アニメと広告の関係は新次元へ!No.2
ダンロップのアニメが2年連続で150万回再生された理由
2019/04/03
日本が世界に誇るアニメスタジオと電通が連携してクライアントのマーケティング課題を解決する「Dentsu Japanimation Studio」(以下、DJS)。今回ご紹介するのは、DJSが企画・制作し、2017年、2018年と2年連続で150万再生を達成したダンロップのオリジナルウェブアニメ「ROAD TO YOU」です。
『ROAD TO YOU -君へと続く道-』
https://www.youtube.com/watch?v=gLuZhjvAG8M
『ROAD TO YOU -星降る丘の約束-』
https://www.youtube.com/watch?v=JslkbEzI_b4
1作目「君へと続く道」からコンテンツプロデューサーを務め、電通退社後にindi Inc,でCEOを務める金永振氏と、2作目「星降る丘の約束」の企画・脚本を担当した電通CDCのプランナー・多々良樹氏に、「若年層に届くアドとしてのアニメコンテンツ」をつくるうえでのポイントを聞きました。
<目次>
▼ありそうでなかった。若年層に響く「アニメ」を使ったソリューション
▼ウェブアニメはブランディングに有効か?
▼コンテンツが飽和するウェブでは「届け方」のノウハウが重要に
ありそうでなかった。若年層に響く「アニメ」を使ったソリューション
──ダンロップのスタッドレスタイヤ「WINTERMAXX 02」のブランディングに当たり、アニメコンテンツを提案した背景を教えてください。
金:当時ダンロップには、テレビCMとは別に、ウェブを使って若年層向けのブランディングをやりたいという意向がありました。そのための施策を考えたときに、ウェブと若年層、どちらの条件にも当てはまるのがアニメだったんです。今の若年層にとって、アニメは既にメジャーカルチャーとなっていますよね。
多々良:数字でも出ていますが、若年層にアニメカルチャーが浸透していることを実感する場面は、仕事をしていても増えてきました。例えば最近入社してくる新人は結構当たり前のように好きなアニメの話をしていますし。僕がアニメファンの学生だった10年前は、まだアニメ好きな若年層の割合はそこまで多くなかったと思います。
金:2017年に現在のDJSの元となるプロジェクトを立ち上げることになり、電通社内でアニメに強いクリエーターを探したところ、白羽の矢が立ったうちの一人が多々良さんだったんです(笑)。
多々良:自分自身が長年のアニメファンでしたし、DJSに関わる以前からいくつもアニメ系の仕事を手掛けていたことから、お呼びがかかったようです。やはりアニメの仕事ができるのは嬉しかったですね。
金:ウェブでのアニメを提案したもう一つの狙いは、アニメファンの存在です。アニメファンはSNSでの発信に積極的な傾向があり、ウェブ上で良い作品を公開すれば、海外にまでシェアされていくということも当たり前に起こっています。例えばTwitterで作品情報や感想をツイートしたり、関連ツイートに「いいね」を押したり、コメントをしたりして、良い作品であれば積極的に広めてくれるということを、私自身も一Twitterユーザーとして横目で見ていました。
こうした状況にも関わらず、Japanimation、いわゆるアニメという日本のオリジナルコンテンツをブランディングに取り入れたコンテンツソリューションが、フレームとしてありませんでした。そこでアニメスタジオと提携し、ソリューション提供できればと考えたのです。
──結果として、「ROAD TO YOU」は、2017年、2018年と連続で150万再生を超えるヒットになりました。成功の決め手は何だったのでしょうか?
金:まず、単にアニメで若年層の目を惹こうという考えだけではなく、クライアントのブランドに寄り添ったコンテンツとしてつくったこと。アニメのトレンドを押さえたスタッフィング。そして何より、制作にかかわったクリエーターたちのクリエーティビティーが、広く受け入れられる決め手になったと考えています。
DJSでは制作の前に、ストラテジックプランナーがブランドに合わせた「アニメコンセプト調査」というレポートを作成し、その結果を受けて制作するアニメのテーマや方向性を決めています。ただし、調査はクライアントとの合意形成も含めた起点としてとても重要ですが、必ずしもそこに固執して物語をつくるわけではなく、あくまでもキックオフのための調査です。もっとも大事なのはクリエーターの感性ですから。例えば2作目の「星降る丘の約束」では、DJSのプランナーである多々良さんが物語の方向性をまとめあげてくれました。
多々良:コンセプト調査の結果、いくつか候補となるショートストーリーをDJSのストラテジックプランナーから提案されたのですが、その中で若年層からの好感度がもっとも高く、ダンロップのブランドイメージとも親和性が高かったのが「父と息子の家族愛」の話でした。でも、同じ家族愛でもさまざまなパターンが考えられますよね。自分の中でいくつも絵を考えて、車で雪道を走る緊張感がより伝わりやすい組み合わせなど、脚本を考えていく中で結構細かく設定を変えさせてもらいました。
金:DJSでは経験豊富なアニメ監督と一緒に取り組んでいますが、アニメ業界と広告業界で畑が違うので、「どのくらいできるのかな」と思われていた部分もあったと思います。そんな中、2作目で一番印象に残っているのが、アニメ監督も脚本を書かれる方だったにも関わらず、「脚本は僕が書きます」と多々良さんが宣言したことでしたね。
3~5分の尺を持ったストーリーで、最後まで視聴者の興味を惹き続けるためには、普段つくっている15秒や30秒のテレビCMとは違うアプローチが必要になるので、まさに挑戦でしたが、多々良さんはじめ電通のスタッフがアニメ好きだったことと、監督とも活発に意見を交換することができたので、最終的にきれいにまとめることができました。DJSとしても、今後に向けて大きな経験値が得られたと思います。
ウェブアニメはブランディングに有効か?
──ダンロップの2作を手掛けた今、ウェブアニメはブランディングに使えるという手応えはありますか?
金:もちろんターゲットにもよりますし、つくり方にもよりますが、ブランディング施策の選択肢として有力だと思います。DJSの取り組みは、単体でアニメをつくって終わりというものではありません。提案段階からストラテジックプランナーが入り、ターゲットをしっかりと分析して、全体キャンペーンの中でどう連携させるかというところまでを考えています。例えばタイミングや訴求内容を、マスキャンペーンと連動させてカスタマイズすることで、若年に向けたコミュニケーションとして厚みを持たせる。そこまでできれば、今回のようなウェブでの短尺アニメはブランディングにとても有効だと思います。
従来はテレビなどマス媒体がブランディングの主戦場でしたが、ウェブ上でも今回のようにコンテンツを活用すれば、ブランディングに効果を発揮できます。ダンロップもテレビとウェブではそれぞれ違うコミュニケーションでブランディングを行っていますが、媒体やプラットフォームで役割を決めつけず、コンテンツ起点で考えることがより重要になっていますね。
──「ROAD TO YOU」はダンロップのスタッドレスタイヤ「WINTER MAXX 02」のPRとして制作されたものですが、作品内でタイヤを露骨に出すということはしていませんよね。
多々良:「雪道でもタイヤはしっかり止まります」ということを前面にアピールするのではなく、「物語があって、その中でタイヤがいい役割を果たしている」ような表現を心がけました。実はここは僕も葛藤したところで、もっとタイヤを出した方がいいんじゃないかという話もしましたが、金さんからは「広告ということを意識しすぎず、あくまでも一つのアニメ作品をつくる気持ちで挑んでください」と言われていました。とはいえ、もちろん、ムービーの最後に「ダンロップ」という名前が表示されても違和感がないようにまとめました。
金:若年層とのコミュニケーションは、多くのクライアントが共通して抱える課題です。でもそこで売りたい商品を押し出すのではなく、コンテンツをしっかりつくって、ブランドと紐づけて届ければ、ブランドと顧客の強い接点ができるという前例はつくれたと思います。
──「良い作品」をつくり上げるために大切にしたのはどんなことでしたか?
多々良:第一は、アニメスタジオに綺麗な絵をつくっていただけそうなシチュエーションにすることです。そこで、2作目では「夜空の星」をテーマにしました。加えて、短い時間の中で視聴者の感情を動かすこと。そのために、どこかに「驚き」も盛り込むことを意識しました。お父さんが亡くなっていることを直接は描かなかったのですが、最後に娘の“ゆい”がお父さんからの手紙を読むシーンで、見ている方が「ああ、やっぱりそうだったのか」と気づき、ちょっとグッとくるような構造にしました。
金:コンテンツとして「良い作品」をつくるためには、監督とのコミュニケーションも大事ですが、クライアントと「販促的なクリエーティブ開発ではなく、アニメコンテンツを作品として成立させることでブランドをつくる」という戦略を共有することも欠かせません。そこが共有できることで、アニメスタジオの優秀なモノづくりのパワーを生かす形で制作できたと思います。
コンテンツが飽和するウェブでは「届け方」のノウハウが重要に
──公開後のSNSユーザーやメディアからの反響はどうでしたか?
金:おおむね狙い通りでした。実際、SNSの感想やシェアの様子を見てみると、「ROAD TO YOU」を気に入ってくれた方々はダンロップにも好意を持ってくれていますし、全体検証でも好意度が向上していました。
1作目のときに確信したのが、「良い作品をつくり、かつ届ける工夫をすれば、アニメファンは確実に反応してくれる」ということです。特に鍵となるのが「届ける」という部分、つまりPRプランニングです。
どのタイミングで、どこでどう取り上げてもらうか、そしてSNSで広く拡散してもらうか。アニメ系メディアと一般メディア向けでは、記事として取り上げてもらうための重点要素が変わってきます。
多々良:ニュースバリューを織り込む企画のつくり方としては、例えばパートナーとなる参加クリエーターのアサインの仕方があります。電通CDC鹿間天平氏のチームが企画した1作目「君へと続く道」では、『最終兵器彼女』などのヒット作を持つ漫画家・高橋しん先生にキャラクター原案を、若年層に人気のボーカロイド楽曲を数多く手掛ける若手アーティスト・須田景凪(バルーン)さんに主題歌を依頼しています。さらに「神谷浩史さん×沢城みゆきさん」という男性・女性声優トップのお二人が組まれるという、他では見ることのできないような組み合わせの全体設計をされていましたが、非常に効果的だと感じました。
──DJSの今後に向けて、どういった課題がありますか?
多々良:今はアニメを使ったウェブコンテンツも増えてきています。競合が増える中で、DJSの取り組みをどう位置付けていくかということは考えていきたいですね。電通の強みとしては、連載第1回でもご紹介したように、戦略立案からPDCAまで請け負う広告会社としての体制と、アニメスタジオとの強いリレーション、そしてもう一つグローバルなネットワークというのもあるのですが、詳しくは今後の連載でお伝えしていければと思います。
金:アニメに限らず、コンテンツが飽和する中で、「いかにして届けるのか」という部分はますます重要になります。2作目では、1作目に続いて楽曲を提供してくれた須田景凪(バルーン)さんがメジャーレーベルからアルバムを発売するタイミングと、動画の公開タイミングが重なったので、露出をお互いに調整することでWIN-WINとなれるようなPRプランニングを設計できました。アーティストにとってはアニメニュースが作品情報に関心を持ってもらう入り口のニュースとなりますし、逆に須田景凪(バルーン)さんの作品情報を通じて「ROAD TO YOU」の存在に気づいてもらえる形です。
多々良:コンテンツの広告活用に当たっては、一緒に作品をつくるアーティストやパートナーともお互いメリットを生み出していくような協力関係をいかにデザインしていくかも一つの鍵になると思います。