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土井英司さんに聞く、影響力のある“ジャンル別イノベーター”はどう生まれる?

ジャンル別イノベーターの時代No.3

2019/02/19

土井英司さんに聞く、影響力のある“ジャンル別イノベーター”はどう生まれる?

電通ギャルラボが注目する、特定ジャンルにオタク的な深い知識と情報を持つ「ジャンル別イノベーター」について、連載の第1回第2回で解説しました。

今、世の中で影響力が見られるインフルエンサーの中でも、特定のジャンルでイノベーター気質を発揮する、ジャンル別に影響力を持つインフルエンサーがいます。彼らを有効に活用するためには、彼らがインフルエンサーとしての地位を確立するまでのプロセス、あるいは彼らのブランドがつくられたプロセスと、その仕組みを理解する必要があります。そこで、「インフルエンサー×ジャンル別イノベーター」を生むプロセスと仕組みを理解した上で、活用方法を考えようというのが本連載の目的です。

今回は、同ラボの阿佐見綾香がエリエス・ブック・コンサルティングの土井英司さんにお話を聞きました。

土井さんは、メールマガジン「ビジネスブックマラソン」でのビジネス書評をメインに、新しいビジネスの潮流やアイデア、ビジネスモデルなどを紹介する「ビジネス書」ジャンルのイノベーターであると同時に、現在世界で1000万部売れている『人生がときめく片づけの魔法』の著書で知られる近藤麻理恵さんのようなジャンル別イノベーターのプロデュースも手掛ける存在。さらに、紹介した書籍を常にランクインさせる凄腕のマーケターとしても活躍されています。

連載第3回は、土井さんと「影響力のあるジャンル別イノベーターをどのように育てるのか」「ジャンル別イノベーターマーケティングを成功させる秘訣は何か」について掘り下げていきます。

<目次>

Ⅰ 影響力のあるジャンル別イノベーターの育て方
▼カテゴリーを創造し、独自ポジションを取る
▼BtoCのコミュニケーション、伝える技術でフォロワーを引きつける
▼コスト意識を変えて、タダで情報発信する
▼固有名詞でマスを捉えるAmazonのマーケティングを転用する
▼イノベーターが生まれそうなジャンルを見極める

KEY POINT
①「本質的な課題×その人らしさ」に独自ポジションのヒントを見いだす
②自分の業界の「暗黙知」になっていることを言語化する
③企業の外に出た自分の市場価値を上げるために、伝える技術を磨く
④同じジャンルの人からも他のジャンルの人からも欲しがられる「固有名詞」を活用する
⑤次世代を担うジャンル別イノベーターを見いだすために、マイノリティーに目を向ける

Ⅱ ジャンル別イノベーターマーケティングを成功させる秘訣とは
▼ファン目線でジャンル別イノベーターの共感ポイントを探る
▼自分の内側に意識を向け、自分が本当に欲しいと思うものを提供する
▼イノベーターを探す方法として「ウォッチャー」をつくる

KEY POINT
①マーケターが重視すべきはジャンル別イノベーターの共感ポイント
②ブランドとジャンル別イノベーターを思想で結びつける

影響力のあるジャンル別イノベーターの育て方

僕は著者を含め、人のブランディングも手掛けます。例えば30代後半のアナウンサーであれば、かわいいだけではやっていけないので、そこからどうブランディングして専門性を身に付け売っていくかを考える。つまり、専門家へと脱皮させ、マーケットに送り出すお手伝いをするわけです。さらに、専門家として各ジャンルでリーダー的存在となるためには、必要なことがいくつかあります。

カテゴリーを創造し、独自ポジションを取る

あるジャンルでトップになるためには、その分野にただ詳しいだけではダメです。音楽、ロックに詳しい人なんてたくさんいますよね。そのため、独自のポジションを取らなくてはいけない。デービッド・A.アーカー氏も著書『カテゴリー・イノベーション-ブランド・レレバンスで戦わずして勝つ』の中で言っていますが、一番インパクトがあるのはカテゴリーを創造することなのです。

近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』でいうと、片付けの世界にときめきが持ち込まれたことはそれまでになかった。その結果、アメリカのウォールストリート・ジャーナルのランキングで1作目と2作目が1位、2位を独占し、アメリカだけで300万部を売り上げました。イタリアでもランキング1位になるなど、その影響力が海外まで波及したのです。

80万部売れた『ゼロトレ』の著者、石村友見さんはもともと劇団四季の「ライオンキング」、ブロードウェイ「ミス・サイゴン」などに出演した女優ですが、ストレスが多い中で体型やコンディションを整えていた自身の体験から、ヨガレッスンやセミナーを提供してブレークしています。

このように、既存のジャンルから少しズラして、独自のポジションを取ることによって人気が出てくる人が増えていくかもしれません。

BtoCのコミュニケーション、伝える技術でフォロワーを引きつける

独自ポジションを狙おうとすると、「女優+ヨガ」というように既存のジャンルを組み合わせて新しいジャンルをつくることになり、ジャンルは細分化されます。それでも、それなりの規模のジャンル別イノベーターが現れ、マーケットで商売が成立するようになったのは、SNSとブログによりB to CのCを個人で顧客にできるようになったからです。読者とつながっておけばCの世界で自分のプロフェッショナリティーを生かして食べていける。そういう時代なのです。

ただし、Cを顧客にするために絶対必要なのが「書く」「話す」という伝える技術です。石村さんが今人気を集めているのは、書けるし、話すことができるからです。B to Cの世界では、このような説明する技術は絶対に必要なものなのです。

コスト意識を変えて、タダで情報発信する

伝える上では、「タダで発信する」というようにコスト意識を変えるべきです。ブログで書いていることを原稿料に換算したら書けなくなります。そうではなく、大事なのはマーケットをメイクすることなので、発信することで顧客リストを増やしていると考えるのです。

ちなみに、もし僕がカメラマンだったら、タダで超キレイにカップルを撮りまくります。そして、カメラマンとして有名になったら写真集を出して経費を回収します。プロのカメラマンがタダで撮ってくれたらうれしいですよね。何をやったら価値が生まれるか、何をタダでやってもらったら人は喜ぶのか、そういうことを考えて破壊的なことを実行するのです。

さらに、将来同業者が同じ手法で参入した時に生き残るために、手掛けるジャンルを尖らせることが重要です。上記の例でいえば、カップルしか撮らない、しかも夕暮れ時、など絞ること。その絞ったことが、一番皆が欲しいことであるのが重要です。どれを取るかのマーケティングセンスは未来を決めるのです。

固有名詞でマスを捉えるAmazonのマーケティングを転用する

固有名詞は人を集めることができます。今だからいえることですが、ジェフ・ベソス氏がAmazonを書籍から始めたのは、固有名詞が使えるからだと思います。書籍は著者の名前、題名、ジャンル、登場人物など多くの固有名詞で成り立っています。著名な作家名など、インパクトのある固有名詞が使えると、それを好きな人、それを探している人を集めることができるのです。Amazonのマーケティングはマスを捉えるためのほとんどの固有名詞を網羅したことで成功しました。

人は欲しいものが決まっている場合、固有名詞で検索をかけます。専門性が高い商品であれば、そのジャンルに興味がある人以外にはほとんど知られていないということもあります。どのジャンルでもカリスマ的な人がいて、カリスマ的な商品があります。自分の詳しくないジャンルで人気がある、自分の知らない固有名詞は、それを知らない人にとっても、何かのきっかけで知れば欲しくなる価値があります。

イノベーターが生まれそうなジャンルを見極める

僕は時代を対義語で読んでいて、その時代の空気に合ったキーワードを持っている人を探しています。

たとえば、東日本大震災が起こった年は「混沌」です。混沌の対義語は「秩序」だから、秩序が流行する。このタイミングで片付けが流行し、こんまりさんの本は売れました。同じタイミングで長谷部誠さんの『心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣』も売れました。人は乱れると整えたくなるのです。反対に、世の中が安定している時代は、無秩序で自由奔放なものが受けます。僕がお手伝いした方でいうと、旺季志ずかさんがそうです。

さらに、世の中の大きなトレンドは常にマイノリティーがつくります。マイノリティーがマジョリティーになる段階ですごいエネルギーが生まれる。僕が手掛けたビジネス書というジャンルも当時はマイノリティーでしたが、読者に社長が多く顧客リストにバリューがあったことに加え、ビジネス書ブームが起こったこともあり、一気にマジョリティーになりました。

では、次の強力なマイノリティーは何なのか。模索中ではありますが、今までの物理的な区分け以外のところから出てくるような気もします。例えば、アメリカのシリコンバレーに「ITのスタートアップみたいな人種がいる」といったように、「そういう思想の人間」というようなくくり方をするのではないでしょうか。

電通ギャルラボのKEY POINT

実際に、こんまりさんのようなジャンル別イノベーターを世に送り出された土井さんのお話はとても参考になりました。ギャルラボが今後ジャンル別イノベーターを研究していく上で注目したい、ジャンル別イノベーターが生まれるプロセスとその仕組みのポイントは、以下の5点です。

①「本質的な課題×その人らしさ」に独自ポジションのヒントを見いだす

専門的なスキルや知識は当然のものですが、そのジャンルにある本質的な課題、その解決策に、当人のルーツやキャラクターなどその人らしいエッセンスを掛け合わせるのがポイントです。新しいジャンルを開拓すると、その人ならではの新しい価値を提供することができ、確固とした独自ポジションを獲得できるのではないでしょうか。

②自分の業界の「暗黙知」になっていることを言語化する

同じ業界・会社で働いている間は、暗黙知的に身に付けた知識やノウハウを言語化する必要性がありません。しかしながら、別の業界の人たちには暗黙知を言語化して形式知に転換し、分かりやすく伝える必要があります。このようにして、需要のあるところに知識を提供できるようになると、自分の価値が上がります。

③企業の外に出た自分の価値を上げるために、伝える技術を磨く

日本でも終身雇用という概念が崩れ始めたといわれ、転職がブームになり、人生100年時代に自分の「好き」を仕事にしよう、自分の市場価値を高めようという機運が高まっています。そんな時代だからこそ生き残るためには、説明する技術は必要不可欠なのだということを再認識しました。自分のブランドが確立できれば、企業とコラボレーションして自分のビジネスをスケールアップすることもできそうです。

④同じジャンルの人からも他のジャンルの人からも欲しがられる「固有名詞」を活用する

最近、プロのカメラマン業界の中では定番のプロダクトだったカメラ「GoPro」が、一般市場で予想を大幅に上回るヒットを記録したことが話題になりました。

いくら興味のあるジャンルでも、全ての情報を自分だけで網羅することは不可能です。このため、ジャンル別イノベーターが発信する、普段の自分のフィルターでキャッチできない固有名詞は、貴重な情報になります。ジャンル別イノベーターの持つ情報が、もともとそのジャンルに関心がある人からも、そうでない人からも求められる理由はそういったところにありそうです。

重宝される情報を発信できるようになる人になるコツは、自分にとって「当たり前の情報」であっても、他のジャンルの人にとっては「貴重な情報」になるのではないか、そんなフィルターを持って、固有名詞に落とし込んで発信するということかもしれません。

⑤次世代を担うジャンル別イノベーターを見いだすために、マイノリティーに目を向ける

次にくるジャンル別イノベーターを考える際に注目したいのが、マイノリティーの存在です。新しい時代をつくるのは、新しいジャンルを創造して拡張させるパワーを持った人です。つまり次世代を担うマイノリティーが新たなジャンル別イノベーターになる可能性は高いといえます。そして、ジャンルを分ける際には、物理的な区分けだけではなく行動やマインドの共通点に目を向けてその思想でくくるという視点はとても大事だと思います。

電通ギャルラボの「#女子タグ調査」でも、見た目やキャラクターではなく、行動やマインドにハッシュタグをつけてグループ化しています。インターネットにより、同じ趣味・嗜好を持つ人たちが簡単につながることができるようになった今、表層的なカテゴリー分けではなく、行動やマインドの共通点、そこから見える思想に目を向けるという視点がとても大事だと感じています。

 

ジヤンル別イノベーターマーケティングを成功させる秘訣とは

では、企業側はそんなジャンル別イノベーターをどのようにマーケットに活用すればよいのでしょうか。マーケターとしての視点で僕なりに考えてみました。

ファン目線でジャンル別イノベーターの共感ポイントを探る

ジャンル別イノベーターは、それぞれのブランドがとても繊細なものです。というのは、彼らは個人だから、信用をなくしたら終わりなのです。自分の信念に反したものを紹介するとお客さんを失うので、絶対にしません。

そのため、お金や力で動かそうとするのではなく、彼らの信念がどこにあるかを知り、心から共感する素材を提供する必要があります。この人のフォロワーが何人で、どんな客層かという表層的なことよりも、どんな人生を歩んできて、何に共感して、何が敵なのかという思想を知らなければいけないのです。

自分の内側に意識を向け、自分が本当に欲しいと思うものを提供する

マーケターはそんな共感を得られる商品やサービスを提供する必要があります。そのためには、まずマーケター自身が「心の中で自分が本当に欲しいと思ったかどうか」が重要になります。

先日お会いしたカリスマ編集者の方が、編集長といつも「これ、本当に欲しいと思う?」ということを議論していると話していたのですが、そういうことをやっている出版社が今は伸びています。やはり、「使う側として本当に欲しいですか?」という自問自答を売る側としても誠意を持ってやっているかどうかは大事なのです。

イノベーターを探す方法として、「ウォッチャー」をつくる

マーケターにとっては、つくった商品やサービスを広めてくれる適切な人を見つけるのも難しい課題です。これはひとりひとり見ていくしかありません。例えば電通みたいな会社なら、担当のジャンル別イノベーターを持ち、そのウォッチャーになる。他の人は別の人を追いかけ、それぞれが情報を持ち寄る。

さらに、先ほど述べた共感ポイントごとに、いろいろなチームをつくるといいと思います。ある企業の共感ポイントについて、同じ共感ポイントを持ったメディアやジャンル別イノベーターはこれ、その先にいるお客さんはこれとチームを組むといった具合です。そして、ここで発生したムーブメントをどうマスにするかに力を入れるのです。

電通ギャルラボのKEY POINT

ジャンル別イノベーターをマーケティングにどう生かすかは、これからの課題です。土井さんのお話で印象に残った点についてお伝えします。

①マーケターが重視すべきはジャンル別イノベーターの共感ポイント

一番信頼できる情報を持っていると信用されているからこそ、影響力を持つジャンル別イノベーター。共感されないもの、彼らの信念に反するものはうそになってしまうから、広げてほしければちゃんと共感ポイントを見つけて提案するのが大事。考えてみれば当たり前のことですが、ともすれば見落としがちです。

②ブランドとジャンル別イノベーターを思想で結びつける

ジャンル別イノベーターがうそをつかなくていいよう、思想ごとに企業や商品・サービスとジャンル別イノベーターを結びつける仕組みを初めからつくってしまう。そうすればちゃんとフォロワーの心も動かせるマーケティングができると思います。

左から電通ギャルラボの阿佐見綾香氏、エリエス・ブック・コンサルティング代表取締役の土井英司氏

今回は、土井さんからジャンル別イノベーターを育てる具体的なポイントや今後のマーケティングのヒントを伺うことができました。次回はジェンダーレス男子として人気を集める、こんどうようぢさんとその仕掛け人、WEGOの丸本貴司さんをゲストにお迎えします。

電通ギャルラボ

2010年3月設立。

若い女の子を中心とする女性たちのパワーを活用し、企業だけでなく社会の活性化までを目指すガールズプランニングチームです。

さまざまな角度からの子たちのインサイト、情報行動などの環境分析を実施し、マーケティング戦略からソリューション提案、アウトプット制作、商品・事業開発、コンサルティングまで、幅広い事業領域でプランニングします。

電通ギャルラボの「ギャル」はパワフルな女性を表現する言葉。私たちが注目しているのは、見た目だけではなく、内面から輝けるパワーを秘めている女の子たちです。

彼女たちは新しいブームの火付け役となるだけでなく、日本経済を底上げし、さらにはこれからの世界を変えるキーファクターとなる存在。

彼女たちのパワーを引き出し、日本を、そして世界を元気にすることが私たちの目的です。