」だと、その企業やブランドが持つ存在目的や意義という「ブランドパーパス」を体現することができるのか、まずはそこから考える。そして、そのユニークな「ブランドアクション」が生まれたら、それをコミュニケーションに落としこんでいく。特に今コミュニケーション領域は、デジタルの活用によってオペレーショナルなものに進化しているからこそ、これからはブランドアクションにクリエーティビティーが求められるのでは、と思いました。

3レイヤー概念図
3レイヤー概念図

吉川:今までのクリエーティブは、コミュニケーション部分を担ってきた。つまり、企業が「何を言うか」(WHAT TO SAY)、「どう言うか」(HOW TO SAY)、にアイデアを入れ込んでいたわけですよね。

小布施:そうそう。でも、今日挙げた事例は、もう一つ上のレイヤー、企業が「何をするか」(WHAT TO DO)、というブランドアクションを考えた。紹介した事例のように、コミュニケーションだけでなく、もう一つ上のレイヤーでもクリエーティビティーは活用できる。それが「取り組みクリエーティブ」の可能性だと捉えています。

吉川:クリエーターの視点が入ることで、世の中に響く打ち出し方がつくれます。そこは、強みになると思います。

小布施:どうすれば生活者が動くのか、世の中でニュースになるのか、SNSでリツイートされるのか。その感覚を持ってユニークなWHAT TO DOを開発するのが、これからのクリエーターの価値のひとつになると思います。ぜひ、そんな事例を増やしていきたいですね。