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男コピーライター、育休をとる。No.11

<書籍化記念>共働き×1歳児=残業ゼロ?

2019/03/08

ついに書籍化!書き下ろしも充実

育児休業から復職して、1年が経った。
本連載『男コピーライター、育休をとる。』はいったん完結しているのだが、1回だけ復活させてもらうことにする。連載がこのたび書籍化された。それを記念してのことである。
本の題名は、『男コピーライター、育休をとる。』(大和書房刊)。そのまんまのタイトルながら、中身はそのまんまではありません。

「男コピーライター、育休をとる。」
 

連載時の全原稿への加筆修正にとどまらず、約4万5000字の書き下ろしを加えました。分量的には、なんと全体の半分が書き下ろしということになる。きっと、ウェブで連載を読んでくださった方にも読み応えのある一冊になっているはずです。書籍は「物体」だから、包装してリボンをかければ(その程度の厚みはたぶんある)、誰かへのプレゼントにすることもできると思う。

さて、本のなかで語られているのは2018年の秋までの話なのだが、せっかくなので今回は、そこに書かれていない、直近の話ができればと思う。ここ何カ月かのあいだ(※1)に、わが娘コケコは急激に成長した。いまでは「二語文」(※2)をしゃべっている。
たとえばコケコは、「ありのままの見たい」などと言う。映画『アナと雪の女王』の例のテーマソングのMV(※3)を再生してくれ、という意味だ。あるいは、「メガネ、来た来た!(笑)」なんて言う。これは、映画『魔女の宅急便』を観ていて、キキにトンボが話しかけてくる場面(※4)。

毎晩、寝かしつけ担当である僕は、コケコに「桃太郎」の話を(アドリブで)語り聞かせる。それを1カ月続けた結果、コケコは「桃太郎」の骨子を、どうやら「ワンワンとアイアイとキジを率いた『赤ちゃん』が『バイキンマン』をやっつけにいく話」だという程度には把握しているらしい(※5)。
ところで桃太郎って、語ってみて気づいたんですが、鬼ケ島に上陸して以降のくだりをうまく話せなくないですか?どういう段取りで鬼を倒したんだ?細部が曖昧すぎるのだ。誰かポイントを教えてください。

40分かけて保育園から帰る

コケコの近況はさておき、僕の会社員生活における最大の変化は、毎月の残業時間がゼロになったことである。ああ、残業ゼロ。とうとうそうなったのだ。
ここ3カ月くらいで、生活スケジュールはだいぶ固まってきた。まずはそれを見ていただきたい。

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第9回第10回で書いたように、保育園への「送り届け」はスーパーフレックス勤務である僕の担当だが、最近では「お迎え」も週5日(週によっては4日)のペースで僕がやっている。つまり平日はほぼ毎日だ。注目してほしいのは夕方の分担である。

まず妻(時短勤務中)の動きはこうなる。
16時半、仕事を強制終了し、退社。自宅近所のスーパーで食材を買い、帰宅する。そして夕食の支度にとりかかる。それが17時45分頃だ。コケコと自分たちのぶんを兼ねた夕食を、45分ほどで用意する。ここまでを息つく暇もなく大急ぎでやる。

一方で、僕はどうか。
まず16時台に、妻にLINEで一言、念押しのメッセージを送る。「きょむかえいけます」。これは「今日もお迎え行けます」の略だが、最近ではさらに簡略化されて「きょむれます」という、虚無的な何かと勘違いしそうな不思議な文字列へと化けた。あらたな“わが家スラング”(※6)の誕生である。
で、17時10分に退社する。18時までに保育園に着かなくてはいけない(5分遅れただけで延長保育扱いになる)のだが(※7)、だいたい毎日ギリギリである。出先で終業した場合も、なんとか18時に到着できるように帰ってくる。

18時にコケコをピックアップ。保育士さんとすこし会話して、帰途へつく。
保育園から家までは、大人が歩けば8分で着く距離だ。だが、帰りはコケコを歩かせる。すると、道草に次ぐ道草、逆走に次ぐ迷走に次ぐ座り込み、などで30~40分はかかってしまうのだ。これは正直けっこう面倒くさくもあるけれど、ここで40分かかることは重要、いや、必要なのである。
なぜなら、一方そのころ妻は夕飯の支度をしているからで、コケコの道草に気長に付き合うことが、そのための時間稼ぎにもなっているのだ(※8)。そういうチームプレイなのである。
18時40分頃にコケコと帰宅。ほどなくしてコケコの夕食。あとは図の通りである。

結果的に僕は、毎日17時頃から仕事の連絡がほぼつかなくなってしまう。
コケコが車道に飛び出ないように両手を空けておく、食事を食べさせる、コケコの歯を磨く、絵本を読み聞かせる、膝に座らせてテレビを見せる、食器を洗う、風呂上りにドライヤーで髪を乾かす、桃太郎で寝かしつける、膝枕する、などなどやっていると、スマホをまともに操作する余地がなく、つまりは電話やメールの対応がロクにできないのである。

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イラストレーション:第2CRプランニング局 三宅優輝

なりゆきからの残業ゼロ

ところで、僕は(スーパーフレックスではあるものの)基本的にフルタイム勤務である。つまり電通では毎月、「1日7時間(※9)×その月の営業日数」のぶんは働かなくてはいけないわけだが、たとえば上に載せたタイムテーブルだと、1日に6時間45分しか働いていないことになる。毎日、15分ずつショートしていく計算になるのだ。そこはどうしているのか?

週に1日、もしくは2週に1日、まとめて長めに働く日を設けるのである。
6時間45分しか働かない日が1週間(5日間)つづけば、勤務時間は単純計算で75分足りないことになる。その75分をたとえば翌週の月曜日に補充し、長めに働く。その日だけは、保育園のお迎えや夕方のコケコのケアを妻にお願いする(余談だが、いま、コケコのケアを省略してコケアと書きそうになった)。

僕のお迎えが完全に週5日ではなく、4日の週もあるというのは、実はそういうわけである。たまに週3になることもある。
こうして、結果的には毎月、「1日7時間×その月の営業日数」ぎりぎりの勤務時間となる。時間外勤務はナシ。言い換えれば、残業ゼロというわけだ。
それで回せるボリュームの仕事しかしていないのです。良くも悪くも。抱える仕事の量が少ないから残業していないとも言えるし、残業する時間的余裕がないから多くの仕事を受けることができずにいるとも言える。そこはコケコとタマ…もとい、ニワトリとタマゴの関係だろう。

仕事と家庭のバランスでいえば、ちょっと家庭のほうに偏っているかなと思う。まあ、あえてそうしているのだ。なぜだろう。
子どもと過ごす時間をたくさん持ちたいから?もちろんそりゃそうだけど、それがすべてでもない。こうしないと妻に負担が偏って申し訳ないから?たしかに、共働きをフェアにしてみたいという思いは強いけれど、それだけでもない。要するに夫婦仲のため?それもあるが、それとてワン・オブ・ゼムだ。残業ゼロだとどんな感じになるのか実験してみたかった?それもまあ、あるか。
きっと、上に書いた理由、ぜんぶが混ざっている。望み(want)と義務感(should)と必然(must)とがごちゃっとミックスされた結果、こういう毎日になったわけだ。いまのところは。

そして、これは書いておきたいのだが、僕は別にこのかたちがベストだとは思っていない。コケコが1歳半から2歳へと向かうこの時期、家族に向き合って(家族から逃げずに)暮らそうとすると、致し方なくこうなってしまっている、というのが正確なニュアンスなのだ。
男女問わず、同じような勤務体系やワークスタイル(いや、スタイルと言えるのかさえそもそも怪しい)で働いているコピーライターには是非、話を聞かせてほしい。

ワガママをひとつ言ってみる

こういう生活を続けてみて気づいたのだが、ああ、俺、もうちょっと働きたいな、という素直な勤労意欲が湧いてくる自分もいる。学生時代、働くのが嫌で嫌でバイトすら続かなかった自分(※10)なのに、驚きである。
アイデアや企画を考える仕事の場合、量からしか生まれない質というのも確実にある。僕はいいコピーを書くために粘ることが好きだったんだな、という極めてシンプルな事実にたどり着いたのである。なんてまっとうなこと言ってるんだ?コピーライター歴16年なんですけど!でも、そうなのだ。
何が言いたいかというと、必ずしも「残業ゼロ、最高!」とは思わない。とはいえ、育児はできるだけ“ツーオペレーション”(※11)でやっていきたくもある。

そこで。たとえば、会社勤めを続けながら、家族に向き合う時間を減らさずにもうちょっと多く働けるワークスタイルがあるとすればそれはどんなだろう?と夢想してみた。タイムテーブルを見ればその答えは出るのだが、差し当たってはたとえばこんなものだ。あくまでも夢想ですよ。

①9時半から17時まで、働く。打ち合わせやプレゼンなど、他人と一緒にやらねばならないものはそこでやる。

②気が向いたら、22時から24時ぐらいまで(自宅で)働く。これは自分的に働き足りないと感じたときのための予備だ。自分一人で集中してやりたい作業も、そこでできるといい。

いまの僕にとっての(あくまでも個人的な)理想は、こんな感じである。これができれば仕事と家庭、それぞれに対する満足度が、いまよりもすこし上がることは間違いない。
だが、現状これはルール違反である。22時以降働くことは認められていないからだ。
それに実際、寝かし付けと同時に自分もダウンしがちな毎日でもある。体力をつけるために習慣的な運動をしたい→ただし僕はランニングが嫌い→水泳だけは好き→水泳をする時間はない(24時間営業のジムでもプールだけは深夜閉鎖される)という現実。悩ましいところだ(※12)。

いずれにせよ、いまや流行語になった「働き方改革」も「多様な働き方」も、大事なのは各人の望みにフィットしたワークスタイルということであって、理想的にはそれは「働く時間帯を規制する」ことではなく、「働く時間をもっと自由にする」ことだと思うのだ。
サラリーマンも不自由ばかりじゃない、という話をこの連載で書いてきたつもりだが、フリーランスで働いている人を僕が羨ましく思うのは、たとえばそんな点だったりする。まあ、これはいますぐ変わらなくても、未来へのワガママとして読んでもらえたらと思う。

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戦場のガールズライフ

未来。そう、未来だ。働き方もさることながら、わが子の未来のことを最近考える。“女の子の人生”についてである。ご存じのとおり、「女性の受難」がかつてよりも言語化され、可視化されるようになってきた昨今だ。差別やミソジニー(※13)に満ちた現実と、これから僕たちも戦っていくことになるだろう。“戦場のガールズライフ”だ。

桃太郎がもしも女の子だったなら、鬼をどうやって倒せばいい?鬼ケ島に上陸してから、どう物語を進めていけばいい? ひとつひとつ考えていかなくちゃならない。ありとあらゆるサルやイヌやキジたちの力を借り、ときに手を取り合っていきたいと思う。

いま確実に言えるのは、コケコが生まれて以降、世界や社会に対して僕の希望も不安も増大したということ。それは、以前よりもずっと未来に興味を持てるようになったということだ(不安も興味の一形態である)。子どもが、生まれた。しかもたまたま女の子だった。そのことが、自分の(他者に対する)想像力を助けてくれる気もしている。そんな視点からも、わが娘コケコには感謝している僕なのだった。

 

※1
具体的には11月から2月までのおよそ3カ月間を指す。書籍に書かれているのは、2018年の秋までのエピソードである。

※2
幼児が話す、2つの単語を組み合わせたフレーズのこと。主語と述語、形容詞と名詞、など内訳はさまざまである。

※3
2013年に全世界で大ヒットした「Let It Go」 (日本での愛称は「レリゴー」)の日本語版ムービー。

※4
1989年のスタジオジブリ版。当該場面は、コリコの街で暮らし始めたヒロイン・キキに、トンボが「マジョ子さーん!」と気安く声をかける一コマである。

※5
筆者がそのように語ったわけでは決してないが、「サルとイヌとキジを連れて行くのは誰?」「あ、か、ちゃん」「みんなでやっつけるのは誰?」「…ばいちーまん」といった娘との問答で明らかになった。

※6
“わが家スラング”については、連載の第2回および第7回を参照。

※7
延長保育が発動すると、1回ごとに追加料金がかかる。保育園入園から10カ月間でこれが発生したのは、まだ1度きりである。

※8
筆者の娘は、リビングダイニングの柵内にてひとりで待つことができないタイプであるため、台所での作業は娘の留守中に行うか、大人が2人いるときに行うほかない。そこで前者を採用している次第。

※9
6時間以上勤務する場合、必ず1時間(以上)の休憩を含むことになっている。たとえば昼食休憩などである。

※10
筆者はできるだけ出勤日の少ないバイトばかりを選んでいた。

※11
親の片方に育児の負担が偏重する「ワンオペレーション」に対して、夫婦二人のチームワークを機能させながら行う(ある意味、本来的な)育児を、ここでは便宜上こう呼ぶ。

※12
プールには監視員が必要であり、現状、24時間体制でそれを行えるジムはなかなかない。

※13
女性および女性性に対する、嫌悪・憎悪・軽視・蔑視などの総称。2010年代後半になり、これに起因するさまざまな事件が報道される機会や、語られる言葉が(世界的に)増えた。